沖縄県北部で2016年、日本政府が進めていた米軍のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設事業をめぐり、内閣府の和泉洋人首相補佐官のものとされる発言が注目を集めている。
和泉補佐官は同年9月、米軍施設の隣接地に施設を保有する電源開発(Jパワー)の北村雅良会長と首相官邸で面談。協力を要請し、見返りとして将来の便宜供与を示唆していた可能性がある。Jパワー内部で作成されたとみられる面談のメモで、明らかになった。
この内部メモについては、地元紙・沖縄タイムスが12月24日に特報。BuzzFeed Newsも同様のメモを同日に入手し、Jパワーに取材した。同社はこのメモが社内のものかどうかについて「確認できていない」としている。
一方で沖縄防衛局も取材に、Jパワーの施設の一部をヘリパッド工事関係者の休憩などのため、2016年10月から借り受けていたことを認めた。施設の利用は、メモに記録された面談の約1カ月後から始まっていた。同社が実際に要請を受け、容認に動いた可能性がある。
内部メモによると、2016年9月14日午前、首相官邸に北村雅良会長が訪問し、和泉首相補佐官と面会。
「沖縄北部ヘリパッドの件でのお願い」として、「何とか年内、オバマ政権のうちにケリをつけたい」などと述べ、同社の「沖縄やんばる海水揚水発電所」の施設利用に関する協力を要請したとされる。
2016年当時、沖縄県国頭村と東村にまたがる米軍専用施設の「北部訓練場」が広がっている一体では、米軍が訓練に使うヘリパッドの工事が進んでいた。
北部訓練場7500ヘクタールのうち4000ヘクタールを返還する代わりに、残された訓練場に新たなヘリパッドを6ヶ所建設するという日米間の取り決めに伴うものだ。
ヘリパッドに囲まれる形となる東村高江区では反対運動が続いていたが、先に完成していた一部のヘリパッドでオスプレイが離着陸訓練を実施していたことなどから激化。
道路への座り込みなどによる抗議で工事の進捗が遅れていたなか、警視庁や全国から機動隊員が集まったり、陸上自衛隊のヘリコプターが重機や車両を運ぶために動員されたりするなど、異例の対応が取られていた。
圧力、便宜… メモの生々しい内容
メモによると、2016年9月14日午前、首相官邸にJパワーの北村雅良会長(写真右)が訪問し、和泉首相補佐官(同左)と面会した。
和泉補佐官は「沖縄北部ヘリパッドの件でのお願い」として、「何とか年内、オバマ政権のうちにケリをつけたい」などと述べ、「沖縄やんばる海水揚水発電所」の施設利用に関する協力を要請したとされる。
メモに記録された補佐官の発言内容は、以下の通りだ。Jパワーが一度は協力を断ったことに触れながら、「中立とかいうのは勘弁して」というなど、圧力とも取られかねない発言もある。
「米国政府は、日本政府は沖縄関連で何もしていないと見ている。本件は、日本政府も汗を流している証拠として、20年間、放置されていた件を動かした」
「反対派の活動もかなりのもので、あと3か月で完成させるには、JPから建屋、水、燃料タンク等の協力を得たい」
「先週、事務局間でお願いしたところ、地元に防衛省に協力していると認識されるのは避けたい、中立を守りたい、と断られたとのこと」
「本件は官邸で官房長官直結で私が仕切っており、一省庁の問題ではなく、国の問題。沖縄県も『歓迎』とは言わないが、水面下では本件はやってくれ、となっている。反対は活動家だけ」
「JP(*Jパワー)の懸念は理解するが、国が米国との関係の中で急いでいる事業、と受け止めて、協力して欲しい。中立とか言うのは勘弁して下さい」
一方、北村会長は「本件で現地での対立が深まっていて、JPが協力をすると、地元紙的に、JPも悪者にされるのはつらいところ」としながら、「国の強い要請と受け止め(…)作業環境という人道上の問題でもある」として要請を受諾した。
これに対し和泉補佐官は「ありがたい。下司審議官のラインで相談させる。海外案件は何でも協力しますから」と応じた、とメモには記録されている。便宜供与を示唆したと捉えられかねない発言だ。
Jパワー「役員の予定は回答しない」
JパワーはBuzzFeed Newsの取材に対し、メモは同社内で作成されたかどうかについては「確認はできていない」とした。
また、北村会長が和泉補佐官とメモにある日時に面談したかという点については、「本件に限らず、当社役員の予定などについては一切回答をしていない」と答えなかった。
