安倍前首相に多くの矛盾? 桜を見る会「前夜祭」で特捜部が捜査、国会答弁を振り返ると…

    安倍前首相側は1人5000円の会費で前夜祭を開いていたが、野党側はホテル側への支払いが不足していると指摘。差額分を前首相側が補填しながら、政治資金報告書にも記されていないとして、その違法性を指摘していた。

    安倍晋三前首相が「桜を見る会」の前日に都内のホテルで開いていた「前夜祭」をめぐり、東京地検特捜部が関係先を捜査していることが明らかになった。

    読売新聞が11月23日朝刊でスクープし、夜にはNHKが前首相側が会費800万円以上を補填していたことを示す領収書の存在をスクープするなど、各社も報じた。

    安倍前首相側は1人5000円の会費で前夜祭を開いていたが、野党側はホテル側への支払いが不足していると指摘。差額分を前首相側が補填しながら、政治資金報告書にも記されていないとして、その違法性を指摘していた。

    今回の一連の報道には、安倍前首相が国会で答弁してきた内容との矛盾も多く、しっかりとした説明を求められることになる。改めて答弁を振り返る。

    まず、経緯を振り返る

    安倍前首相は3月の国会で、2013〜19年に開かれてきた「前夜祭」について、たびたび指摘されてきた。関連する記載が事務所の政治資金収支報告書に一切ないからだ。

    一方の安倍首相側は、参加者がその場で会費5000円を事務所側に渡し、事務所側はその場でホテルに渡しているため、「収支」は発生しておらず、記載の必要はないと説明してきた。

    しかし、会場となったのはANAインターコンチネンタルが3回、ニューオータニが4回で、その規模も数百人を超えており、1人5000円の会費で賄うことはできないのではないか、と野党側は指摘していた。

    仮に事務所側がホテル側に会費を支払っていたのであれば、「収支」として政治資金規正法に基づく記載の義務が生じる。記載がないことは政治資金規正法違反の疑いがある。もし会費の一部を事務所側が負担していれば、公職選挙法違反(寄付行為)の疑いも出てくる、と野党は追及していた。

    ここで問題になるのが「領収書」や「見積書、明細書」の存在だ。安倍首相は前者については「ホテル側から宛名のない領収書を発行してもらい、参加者に渡した」とし、後者については「受け取っていない」として提出を拒んできた。

    立憲民主党の辻元清美議員はANAホテル側から見積書や明細書を発行しないケースや、宛名を空欄のまま領収書を発行したケースはないという証言を入手し、国会で直接問いただしたが、安倍前首相は「あくまで一般論でお答えしたもの」などと否定するのみだった。

    なお、この後にホテルの関係者が自民党本部で謝罪したといい、野党側は「圧力」になりうると反発。一方、弁護士や学者らでつくる市民団体は、政治資金規正法違反や公職選挙法違反の疑いで刑事告発していた。

    安倍前首相「支出は一切ない」

    読売新聞の報道によると、ホテル側に支払われた総額は2019年までの5年間で、計約2300万円にのぼったが、参加者からの会費は計1400万円あまりにとどまっている。安倍前首相側が約800万円超を補填している疑いがある、という。

    特捜部はホテル側から、安倍前首相が「ない」と答弁していた明細書の提出を受けている。差額を補填したことに対する領収書の存在も把握しているという。

    つまり、安倍前首相が答弁していた内容と矛盾する点が多く存在するということだ。まず一点目は補填の事実について。2019年11月20日の衆議院本会議で、安倍前首相はこうはっきり述べている。

    「夕食会に関しても、参加者が実費を払って、支払っており、安倍晋三後援会としての収入、支出は一切ありません」

    「夕食会の費用については、ホテル側との合意に基づき、夕食会場入口の受付において安倍事務所の職員が一人5千円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金した全ての現金をその場でホテル側に渡すという形で参加者からホテル側への支払がなされたものと承知しております。なお、当該受付の際にはホテル側職員も立ち会っていたところであります」

    「夕食会に関して安倍晋三後援会としての収入、支出は一切ないことから、政治資金収支報告書への記載は必要ないものと認識しております」

    また、同日の以下の答弁もやはり、特捜部が明細書の提出を受けているのだから、矛盾が生じる。

    「夕食会の各種段取りについては、私の事務所の職員が会場であるホテル側と相談を行っております。事務所に確認を行った結果、その過程においてホテル側から明細書等の発行はなかったとのことであります」

    菅首相も「おかしくない」とフォロー

    なお、当時は官房長官だった菅義偉首相も、同日の衆議院内閣委員会で以下のように安倍前首相の主張をフォローしている。「政治家として」の見解も述べているが、やはりこれも、今回の報道とは矛盾が生じるものだろう。

    「安倍事務所職員が一人5千円を集金をし、ホテル名義の領収書をその場で手渡した。受け付け終了後に、集金した全ての現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側へ支払われたということであります」

    「私は政治家として考えた場合、その場に、お金をいただいて、ホテルの領収書を渡して、そしてその場にホテル側の人もいらっしゃる、それはおかしくない、私はこう思います」

    さらに翌21日の参議院内閣委員会では、このように答弁もしている。立憲民主党の杉尾秀哉議員の質問に対し、感情的になるような場面もあったようだ。

    「明細書の発行は、これはなかったということです。ホテル側に確認した結果、ホテル側の営業の秘密にも関わることから公開を前提として資料提供には応じかねるということだそうです」

    結果として補填されていたことになると、やはりこの答弁も矛盾が生じることになる。

    「契約の当事者は参加者」?

    安倍前首相は2020年1月31日の参議院予算委員会での答弁では、「契約の当事者は個々の参加者」とも言い切り、政治資金収支報告書に記載する必要がない、としている。

    「夕食会の主催はこれは後援会でございますが、しかし、契約の当事者は誰かといえば、これはホテル側と契約の当事者はあくまでも個々の参加者でございます」

    「であるからこそ、これは収支報告書にこれは記入する必要がないという判断をしているわけでございます」

    さらに2月3日の衆議院予算委員会では、こうも語っていた。

    「私の事務所の職員は、夕食会参加者とホテル側との間の参加費のやりとりを仲介したものの、ホテル側との契約の当事者はあくまでも個々の参加者であり、領収書の写し等の提出をホテル側に求めることは困難」

    「価格についてはホテル側が設定したものでございまして、あとは私たちが推測するしかないのでございますが、それはホテル側が設定したものでございます」

    読売新聞の報道によると、特捜部は公設第1秘書や私設秘書、地元の支援者ら20人以上から任意で事情を聞いているという。捜査中であることを理由にコメントしていないが、今後の進展次第では、これまでの答弁の正当性が問われることになる。