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自転車で日本縦断したろうの映画監督 「聞こえない」の先にあったもの

「コミュニケーションが苦手」を乗り越えるために。

コミュニケーションとは、何なのか。

そんな問いの答えを知ろうと、自転車で日本を縦断した、ろうの映画監督がいる。

計57日間3824kmの旅。彼女は、何を見つけたのか。

「聞こえる人はわかってくれない」

今村彩子さん(37)は、生まれつき耳が聞こえない。コミュニケーションも、不得意だ。

特に、聴者(耳が聞こえる人たち)との会話が苦手。話すときは、相手の口を見て、言葉を読み取る。

でも、テンポが速くなると、何を言っているのか、わからなくなってしまう。「もう一度言って」と伝えたらめんどうくさい顔をされて、傷ついた経験が、何度もある。

ろう学校ではなく、一般の小学校に通っていた。女子同士の会話の輪に入るときは、みんなが笑ったら、話がわかったフリをして笑っていた。聞こえないとは、誰にも言えなかった。

ただひたすら、寂しかった。中学校の途中で、ろう学校に転校。いつしか、「聞こえる人はわかってくれないんだ」と、怒りすら抱えるようになっていた。

自らが変わるための日本縦断

その後、今村さんはろう者の世界で生き続けてきた。

聞こえないから、とコミュニケーションを絶ってきた自分を「言い訳して逃げている」と責めることもあったけれど、変わろうとはしてこなかった。

そうして暮らしていた2年前、母や祖父を相次いで亡くした。深く落ち込んだ。そうして「自分も、変わらないといけない」と考え始めるようになっていた。

「飛び込まないと、次のステージに進まないと」

それまでも映画監督として、東日本大震災で被災したろう者のドキュメンタリー作品などを撮り続けてきた今村さん。今回は、自らが成長する過程を描く、セルフドキュメンタリーを撮影することにしたという。

そこで選んだのが、日本縦断だった。旅先でたくさん出会うであろう人たちと、「コミュニケーション」を生むためだ。

平坦ではない道のり

旅は、沖縄からスタートした。聴者である伴走者兼撮影役の哲さんが一緒だ。

でも、コミュニケーションするときは助けを借りない、というルールも設けた。

平坦な道のりではなかった。道中で出会った人たちは300人もいる。ただ、聴者の人たちと、結局コミュニケーションが交わせないまま、どんどんと時間ばかりが過ぎていく。

耳が聞こえないと言い出せない、話してもよく分からない、だから、話しかけられない……。

旅先でろう者とばかり会って、ホッとしている自分に嫌気がさすこともあった。道も聞けずに、ずっと迷い続けてしまうこともあった。

そのイライラを哲さんに怒りをぶつけ、喧嘩ばかりしてしまう。そうすると、こう怒られた。「聞こえないからじゃない。コミュニケーションを切ってるのは、今村さんだ」と。

今村さんを変えた出会い

もやもやとした旅は、そのまま続く。しかし終盤、北海道で今村さんは聴覚障害を抱えたオーストラリア人・ウィルさんと、出会った。

日本語も話せない。声もうまく聞き取れない。それでも、旅先の人たちと気さくに会話をするウィルさんの姿に、心を打たれたという。

ウィルさんは、悩む今村さんにこう言う。「ピープル インサイド オナジ」と。

「聞こえる、聞こえないは関係ない。私は、聞こえないからコミュニケーションできないって、理由をつくって逃げてしまっていただけかもしれないと、ウィルとの出会いで気がつけたんです」

「何を言っているのかわからない。それで諦めるのではなくって、何を話しているんですかって、聞けばいい。書いてくださいって、言えばいい。相手のせいにしたら、変われないんですよね」

人と、つながること

そうして完成した映画のタイトルは「スタートライン」だ。

自らが次のステージに進む、との意味を込めていたが、映画を公開してから「日本縦断のゴールが、今村さんにとってのスタートライン」と言われることも多いという。

「私も、そう感じました。これからに向けたスタートラインに、いま立っているのだと」

そんな映画は、「コミュニケーションに悩む人たち」に見てもらいたいと感じている。

「聞こえる、聞こえない関係なく、コミュニケーションに悩む人たちはいる。そういう人たちから、勇気をもらったという感想をもらいます」

「この映画が、小さなひとつのきっかけになれば。一歩踏み出さないとどうなるかわからない。けれど、それで少しでも良くなるのなら、嬉しいです」

そんな今村さんに聞いた。コミュニケーションって何ですか?

「人と人とが、つながることですね」

弾けた笑顔だった。



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