Jパワーはヘリパッドに隣接する地域に、海水による揚水発電所を所有していた(現在は廃止)。
この施設については同社は「防衛局から海水発電所に対して設備の一部使用をさせていただきたいという依頼があり、社内で検討した結果、一部使用を認めている」と回答した。
そのうえで、「それ以上でも、以下でもない。誰からどのような内容で、ということについてはコメントを申し上げることができない」とし、契約内容など、それ以上の詳細についての回答を避けた。
また、和泉補佐官から「海外案件は何でも協力する」という発言があったとされることについては、「何かの見返りがあったという事実は一切ございません」としている。
一方、沖縄防衛局は取材に、「北部訓練場のヘリパッド移設工事にあたって、工事車両の通行および休憩等のための土地と施設の使用など、必要な協力を得たうえで、適切に工事を実施してきたところです」と回答した。
同局によると、土地については2016年7月から現在まで、施設については同年10月から12月まで使用している。貸付契約を結んでおり、貸付料として、総額14万2000円を支払ったという。
官邸主導で進んだヘリパッド工事
産経新聞(2016年7月23日付朝刊)などによると、ヘリパッド建設事業では、同年1月に防衛省本省と沖縄防衛局に出向した国土交通省の技官らが取り仕切った。
メモにある「下司審議官」とは、この時期に国交省から防衛省に出向した下司弘之氏のこととみられる。
そして、首相官邸から技官らを指揮したのが、国交省出身の和泉補佐官だったという。ヘリパッド建設は、首相官邸主導で進んだ事業だったといえる。
ヘリパッドに囲まれる形となる東村高江区では反対運動が続いていたが、先に完成していた一部のヘリパッドでオスプレイが離着陸訓練を実施していたことなどから、反対の動きは激化した。
道路への座り込みなどによる抗議で工事の進捗が遅れてるなか、警視庁など全国から機動隊員が集まったり、陸上自衛隊のヘリコプターが重機や車両を運ぶために動員されたりするなど、異例の対応が取られていた。
「反対は活動家だけ」は誤り
メモによると、和泉補佐官は「反対派は活動家だけ」と発言したとされているが、これは正しいとは言えない。
地元紙・琉球新報が東村高江区で実施した2016年7月のアンケートでは、全67世帯中38世帯のうち、建設に賛成した住民はゼロ。「反対」が80%で、「その他(どちらでもない、分からないなど)」の20%を大きく上回っていた。
また、1999年と2006年の区民総会では、全会一致で反対決議を出している。一方の東村は建設を容認しているが、議会では2015年2月、完成したヘリパッドの使用禁止決議を出し、「反対を押し切って建設が強行された」と指摘している。
北部訓練場の大規模返還は、安倍晋三首相が「沖縄の本土復帰後、最大規模の返還」と強調し、その「負担軽減」の象徴だとしていた事業でもある。
しかし、ヘリパッドの運用が始まると、オスプレイやヘリコプターが飛行する頻度は以前よりも増加。東村高江区ではヘリパッド建設の翌2017年10月に、民間牧草地に米軍ヘリが不時着、炎上する事故も起きた。
事故の直後、東村高江区は代議員会を開き、ヘリパッドの使用禁止などを求める抗議決議を全会一致で可決した。ここまで踏み込んだ決議が出されたのは、初めてのことだった。
また、東村議会も臨時会を開き、同様の抗議決議と意見書を全会一致で可決。そこには、住民の怒りが限界にあることを示すように、こんな言葉が記されている。
「これ以上の基地負担は我慢できず、満身の怒りをもって抗議する」
Jパワーは「見返り」を否定
この問題は、沖縄の地元紙2紙などでも報じられ、地元では反発が拡がっている。
菅義偉官房長官は12月24日の記者会見で、ヘリパッド建設事業を巡るメモについて、「メモについては承知していないのでコメントは差し控える」としたうえで、「工事は関係機関から必要な協力を得た上で、適切に実施した。詳細については防衛省にお尋ねを」と述べた。
BuzzFeed Newsは面談の有無やメモにある発言内容をめぐり、和泉補佐官室に確認を求めた。防衛局にも取材を済ませているということを明示した質問状を送ったが、ファックスで寄せられた回答は、以下の一行のみだった。
「ヘリパッド事業は防衛局所管の事業なので同局にお問い合わせ下さい」