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丸川五輪相「ワクチン1回で一次的に免疫」発言がダメな理由。専門家は「安全な開催には2回接種が必要」と批判

組織委が確保した大会ボランティア7万人分のモデルナ社製ワクチン。2回目の接種は7月31日以降になり、抗体ができるにはさらに2週間程度を要するとされているためオリンピック開催期間には、間に合わない。

東京オリンピック・パラリンピックのボランティアに対するワクチン接種が大会期間に間に合わないとの指摘に対する、丸川珠代・五輪担当相の「1回目の接種でまず一次的な免疫をつけていただく」という発言が批判を集めている。

専門家は「一次的な免疫という医学用語は存在しない」と指摘。効果がはっきりしていない1回接種ではなく、「少しでも安全に開催するためには、関係者のワクチン2回接種が必要不可欠」としている。

丸川氏の発言があったのは、6月29日の定例会見。組織委が確保した大会ボランティア7万人分のモデルナ社製ワクチンに関する質問だった。

ボランティアの接種が始まるのは6月30日で、2回目の接種は7月31日以降になる。抗体ができるにはさらに2週間程度を要するとされているため、7月23日から8月8日までのオリンピック開催期間には、間に合わない。

報道陣からはこの点について、「十分に抗体ができていない状態でボランティア活動に関わることになるになる」「輸送などのコントラクター(*請負業者)の方も同様のケースがある」との指摘があがった。丸川氏の回答は、以下の通りだ。

そもそもワクチン接種を前提としないでも安全な大会運営できるよう準備を進めていった中で、より安全安心な状況を作っていくという趣旨からワクチンの確保、また接種体制の整備を東京都と組織委員会に調整をしてもらいました。

そして、これまで確保したワクチンについてはまず、選手に近い関係者からうっていくということを一つの考え方として進めてまいりまして、実際にボランティアの方、運営関係者の方へのご案内も選手に近いところから順番にしていると伺っております。

ボランティアの中にもですね、65歳以上の方がいらっしゃったり、地域や職域で接種される方もいらっしゃいますので、そうしたことを勘案しながらできるだけはやい段階で、接種していただきたいと思っております。

1回目の接種でまず一次的な免疫をつけていただくということ、さらにパラリンピックに参加される方もいらっしゃいますので、どの時期に活動されるかというところを見ていきながら、組織委員会にしっかりと頑張っていただきたいと思っております。東京都のご協力にも感謝しております。

専門家の見解は?

丸川氏の発言で批判を集めたのが「1回目の接種でまず一次的な免疫をつけていただく」という発言だった。なお、この「いちじてき」という言葉は当初「一時的」と報じられたが、その後内閣官房から「一次的」であるとの指摘があったと追記されている。

そもそも、日本で接種が進んでいるワクチンは、どれも2回の接種が必須となっている。1回だけの接種では十分な効果が立証されていないからだ。

厚労省によると、「十分な免疫」ができるのは、ファイザー社製で2回目の接種後7日ほど経ってから。モデルナ社製で2回目の接種後から14日以降とされている。

新型コロナウイルス感染症やワクチンに関して正確な情報を発信するため、日米の医師らが運営する「こびナビ」の副代表を務める木下喬弘医師は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「『一次的な免疫』という医学用語は存在しないと思います。2回接種のうちの1回目だけを終えて、免疫をつけるという意味なのでしょうか?」

そのうえで、ボランティアなど大会関係者の2回接種が終わっていないまま開催に至ることについて「公衆衛生学的な問題点」と指摘。こう語った。

「ボランティアの方が2回の接種を終えられないことが問題視されている中で、『1回目の接種はできます』というのは返答になっていません。オリンピックの感染対策が詰めきれていなかったということがわかる実例になってしまっているように感じます」

「1回接種」ではダメな理由

なぜ、「1回の接種」だけではダメなのか。木下医師は、2回接種に比べ抗体価の上昇が低いことを理由にあげる。

「ワクチンの有効性は『免疫原性』(*抗体が生まれる性質)『感染予防効果』『発症予防効果』『重症感染予防効果』など様々な尺度で評価可能です。この中で、『免疫原性』は最も評価が容易ですが、1回接種は2回接種に比較して抗体価の上昇が低いことは明らかです」

また、1回接種による効果の知見が固まっていないとも指摘する。変異ウイルスの出現により、不確実性が高まっているという。

「1回接種でも一定の『感染予防効果』や『発症予防効果』があるという報告もありますが、この点についてはまだ十分知見が固まっていないといって良いと思います」

「特に、変異ウイルスによる免疫逃避(*得られた免疫を回避すること)を考慮すると、1回接種でどの程度臨床的な効果が得られるか、更に不確実性が大きいです。実際、デルタが優勢になってきているイギリスからの報告では、1回目接種者でも感染が拡大していることが可視化されてきています」

そのうえで木下医師は、丸川大臣の「ワクチン接種を前提としない」との発言に対し、こう苦言を呈した。

「『ワクチン接種を前提とせずに安心な大会を開催する』なんてことは不可能だと思います。これまで1年半もの間、様々な感染対策を行っても市中感染が十分に抑え込めていないのに、オリンピックだけがうまくいくという保証が全くありません」

「世界中から人を集めて、観客を動員して人流を増やすという、極めて感染対策には不利な条件のイベントを少しでも安全に開催するためには、関係者のワクチン2回接種は必要不可欠だと思います」