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「ドラクエをやってるイメージ」で月収100万円 “トレンドブログ”運営者が語る、その実態とは

「犯人は?顔写真は?」などと、読み手の興味をそそるようなタイトルでクリックを誘う「トレンドブログ」。その内容はほかのサイトの記事の引き写しや、単なる憶測に留まっていることがほとんどだ。いったい、誰が何の目的で運営しているのだろうか。

事件や事故が起こるたび、ネット上に大量に生産される「トレンドブログ」というものがある。

「犯人は?顔写真は?」などと、読み手の興味をそそるようなタイトルのものが多いが、その内容はほかのサイトの記事の引き写しや、単なる憶測に留まっていることがほとんどだ。

デマの拡散起点としても問題視されていた。いったい、どういう人物がどのような目的で運営してるのか。BuzzFeed Newsは、ある運営者に取材した。

「トレンドブログでは、とにかく注目されてるものを扱います。TwitterのトレンドやYahoo !Japanのトップなどを参考にしていますね。災害、芸能、事件、事故など。今注目されていればなんでも良いので書きますが、特に芸能人の熱愛や結婚は書きやすいです」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、関東地方に暮らす30代の男性だ。元々はシステムエンジニアをしていたが、いまでは”専業”でブログ運営をしている。

ジャニーズ系に特化したブログや、趣味系のブログなど、10個ほどのアフィリエイトブログやトレンドブログを同時に掛け持っており、これまで配信した記事は3000を超えるという。

「何が当たるかはわかりませんが、ワイドショーはよくチェックします。あそこで取り上げられているものはやはり、注目が集まり検索されやすい」

月の収入は数十万円以上。「サラリーマン時代よりも多いですね」と笑う。ひとつのトレンドブログで月間200万PV、月収100万を超えたこともある。

「一番読まれた記事は、『紀州のドンファン』に関するトレンドブログでした。あの時はすごかった」

そもそも「トレンドブログ」とは?

そもそもトレンドブログとは、以下のような特徴のあるブログ群を示す総称だ。

  • ユーザーが検索しそうなキーワードを集め、先回りして記事化しする
  • 検索エンジン対策(SEO)を施して表示される順位を上げる
  • 検索からユーザーを流入させてページビューを得て、広告収入を稼ぐことを主な目的とする


社会の注目が集まる事件・事故が発生するたびに、容疑者のプロフィールや顔写真を紹介するといった触れ込みのトレンドブログの記事が、大量に作り出されている。一方、ブログの運営者や筆者の情報がきちんと公開されていることは少ない。

実際、川崎・登戸で2019年5月に起きた殺傷事件では「犯人は在日?」といったタイトルのトレンドブログが相次いでアップされ、デマを拡散する役割を担った。

京アニ放火殺人事件でも、「NHKのディレクターと犯人が知り合い」という噂を、ディレクターの顔写真や個人情報とともに掲載したサイトが出て、NHKが公式に否定する事態となった。

さらに、茨城県の常磐道であったあおり運転事件では、まったく無関係の女性が容疑者であるかのような記事を一部のブログが拡散。女性側は法的措置を検討していることを明らかにしている。

トレンドブログを始めたきっかけ

BuzzFeed Newsの取材に応じた男性がトレンドブログをはじめたのは、いまから1年半ほど前のことだ。

働いていた企業の残業が重なっていたことから、自分の稼ぎ口を探しているさなか。セミナーでブログのノウハウを教えてもらったことがきっかけだった。

「作業としても面白いし、自分のアウトプットとしてブログが出せる。スキルにもつながるなと思い、初めてみたんです」

月に100〜150本の記事を書き、「とにかく数をこなすこと」でトレンドブログの感覚をつかんだという。検索の上位に表示させるコツは「センス」だと胸を張る。

「遊んでいるような感覚。ドラクエをやっているようなイメージですね。レベルを上げていこう……みたいな。楽しんでやっています」

当初はマスコミが集まっているところに同行して取材を試みたこともあったが、こう断言する。

「取材は費用対効果が悪いので、やめました。伝えることではなく、稼ぐことが目的なので」

”一般人風”のSNSアカウントも

男性がSEO対策で狙っているのは、検索キーワードが「二語以上」の言葉だ。

「一語は大手メディアが強いので、狙いづらい。たとえば『京アニ / 事件』『容疑者名 / 画像』なんかを狙いますね。特に容疑者名などは報道されたら、すぐに入れます。新しいワードは強いんです」

