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経験したことのない災害が起きる。気象庁の専門家がいま伝えたい、日本の“危機”とは

線状降水帯とは、同じ場所で積乱雲が次々と発生し、長さ数十〜数百キロの線状となって、数時間にわたり大雨をもたらす現象。通常の豪雨に比べて、人的災害につながりやすい。地球温暖化の影響で今後、増加していくとも考えられる。

「線状降水帯」ーー。ここ数年、頻繁に聞くようになった言葉だ。

豪雨災害を引き起こす要因ともなる、極めて危険な現象。気象庁は今年から、線状降水帯の予測を発表し始めた。

気候変動の影響で、日本全国で集中豪雨そのものが増加傾向にある。同時に線状降水帯の発生も、あわせて増えていくと考えられる。

その“名付け親”は「経験したことのない災害」が起きる未来に警鐘を鳴らす。さらなる気候変動に対し、今できる備えとは。

線状降水帯とは、同じ場所で積乱雲が次々と発生し、長さ数十〜数百キロの線状となって、数時間にわたり大雨をもたらす現象を指す言葉だ。

77人の死者を出した広島市での土砂災害(2014年=写真)を引き起こしたことで知られるように、大規模な災害の原因となりうる。

気象庁が昨年から発生を、今年6月からは「半日前」予測を発表するようになり、認知が広がった。

ただし、線状降水帯は何かの影響で最近発生し始めたわけではない。

現象としてはこれまでも起きていた。それが2000年代に入り、研究者がその存在に気がついたことで「発見」「命名」されたのだ。

「過去の天気図や水害時の降雨域などを見ても、『線状降水帯』によるものだと推測できるようなデータもあるんです。レーダー技術などの発達によって、『線状降水帯』が明確に見えるようになったと言えます」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、「線状降水帯」を初めて論文で定義した気象庁気象研究所、台風・災害気象研究部長の加藤輝之さんだ。

「線状降水帯」名前に込めた思い

「見つかった」きっかけは、加藤さんら気象庁のメンバーが進めていた九州の地形に起因した大雨に関する研究だった。

大雨時には雨雲レーダーで「線状」の降水域がよく観測されていたことから分析が進み、研究者の間で「線状降水帯」が用いられるようになったという。

「その後、九州だけではなく他の場所でも線状の雨雲が大雨をもたらすことが多いとわかり、現象そのものに名前をつけるため、我々が使っていた言葉を用いることにしたんです」

「『線状』と『帯』は意味が被るので、よく変な日本語とも言われるんですよね。科学的な用語としてはシステムを指す『系』を使おうと思っていたのですが、『線状降水系』だと意味が伝わりづらくなってしまいますよね」

「危険な現象ですから、あえて同じ意味の『線状』と『帯』を繰り返すことで、一般の人たちにも浸透しやすく、防災に役立ててもらうことができると思っています」

線状降水帯は、周囲が海に囲まれていて、湿潤な土地柄である日本列島周辺の東アジア域特有の現象でもある。それゆえに代わりの訳語もない。英語論文では「Senjo Kosuitai」と記しているそうだ。

死者など人的被害は約5倍…

前述の通り広島市土砂災害の原因となったように、「通常の豪雨に比べて、人的災害につながりやすい」(加藤さん)のも大きな特徴といえる。

過去の豪雨災害16事例(2005年〜16年)を比べた国土交通省・国土技術政策総合研究所の研究結果からも、それは顕著だ。

それによると、線状降水帯が発生していた事例が10事例にのぼり、さらに普通の豪雨に比べて1事例あたりの人的被害(死者・行方不明者)が4.9倍、建物被害も3.3倍になることがわかったという。

「同じところでずっと雨が降り続けるのは、非常に危険です。1時間程度の大雨では問題なくても、長時間続くことで地面が保水しきれずに山が崩れたり、河川が氾濫したりしてしまう。線状降水帯は災害のリスクを高める大きな要因なのです」

