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中学生にブログでヘイトスピーチ、60代の男性に損害賠償130万円の判決

男は2019年1月、侮辱罪で科料9千円の略式命令を受けており、民事では厳しい判決が下されたことになる。

在日コリアンの母親を持つ男子大学生(当時は中学生)が、ブログ上で自らに対するヘイトスピーチを記していた大分県の男性(68)に対して慰謝料などを求めていた裁判の控訴審判決が5月12日、東京高裁(白井幸夫裁判長)であった。

判決では、書き込みが「著しく差別的、侮蔑的」であるとして、慰謝料など計130万円の支払いを命じた。男性は2019年1月、侮辱罪で科料9千円の略式命令を受けており、民事では厳しい判決が下されたことになる。

インターネット上の誹謗中傷をめぐる裁判としては高額で、差別を違法要素とする判決ついて、弁護団は「ネット上のヘイトスピーチについて、賠償基準や判断基準を塗り替える画期的なもの」としている。

(*この記事にはヘイトスピーチの文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)

裁判を起こしたのは、神奈川県の大学生、中根寧生さん(18)。在日コリアン3世の母親と、日本人の父親を持つ。

相手は、「写楽・・・支那・韓国朝鮮の真実『写楽』ブログ 日本が大好きでアンチ&排除支那韓国朝鮮ブログ」(タイトルは当時)のブログ主だ。

判決によると、そもそもの発端は、2018年上旬に川崎で開催された音楽イベントに関する新聞記事。地元紙で、当時中学生だった中根さんのコメントが紹介されていた。

「写楽」ではこの新聞記事や中根さんの名前を掲載した、「在日という悪性外来寄生生物種」などというブログ記事を公開。

「見た目も中身ももろ醜いチョーセン人」「おまエラ不逞朝鮮人」「チョーセン・ヒトモドキ」などという言葉を並べていた。

弁護団によると、ブログ記事は、中根さんの名前で検索すると上位に表示されていた。

また、この「写楽」に限らず、ネット上では匿名掲示板をはじめとし、同様の書き込みが大量にされていたという。

判決に記された内容は

裁判では、横浜地裁川崎支部が2020年5月に慰謝料と弁護士費用、計91万円の支払いを命じる判決を出している。

判決では「差別され、地域社会から排除されることのない権利」に言及し、差別による人格権侵害を認めていたが、中根さん側はより厳しい判決を求め控訴していた。

この日の高裁判決では一審判決を踏襲し、一連の書き込みに対し、「本件各記載における表現は、著しく差別的、侮蔑的であるばかりでなく、その読者に対し、差別的・侮蔑的言動を煽るもの」と厳しく批判。

さらに、「名誉感情を著しく害し、その個人としての尊厳や人格を損なうものであって、本件投稿行為は極めて悪質である」とも指摘した。

また、不特定多数が閲覧可能なインターネット上に投稿されていたことから、「中学3年生という多感な時期」であった中根さんに与えた「精神的苦痛は多大であり、その成長にも悪影響を及ぼしかねないもの」だったと結論づけた。

そのうえで男性に対し、一審判決を大きく上回る、計130万円の支払いを命じた。

「僕は、人間です」

中根さんは2月15日にあった意見陳述で、ときおり涙で肩を震わせながら、裁判官に自らの気持ちをこう訴えていた。

「僕は悪性外来寄生生物種ではなく、人もどきではなく、中身ももろ醜いチョーセン人ではなく、家族に愛されて、家族を大切に思い生きる人間です」

「このブログについて、警察に相談に行った際に、僕は苦しくて泣いてしまいました。その帰り道、母は『私が朝鮮人だからこんな思いをさせてしまってごめんね』といいました。僕はそれまでそんなことを想ったことはありませんでした」

「僕のことを大切に育ててくれた母が、自分が親じゃなかったらと悔やむという取り返しのできないことがこの写楽のブログによっておきてしまいました。僕たち家族にとってこのことは一生消すことのできない、深い傷となると思います」

中根さんはこの日の会見で、「判決は差別をなくす希望になる。ネット上のヘイトスピーチの抑止につながってくれたとても嬉しい」と話した。男性は差別を認めておらず、謝罪も代理人からFAXで送られてきただけだった。

「差別によって起きた取り返しのつかない人権被害を見つめて、反省してほしいとの思いもあり控訴していたが、被告の人は姿を隠し、真に反省を示すことがなかった。本当に残念です。これからの人生をかけて、差別をなくす働きをしてほしいと思っています」

「ネット上で誰がみているかわからない状況で、高校生活が本当に不安でした。本当に傷つきました。本当に嫌でした。差別の被害者が裁判に訴えなくても相談、救済される仕組みができることを望みます」

「差別が違法」は画期的な判決

弁護団は会見で、判決について「ネット上のヘイトスピーチについて、賠償基準や判断基準を塗り替える画期的なもの」と評価。神原元弁護士は以下のように述べた。

「一審判決は人種差別そのものが人格権侵害であり、独立した違法要素であると認定した。慰謝料も70万円と侮辱としては高額だった。高裁判決はさらに増額を認めた点が、より画期的だと言えます」

一方、師岡康子弁護士は判決を「少なくとも解釈上、差別自体が違法と認めさせたことには大きな意義がある」と評価。

そのうえで、「こんなことを繰り返すことは被害者にとってあまりに大きな負担。今回の判決をステップとして、原則として差別は違法という法律が定められるべき」と述べた。