ロシア大使館「ウクライナのジェノサイド」と投稿のツイート削除… 日本の報道は「フェイク」と批判、誤情報と指摘受け【2022年回顧】

    問題となったロシア大使館のツイートは3月24日に、ウクライナ侵略に関する日本政府の対応を批判する文脈で投稿された連続ツイートのひとつ。投稿に用いられていた写真は、17年前にイラクで撮影された米兵のものだった。(2022年回顧)

    2022年にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:3月31日)


    ロシアのウクライナ侵略をめぐり、駐日ロシア大使館がTwitterで「ウクライナが自国民に対するジェノサイドを行っている」などとして投稿した写真が、イラクにおける米兵の写真だった問題。

    撮影者が直接、指摘をするなど、誤情報であるという声がSNS上で上がり、BuzzFeed Newsなどが報じたのちに、投稿は削除された。

    BuzzFeed Newsがこの経緯について大使館側に取材を申し入れたところ、同館は直接は応じず、BuzzFeed Newsの報道を「公然と事実を改ざん」「意図的に歪曲」などと批判する内容の声明を公式Facebookで発表した。

    まず、経緯を振り返る

    問題となったロシア大使館のツイートは3月24日付。ウクライナ侵略への日本政府の対応を批判する文脈で投稿された連続ツイートのひとつだ。

    自民党の政治家が「ロシアがウクライナで戦争犯罪を犯した」と発言したとし、日本の同盟国である米国や、NATO加盟国もユーゴスラビアやイラク、リビアで戦争犯罪を行っていたと批判。続く投稿でウクライナについても以下のように触れた。

    「またウクライナのナチスト政権は、8年間にわたり自国民に対するジェノサイドを行っている。女性や子供を含む何千という人々の命を奪ったこの蛮行を、日本が批判したという話は記憶にない」

    「ウクライナの政権はナチス」「ウクライナがロシア系住民を虐殺している」というのは、ロシアがウクライナ侵略を正当化するため繰り返し用いてきた主張だ。

    しかし、ウクライナ東部の状況を監視している国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)や欧州安全保障協力機構(OSCE)の報告では、ウクライナ東部でロシアが主張する市民の大規模な虐殺は、確認されていない。アメリカ国務省も「事実とする根拠はない」と指摘している。

    今回の焦点は、この「8年前から続くウクライナのジェノサイド」「それに対して日本が黙っている」という内容の投稿に添えられた写真が、ウクライナではなく、イラクで17年前に撮影されたものだという事実関係だ。

    当該ツイートの写真は、イラク北部モスルで2005年、従軍記者をしていたマイケル・ヨン氏が撮影したものだ。自動車爆弾テロでけがをした少女を、アメリカ兵が抱き抱えて運ぶ瞬間を捉えたもので、少女はのちに亡くなったという。

    ロシア大使館に対し、撮影者のヨン氏はTwitterで直接、誤りを指摘している。

    報道を「虚偽」と批判する声明

    こうした流れについて、BuzzFeed Newsはファクトチェック記事として一連の経緯を3月28日に報道した。フジテレビもその後、同様の内容を伝えた。当該ツイートは、29日夜までに削除された。

    翌30日、BuzzFeed Newsはロシア大使館に対し、(1)削除の理由(2)掲載の経緯(3)大使館のTwitterの運用体制(4)本国の意向を受けた発信なのか(5)「ジェノサイド」など誤りや虚偽と指摘されている発信への見解(6)日本政府批判などの発信内容への批判に対する見解ーーに関する取材をメールで申し入れた。

    ロシア大使館側は31日、公式FacebookにBuzzFeed Newsの報道を批判、反論する声明を日本語とロシア語で発表。当記事のスクリーンショットに「FAKE」の文字を重ねたうえで、以下のように批判した。

    「Buzz Feed Japanが業務上不適切な方法を用い、公然と事実を改ざんし、読者に意図的に誤解を与えている」

    「大使館がソーシャルメディアに投稿した情報を意図的に歪曲し、文脈から外れたスクリーンショットを投稿し、虚偽のコメントを添えました」

    そのうえで、写真は「ユーゴスラビア、イラク、リビアでの出来事について言及した大使館のTwitter投稿の全文」に対応したものであったと指摘。

    BuzzFeedのスタッフがこの文脈を見落としたとして、「ソーシャルネットワークであるTwitterの使い方を知らないからだと推測されます」とした。

    声明ではさらに、「誰かが意図的に在日ロシア大使館のネガティブなイメージを作り出す必要があった」などと主張。「客観的で検証された正しい情報を受け取るに値する日本の読者に対して失礼な行為であると考えています」と結んだ。

    なお、BuzzFeed Newsの取材に対する大使館側の返信は、FacebookのURLだけだった(写真下)。

    ツイートの問題点とは

    今回のツイートは、3つの投稿が連続していた。大使館側が言うように、スレッド全体では確かにイラク戦争に言及している。この点は、BuzzFeed Newsのファクトチェック記事でも、前提として記している。

    しかし、当該ツイートには、「ウクライナは、8年間にわたり自国民に対するジェノサイドを行っている」といった内容しか含まれておらず、イラクには触れていない。

    当該ツイートを見れば、同国の主張する「ジェノサイド」で傷ついたロシア系住民の子どもと、それを救助する親ロシア派ないしはロシア軍兵士の写真という誤った印象を受けておかしくない。ロシア政府を代表する在外公館の発信であれば、なおさらだ。

    また、当該ツイートは、多数のリツイートやいいねを集めて単独で流通した。連続ツイートの内容がバラバラに拡散することは、珍しくない。ウクライナとは無関係の写真であると気づかないユーザーも少なくないだろう。

    こうしたことから、ウクライナに関するこのツイートに、イラクでの17年前の写真を掲載することは、誤情報の発信に当たると言える。大使館は、誤情報であると指摘されたのちにツイートを削除した理由を説明していない。