坂上忍さんのWikipediaが「在日」と書き換え 自民議員を批判し拡散

    拡散はいまも続いている。

    森友学園をめぐる文書改ざん問題について報じた情報バラエティ番組をめぐり、出演していたタレントの坂上忍さんが「政府に批判的だ」などとネット上で指摘された後、Wikipediaが「在日3世」などと書き換えられていたことがわかった。

    根拠のないこの「情報」は、坂上さんの自民党議員批判をきっかけに拡散。「祖国に帰れ」などという言葉とともにシェアされ、まとめサイトなどにも転用されている。

    いったい、どういう経緯だったのか。

    始まりは「政府批判」

    坂上さんに批判の声があがったのは、3月20日に放送されたフジテレビの情報バラエティ番組「バイキング」だ。

    ここでは、前日に実施されていた森友学園問題に関する参議院予算委の集中審議について取り上げている。

    番組で坂上さんは、麻生大臣に対して「自由にお話いただいていると安倍政権にはプラスにならないのではないかと思う」などと発言。

    太田充理財局長に「安倍政権をおとしめるために変な答弁をしているのか」などと質疑し、物議をかもした自民党の和田政宗議員についても「あまりに見苦しい」などと批判している。

    和田議員の発言を否定的にみる出演者に同調している場面もあり、Twitterなどでは、少ないながらも「政府批判」などとの声があがっていた。

    書き換えられた内容とは

    坂上さんのWikipediaが書き換えられたのは、翌3月21日深夜(日本時間)のこと。

    前文に「在日韓国人三世」と加えられたほか、国籍が「韓国」に、本名が「姜忍訓(カン・インフン)」に書き換えられたのだ。

    書き換えた人物の利用者名も、この「本名」と同じ「姜忍訓」となっているが、情報の根拠は一切示されていない。

    書き換え以前に期間を絞ってGoogle検索してみたところ、坂上さんの本名が「姜忍訓」とする情報は、掲示板「2ちゃんねる(sc)」が初出だとみられる。

    2月24日に立てられた「悲報 坂上忍は恒心教徒だった」というスレッドの、以下のような書き込みだ。

    坂上忍こと姜忍訓(カン・インフン)は熱心な恒心教徒として有名。 芸能界で勧誘活動をしているそうだ。

    「恒心教」自体がネットスラングの架空団体であるため、そもそもが不確定な情報である可能性が高い。

    また、韓国語で検索してみても、同姓同名の高校教師や牧師はヒットするが、坂上さんとの関連情報は一切出てこない。

    そして炎上が始まった

    この「情報」は、3月23日の「バイキング」で坂上さんが和田議員批判を繰り広げたことをっかけに、一気に拡散した。

    坂上さんは番組で、和田議員の発言について、「官僚いじめとまでは言わないが、責任を押し付ける発言に何の得があるのか」などと言及。「元NHKなのこれ?」「コイツ何言ってんの?」などという言葉も使っている。

    こうした発言が炎上した。

    Twitterでは、和田氏自身も「スタッフ、家族がメンタル面で大分大変なことになっています」と番組に言及。その他のユーザーからも「いくらなんでも限度を超えてる」などという声が上がったのだ。

    書き換えられたWikipediaに載っていた「在日」という「情報」が発見され、一気に拡散されたのは、この過程でのことだった。

    実際、「坂上忍 在日」に関する投稿は、3月23日を機に急増している。たとえば、こういった内容だ。

    坂上忍が在日は知らなんだ。 あんまり政治に口を出さなきゃいいが…

    坂上忍責任取れや!和田議員は日本の宝。在日のお前がバカにするのは許せん!日本から叩き出してやる。祖国に帰れ!!

    何となく坂上忍をwikiで見てみたら在日韓国人3世との記述が。 全然知らなかったが、これが本当なら韓国籍の立場で日本の政治批判を全国放送してたのだと思うとゾッとした。

    そのほか、「RT希望!」といって拡散を求めた「安倍総理・自民党支持の保守派です!」というアカウント(すでにツイートを削除)があったり、顔写真に「姜忍訓」という情報や韓国旗を重ねるコラージュも生まれたりもした。

    まとめサイトが転載し、さらに拡散

    さらに、まとめサイトなどもこの「情報」を相次いで転載した。

    「アノニマスポスト」では、「【これは酷い】バイキングの坂上忍、和田政宗議員のことを『元NHKなのこれ?』『こいつ何言ってんの?』と、公共の電波で一議員を『これ』『こいつ』呼ばわり」という記事を配信。

    「ネットの反応」としながら、書き換えられたWikipediaの「情報」を貼り付けている。コメント欄には「在日」であることに言及した批判も相次いでいる。

    計測ツール「BuzzSumo」で調べたところ、この記事は3月26日午後2時までに、FacebookとTwitterで計5400近くシェアされている。

    また、Youtubeにも「情報」は広がった。「坂上忍さん、やっぱり在日朝鮮人だった!!!!」などという動画が複数アップされた。

    こうした拡散が始まったのち、Wikipediaではいわゆる「編集合戦」が始まった。書き換えられた項目を削除したり、加筆したりする編集が繰り返されたのだ。

    いまでは項目そのものが保護され、「出典を示さずに国籍等の出自に関する個人情報を無断で書き換える行為は行わないでください」と書き記されている。

    根本にある差別感情

    芸能人やスポーツ選手などの有名人に対するいわゆる「在日認定」という差別行為は、いまに始まったことではない。坂上さんも以前からネット上でたびたび、そういう指摘を受けている。

    また、政権や自民党批判をした人やメディアに対する「反日」「在日」などというというレッテル貼りも、尽きることはない。

    その根本には、日本での根深い在日コリアンへの偏見と差別がある。今回の情報拡散は、まさにその典型だ。

    こうした差別意識を使い、意見の異なる人をレッテル張りして排除しようとする行為は、それによって差別を再生産し、在日の人々をも広く苦しめるという点で、深刻な問題だと言える。

    いまだに「情報」は広がり続けている。それは、悪意を持った拡散に限らない。政治的な立ち位置問わず、偶然見かけた情報を鵜呑みにした人も少なくないだろう。

    一度ネット上で拡散した情報は、なかなか消えることはない。


    BuzzFeed Newsでは【日本に帰化した在日コリアンが、自分の言葉で伝えたかったこと】という記事も掲載しています。

    UPDATE

    初出をめぐる一部表記を修正しました。