加藤さんの研究によると、国内で起きる集中豪雨の半数〜3分の2ほどで線状降水帯が発生していることがわかっているという。

「集中豪雨」は過去45年間で2倍以上に

気候変動で、線状降水帯の発生数は増加傾向にあると考えられている。豪雨そのものが増えているからだ。

加藤さんが1976年から2020年までの全国1300地点の「アメダス」データなどを分析した結果、3時間130ミリを超える「集中豪雨」が日本全国で増加していることがわかった。

今年5月に発表された研究によると、1976年が31.5回だったのに対し、2020年は67.7回になっていた。過去45年間で実に2.2倍。特に雨の多い6〜7月は約4倍となっていたという。

集中豪雨増加の主な理由は、気候変動に伴う日本周辺の海水温上昇だ。加藤さんはこう語る。

「日本は水蒸気が海からすぐ入ってくる地形のため、気候が海面水温の影響を受けやすい。海面水温が上昇すれば、大気中の水蒸気量が増え、豪雨が増える。この主な原因は気候変動にあると考えられます」

「これまで日本列島の西側で多かった豪雨がさらに増えるだけではなく、より北の方でも多く発生していくことになることも考えられます。つまり、日本列島どこでも極端な大雨が降ってもおかしくない」

今後も気候変動が進めば、集中豪雨そのものと同時に、その半数近くで発生している線状降水帯の絶対数も増えていくことになる。加藤さんは「豪雨による災害リスクはより高まる」と警鐘を鳴らす。

予報には「見逃し」も…

こうした背景から、気象庁は昨年から「線状降水帯」発生後の情報発信を開始。さらに今年6月からは、半日〜6時間前の発生予測を始めた。

同庁が11月11日に公表した2022年度出水期のデータでは、的中は13回中3回で、「見逃し」も11回中8回あった。数日前からの予測も含め、精度の向上が課題となっている。

「的中しなくても大雨が降っているということは多いわけですが、極力避けなければいけないのは、雨が降らないと予測していたにもかかわらず線状降水帯が発生したという『見逃し』パターンです。ただ、簡単にはいきません」

「予報に使う数値モデルの課題もありますが、線状降水帯の発生の条件である海上の水蒸気や風などの観測網が十分ではないという問題もある。気象庁では航行している民間フェリーに装置をつけてもらうなどの整備も進めているところです」

下層水蒸気量を計測できる気象衛星の打ち上げ、数値モデルの改良なども進めたいとしているが、予算面も大きな壁。そうした点も乗り越えながら、「より正確な予報」に備えていきたいという。

「今まで」を前提にしないで

一方で、そうして編み出された予報を受け取った私たちは、どう行動すればよいのだろうか。

「まず、大雨による災害リスクがある場所をきちんと知ってもらえれば。外水氾濫(はんらん)、内水氾濫、土砂災害など、自分が住んでいるところのリスクを自治体などのハザードマップで確認してもらいたいと思います」

「また、気象情報などを普段から利用してもらうことも非常に重要です。いつどこで雨が降っているのか、いつ降るのか。気象庁サイトからみられる雨雲レーダーなどを洗濯や出かけるときなどに参考にしてもらって、もしも時にもすぐ頼れるようにしてもらえれば」

気候変動の影響で、豪雨や線状降水帯が増えているという紛れもない事実。

これからもそうした傾向が続いていくとすれば、もしもの時には「今まで」を前提としない備えがまず大切になる。

加藤さんの指摘通り、普段から「天気」をめぐる情報を身近に感じておくことは、災害時に身を守る大切な手段となるはずだ。

「これ以上、気候変動を進行させない取り組みは非常に重要ですが、いま急に温暖化が止まるとも思えません。自分で住んでいる地域で、いままでに経験したことのないような恐怖を感じる大雨が降るということになるかもしれない。そう思って、ぜひ備えをし、予報を活用していただければ」

日本に住んでいたら気候変動なんて関係ないって思っていますか?

海水温上昇で消えゆく魚。増える豪雨災害ーー。

私たちのすぐ身近でも、気候変動の影響がでています。

地球を守るために、私たちが守らないといけない「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える」という“約束“。

今、あなたに知ってほしい「変化」があります。

BuzzFeed Japanは、国連が主催するメディア横断企画「1.5℃の約束」に参加し、日本での気候変動の影響について取材しました。