「組織的な抗議もあった」あいちトリエンナーレ「表現不自由展」再開を目指す方針、津田氏

    第二次世界大戦中の慰安婦被害者を再現した「平和の少女像」や、昭和天皇の写真をコラージュした作品を燃やす映像に抗議が殺到し、中止になったあいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」。再開をめぐる、津田大介芸術監督や実行委の見解は。

    愛知県で開催中の、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」でテロ予告などを理由に中止になった「表現の不自由展・その後」。

    出展している海外作家が抗議の意思から展示を中止したり、再開を求める署名活動が進んだりしているなか、トリエンナーレの芸術監督でジャーナリスト・津田大介さんが日本外国特派員協会での会見で「会期中再開を目指したい」と語った。「私の一存では決められないため、明言はできない」ともしている。

    一方で同日、同じ会場で不自由展の実行委メンバーも会見を開き、早期の再開に向けた協議を開くよう求めた。

    8月1日に開幕したあいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」は、全国各地で展示が中止になったり、展示に圧力を受けたりした作品を集め、日本における表現の自由について問題提起するために企画されたもの。

    なかでも第二次世界大戦中の慰安婦被害者を再現した「平和の少女像」や、昭和天皇の写真をコラージュした作品を燃やす映像に、抗議が殺到した。

    展示内容については、大阪府知事の吉村洋文氏や大阪市長の松井一郎氏をはじめとする政治家も、不快感を表明。

    また、菅義偉官房長官が会見でトリエンナーレに対する文化庁の補助金について「精査したい」と言及したほか、トリエンナーレを共催している名古屋市の河村たかし市長が、愛知県の大村秀章知事に中止を要望。その後も抗議はさらに拡大した。

    8月2日朝には愛知県知事宛てに、「ガソリン携行缶をもってお邪魔します」というテロ予告のFAXが届いた。

    こうしたことから、「円滑・安全な運営の担保ができない」などの理由で、3日目で同展の中止が決定された。

    「組織的」な抗議も?

    津田さんは9月2日に開かれた会見で、「政治家が展示内容に介入し、官房長官が補助金に言及したことには驚いた」としながら、「圧力」を受けた中止ではない、と否定。

    一方、電話による抗議は過去の事例などを踏まえて対策を想定していたものの、いわゆる「電凸」(でんとつ。電話突撃を略したネットスラング)は予想を超えた激しいもので、スタッフを疲弊させ、トリエンナーレの組織機能を一時停止させたという。

    さらに京都アニメーション放火殺人事件を彷彿とさせるテロ予告もあったことから、「苦渋の決断」で中止を決めたと強調した。

    また、「ネット上で抗議先や抗議方法に関するマニュアルが拡散されていた」とも指摘。

    「電話口で紙をめくる音が聞こえ、その際の質問内容が似通っていた」「会場を貸していた民間企業に抗議が入り、展示内容とは無関係だと言うと『組織的抗議はやめてやる』と言われた」などの証言もあることから、一部の抗議は「組織的に広がっていた」とした。

    再開のためのハードルとは

    「もともと僕は2015年のこの企画を見て感動し、パブリックセクターで実施して議論のきっかけにすることができれば、大きな意味があると思っていました。僕自身、展示が3日で終わってしまったことを全く納得していない」

    そう語る津田さんが示した「再開へのハードル」は、以下の5点だ。

    1. 脅迫メール犯の捜査進展
    2. 会場警備体制の強化
    3. 苛烈な電話抗議・脅迫・晒し対策
    4. 検証委員会の中間報告(9月中旬を予定)
    5. 不自由展作家、不自由展実行委、トリエンナーレ参加作家、愛知県民その他有識者とのオープンディスカッション


    「このハードルをクリアして、会期中での再開を目指したいと思っているが、一存で決めることもできない。明言することはできない」

    安全の問題ではなく「検閲」

    一方、実行委員会側も津田さんの直後、同じ会場で会見を開いた。

    津田さんは中止に到るまで「実行委と協議を含めた双方向のやりとりがあった」としたが、直後の会見で実行委側は「契約に基づいた誠実な協議は果たされず、展示は強制的に終了された」と批判した。

    「大村知事や津田監督は、今回の中止が検閲ではなく安全の問題だと主張しているがそうは思わない。作品を見せないようにしたこと、表現の自由を侵害した行政の判断は検閲に当たります」

    「言うまでもなく、作品を視察した上で県知事に中止を申し入れた河村名古屋市長の発言、芸術祭に対する補助金支出の見直しに言及した菅官房長官の発言は作品の内容に踏み込んだ明らかな政治圧力で、表現の自由を侵害するものと考えます」(岡本有佳さん)

    実行委側はあわせて、トリエンナーレの運営側によってSNSでの投稿禁止が決められたり、メディアの取材規制がされたりしていたことにも、「報道の自由」を侵害しているなどとして、不満を表明した。

    「表現の不自由展の作品の多くが、歴史認識や天皇をめぐって検閲にあった作品ばかりで、これらはこの国が抱えている表現の自由をめぐる最も深刻な問題です。トリエンナーレ側は、そもそもこうしたテーマをメディアが取り上げること自体を快く思っていないのではないか。メディアを通じてすら展示内容にアクセスできない環境が、憶測や偏見を助長したとも言える」(小倉利丸さん)

    「表現の自由」のために

    実行委側は、過去の展覧会の経験を踏まえ、「検閲や政治的圧力、抗議や警備体制」の問題を心配していたという。

    「たった3日で中止を決定した」運営側の抗議や警備対策には準備不足があったと指摘。運営側には「再開のためにできることはまだまだある。しなければならない」とした。

    会見で、実行委メンバーのアライ=ヒロユキさんは、こうも語った。

    「深刻になりつつある検閲状況を提示するための展覧会が、圧力と検閲のために中止することは、自らの身を以っていかに日本の検閲がひどいかを示してしまったことになる。私たちの望みは、この状況をひっくり返して日本に表現の自由が生き続けることです」

    会見後、津田さんと実行委側は協議を再開する方向で合意したという。