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「日本は安心安全な国だと思っていた」女性が訴え、市長は謝罪。彼女が受けた攻撃と、その被害とは

ヘイトスピーチを規制する条例制定に向けた動きが進んでいる相模原市。当初市長は罰則付きの「川崎市」モデルを目指すとしていたが、排外主義的な主張を繰り広げる政治団体が強く反発。ターゲットにされたのが、韓国籍の審議会メンバーだった。

相模原市で制定に向けた議論が進むヘイトスピーチの規制に関する条例をめぐり、市の審議会の委員である韓国籍の女性が、差別的な誹謗中傷の対象となっている問題。

本村賢太郎市長が被害にあっている女性を含む審議会のメンバーと5月26日に面会し、対応の不備について、直接謝罪した。

審議会からはヘイトスピーチを非難する声明を出すよう要望があったが、市長から明確な回答はなかった。

まず、経緯を振り返る

相模原市では今、「ヘイト禁止条例」(相模原市人権尊重のまちづくり条例)の制定に向けた動きが進んでいる。在日コリアンなど外国籍市民や障害者らマイノリティへの差別的、排外的な言動などを食い止めるのが大きな目的だ。

同様の条例制定の先駆けとなった川崎市に続こうと、本村市長は就任直後の2019年、条例の必要性やその内容について、有識者や市民らでつくる「市人権施策審議会」に諮問をかけた。

排外主義的な主張を繰り広げる政治団体「日本第一党」などは、「言論思想統制」などと条例制定の動きに強く反発。審議会唯一の外国籍委員である金愛蓮さんが、批判のターゲットとなった。

金さんは相模原市に30年近く暮らす韓国籍の女性で、ボランティア組織「さがみはら国際交流ラウンジ運営機構」で外国人住民のサポートに尽力している。

市に暮らす外国人住民の思いを代弁するような立場として議論に参加してきた金さんに対し、第一党は街宣活動のなかで、差別的な言葉を使った批判、誹謗中傷を繰り返した。

金さんが審議会で発言していないことを歪曲して伝えたほか、「(審議会に)外国人が参加しているのは問題」とする誤った主張を繰り返し、さらに「キンなんとかという女」「日本語がたどたどしかった」などと中傷することもあった。

こうした攻撃を受け、金さんは日常生活で不安を多く感じるようになった。メールで市側に助けを求めたが対策は取られず、本村市長も一般論に終始したコメントに徹した。一連の経緯は審議会でも問題視され、今回の面会に至った。

市長は謝罪、被害者が伝えたこと

5月26日の面会には、金さんと、審議会の矢嶋里絵会長(東京都立大教授)と工藤定次副会長(神奈川人権センター副理事長)が同席した。

本村市長からは「不安な思いをさせてしまったことを反省している。お詫びしたい」などと対応の不備を謝罪。職員間の連絡ミスがあったとし、再発防止の対策をとるとともに、「金さんに寄り添ったできるかぎりのケア」をすると話した。

一方の金さんは市長に対し、「どっちつかずではなく、市長のもともとの思いを述べていただきたい」と声明を出すよう求め、自らの状況と思いをこう訴えた。

「いままで私は世界一安心安全な、努力すれば報われる国に暮らしていると思っていました。まさか30年でこんなことになるとは思っておらず、びっくりしています。(攻撃を受けてからは)大きな音が聞こえたり、見知らぬ人がいたりすると不安になってしまいます。市長にはみなさんがわかる言葉で(メッセージを)発してもらいたい」

「私がターゲットにされているのは、市の会議に外国籍市民が入っていることが理由のようですが、そのこと自体は誇りに持ってもらいたい。多文化共生の社会では当然のことで、めげずにやっていただきたいですし、きちんとしたヘイト条例をつくっていただきたい」

矢嶋会長からは「ヘイトスピーチがヘイトクライムにつながってしまう危険がある。市長には責任者として具体的な発信があるべき」「個人攻撃だけではなく市政、市議会への攻撃がなされている」とする審議会内の意見が伝えられた。

また、工藤副会長は市によって「はっきりした対応」が取られてこなかったことを批判しつつ、審議会として以下の3点を盛り込んだ声明の発表を市長に求めた。

  1. ヘイトスピーチは人権侵害であり、根絶すべきであるというメッセージを発する。
  2. 金さんへのヘイトスピーチを直ちにやめるように訴える。
  3. 市民への差別人権侵害を許さないとアピールする。


「沈黙は共犯」との言葉も

本村市長からは「差別的言動は許さないというのが私たちの考え。金さんへの発言は聞き捨てならない言葉もあった。金さん含め市民を守るのが私の責任」などとの言葉があった。

しかし、声明を発するという点については、「(審議会の求めを)ご意見として受け止めます」と回答。繰り返し問われても「受け止めます」と述べるのみだった。

工藤副会長はアメリカ・バイデン大統領がアジア系住民を狙ったヘイトクライムによる銃撃事件が起きた際に述べた「沈黙は共犯」という言葉に触れ、「受け止めるだけではなく、発信をしてほしい。ヘイトスピーチは放置すると被害は繰り返され、拡大する」と懸念を示した。

面会後、工藤副会長は「相模原ではやまゆり園事件がありました。ヘイトスピーチを放置すると、具体的な事件につながるというのが教訓だったはずです」と指摘。

さらに、ネット上の書き込みに影響を受けた男が、在日コリアンの集住する京都・ウトロ地区を狙ったヘイトクライムを起こしたことにも触れ、こう語った。

「いまも金さんに関する書き込みが、ネットで相当流れている。影響を受けた人が危険な行動をすることを懸念しています。何かがあったら、誰が責任を取るのか。市長にはきちんとコメントをしてほしかった」

一方の、金さんは「誰が何をするかわからない。事件事故がまだ起きていないから大丈夫、というわけではない。市長にはその点を含め、しっかりと受け止めてもらいたい」と話した。

審議会としては、市長による早急な声明発表などに期待するとともに、対策がなされない場合はさらなる対応を考えていくとしている。