• borderlessjp badge

「この町にも、おびえて暮らしている人がいる」在日コリアンの女性が、市長に訴えた理由

要請書では、7月に完全施行されたヘイトスピーチなどを繰り返した人物に刑事罰を科す国内初の「ヘイト禁止条例」が「川崎モデル」であるとし、2016年に成立した「ヘイトスピーチ対策法」にも触れながら、相模原有市でも同様の条例制定を求めている。

ヘイトスピーチに罰則を科す条例の制定を川崎市に続き目指そうと、市民団体が12月8日、本村賢太郎・相模原市長に要請書と署名を提出した。

これまで罰則規定を設けた条例制定に前向きな発言をしていた本村市長に対し、署名を提出の場に同席した在日コリアン3世の女性が、思いの丈を語った。

署名を集めたのは、反差別相模原市民ネットワーク。署名は10月から始め、「Change.org」を含め11月20日までに集まった計1万2139筆を提出した。

要請書では、7月に完全施行されたヘイトスピーチなどを繰り返した人物に刑事罰を科す国内初の「ヘイト禁止条例」が「川崎モデル」であるとし、2016年に成立した「ヘイトスピーチ対策法」にも触れながら、相模原市でも同様の条例制定を求めている。

その意義としては、まず、2016年に起きた障害者施設「津久井やまゆり園」での殺傷事件で、「犯人は○○人」などとする差別的な書き込みがネット上に広がったことに触れた。

また、2018年には「日本第一党」が相模原市内の公共施設で開いた集会で、党首の桜井誠氏が「(ヘイトスピーチ禁止)条例と法律を作った人間を必ず木の上からぶら下げる」などと発言したと言及。統一地方選でも同党による選挙演説内でヘイトスピーチが繰り返された、と訴えた。

そのうえで、「ヘイトスピーチを放置することは、社会に差別と暴力を広げ、人々の日常を不安におとしいれます。とりわけ地域に暮らす様々なマイノリティの人々は、日々恐怖の中で暮らし、出自を隠した生活を強いられる上、抗議すらできないほど深刻な人権侵害を受けています」としている。

本村市長は就任直後の2019年6月の会見で「ヘイトスピーチは、人としての尊厳を傷付けるだけでなく、差別意識を助長し、人々に不安感や嫌悪感を与えることにつながりかねない。決して許してはいけない」と明言。罰則規定のある川崎市の条例に触れ、「引けを取らないような厳しいものにしたい」と述べている。

しかし、市長は最近になって川崎と同様の条例制定に対し、後ろ向きとも捉えられる発言をしているという。要請書ではこの点も意識しながら、市長に「条例制定の先頭」に立つよう求めている。

心の傷は治らない

この日、市役所で開かれた署名提出の面会には、市内に住む在日コリアン3世の30代女性も同席。「こうやって署名を受け取っていただいたことが嬉しい」と語り、こうも述べた。

「いつも使っている駅前で、演説と銘打ったヘイトスピーチ、差別の言葉の羅列を聞いたことがありますが、多くの人たちが足を止め、時折拍手をしていたことにショックを受けました」

「そういう人たちが隣に住んでいたら怖いですし、育てている3人の子どもたちがそのような言葉を投げかけられて傷を負ってほしくないとも思います。直接浴びされた差別は心に深く刺さりますし、身体の傷と違って治りません」

一方、本村市長は「ヘイトは決して許してはならないもの。皆さんと同じ思い」「相模原には1万5千の外国人が暮らしている。審議会の答申を受けてしっかり考えていきたい」などと語ったが、面会後、報道陣に「罰則規定」について問われると、こう述べるに止まった。

「昨年には、ヘイトスピーチが町中で多く聞かれたが、今は日常的に起こっていない。原点に立ち返って考える必要がある」

見えるようになってからでは…

反差別相模原市民ネットワークの田中俊策・事務局長は面会後の会見で、こう語った。

「川崎のように集住地区があるわけでないが、被害者が見えないだけ。日本中どこでも、そうした被害を受けている人がいる。相模原が川崎に続くことで『ヘイトは犯罪』という認識を全国に広げるきっかけをつくってほしい」

また、在日コリアンの女性も会見で本村市長の「後ろ向き」とも取れる発言について問われ、「(差別が)見えるようになってからでは遅いと思います」と、釘を刺した。

女性は普段から差別をおそれ、3人の子どもたちに、町中で朝鮮語の「オンマ」ではなく「お母さん」と呼ぶように、できる限り日本語を使うようにと伝えているという。

「心苦しいことですが、そうやっておびえて暮らしている人がいる。本当であれば、もっと隠さないで、一緒に暮らしていきたいと思っています。ヘイトスピーチが日常的に繰り返されているわけでなかったとしても、予防的な側面を踏まえて、条例を制定していただきたい」

署名は来年1月20日まで続け、改めて市長に提出する方針だという。詳細は「Change.org」から。