もう一点、大切なのは自らの「意見」を入れることだ。似通ったブログが多い中で、差別化を図る狙いがあるのだという。

「意見を入れると、オリジナル記事だと判断される。『こういう事故があったけれど、仕方ないと思う』『私もこういうことがあったけど……』のようなものでもいいですし、『ひどい』『悲しい』といった”感情”でもいいんです」

SEOだけではなく、SNSでの拡散も狙っている。Twitterには「一般人風」のアカウントを10以上持っており、記事をツイートしているのだという。

かつては”誤報”も

そんな男性にトレンドブログの内容の信頼性などが問題視されていることについて聞くと、このような言葉が帰ってきた。

「根拠のない推測をしたり、間違えたり、差別をしたり。無関係の人を傷つけたりする記事はよくないと思っています。細心の注意は払っています」

かつては男性もアクセスほしさに速さを重視し、”誤報”を出してしまったこともあったという。

「初期の頃でしたが、すぐに削除しました。煽り見出しはたしかに目立てるけれど、信頼性が下がり、検索順位も上ではなくなる。結果としてそれはリスクになりますから、できる限り大手サイトなどを根拠にするようにしています」

マスメディアの撮影した動画や写真、一般人のSNSプロフィール写真などの無断転載が問題視されている点についてはーー?

「著作権に関しても、指摘されたらその都度削除するようにしています。いまのところ、大きな問題になったことはありませんね」

外注先は主婦

半年ほどで、数百万PVを稼げるようになったという男性。自分の好きなジャンルの記事を自ら執筆する傍で、ブログを複数立ち上げ、記事の外注もするようにもなった。

「同業者が多いので、とにかくスピード勝負。毎日書くのは根気がいる作業なので、あまり続かないで辞めていく人もいますね。結構忙しいんですよ。それに、ずっと監視しているのはものすごく大変なので……」

書き手は、クラウドソーシングを通じて募る。簡単なトレーニングを経て、その内容次第では、継続的に仕事を依頼する。

単価は一記事300〜600円程度。クラウド型のコミュニケーションツールを使ってやりとりする”ライター”は40人ほど抱えている。主婦が多い、という。

「子育てをしているような方々にとっては嬉しい収入なのではないでしょうか。ちゃんと書いてくれる人は単価をあげていきます。1日10本書いてくる人もいますよ」

それだけではない。いまではトレンドブログを始めたい、という人たちに「稼ぎ方」を教えている。その料金は半年間で40万円と高額だが、生徒は数人ほどいるという。

いつまで食べ続けられるか

とはいえ男性は「トレンドブログで食べ続けられるのかは不安ですね」とも語る。

京アニの放火殺人事件後に、デマを書いてしまった複数のブログの広告がGoogleによって剥奪されたという噂が広がったからだ。

「それ以来、事件事故の犯人や被害者のプロフィールまとめなどの記事はかけないと判断しました。一旦、様子見ですね」

いまや専業ブロガーとなった男性にとって、死活問題となるのは「稼げるか、稼げないか」。だからこそ、いまでは”ポスト・トレンドブログ”を見据え、YouTube動画なども始めている。

「トレンドブログが問題視されている中で、いつ剥奪の範囲が広がるかもわからない。そうなれば、トレンドブログにこだわる必要はありません。ほかにも稼ぐ手段は、色々ありますから」


BuzzFeed Newsはフェイクニュースやデマ、まとめサイトやトレンドブログなど、インターネット上の情報をめぐる取材を進めています。何か情報をお持ちの方は、筆者(kota.hatachi@buzzfeed.com)までご連絡をお願いいたします。