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「子どものことなんか1ミリも…」専門家が“自民党保守派”に苦言 「家族を分断」「左翼」とこども基本法に反発

子どもの権利を定め、関連政策の根本を示し、国や地方自治体の責務を明示した「こども基本法」の必要性は、支援現場や専門家からも、たびたび訴えられてきた。

子どもの包括的な権利を定める「こども基本法」。その成立を求める声は強いが、法案提出を巡り、自民党内の議論が紛糾している。

権利を明示することや、独立した専門機関の設置などを定めることなどに、保守派議員から「左派的」などと反対意見が相次いでいるというのだ。

専門家は「視点がずれている。子どものことが見えていない」と苦言を呈している。成立を求める署名も始まり、2月18日には会見も開かれた。いったい、何が起きているのか。

「子ども自身、親、そして子どもを取り巻く先生や大人、学校や児童相談所など、その全員に共通するルールが日本にはないんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、日本大学文理学部教授の末冨芳さん(教育行政学、教育財政学)。内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員でもある。

末冨さんが指摘するように、日本には、「子どもの権利」を明確に定める根本部分となる法律が、実は存在しない。

大人と同等の人権を認める「子どもの権利条約」に日本が批准したのは1994年。

18差未満の子どもに、「生命、生存及び発達に対する権利」「子どもの最善の利益」「子どもの意見の尊重」「差別の禁止」の4つの一般原則を定めたものだが、国内法は30年近く、整備されないままだった。

虐待やいじめ、子どもの貧困などに対し、社会の関心は高まっている。その権利を定め、関連政策の根本を示し、国や地方自治体の責務を明示した基本法の必要性は、支援現場や専門家からも、たびたび訴えられてきた。末冨さんはいう。

「条約を批准したところで国内法になってない限り、法治国家のこの国では何一つ変わりません。根本となる法律ができることで、教育の現場、福祉の現場、そして学校外のあらゆる場で、子ども自身の最善の利益や、守られる権利を大人と子どもの共通認識にすることができるんです」

「4つの原則のなかでも、特に大切なのが意見尊重です。大人ファーストではなく、子どもが願うことを、大人と一緒に考えることが大切。そうすれば、大人が考えるだけではなく、それぞれの一人一人の子どもにより寄り添う仕組みをつくれるようになるはずです」

こうした中でいま、議論が進んでいるのが「こども基本法」だ。「こども家庭庁」(こども庁)の成立に合わせ、今国会での成立を目指した議論が与党内でも進んでいる。

自民議員「誤った子ども中心主義」と懸念も

しかし、いま、この法律が提出されるのかどうか、暗雲が立ち込めている。自民党内の会議では「保守派」とされる議員が反対や懸念を表明していることが、たびたび伝えられているのだ。

なかでも賛否が割れているのが、「こどもコミッショナー」の設置案。子どもの権利が守られているか、行政や政策に関する調査・勧告の権限を持つ、独立した組織だ。

時事通信によると、自民党内の「こども・若者輝く未来実現会議」では、たとえばこのような反対意見があがっているという。

「左派の考え方だ。恣意的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」(山谷えり子・参議院議員)

「個人を大事にし、それを拘束するものは悪であるというマルクス主義思想があり、制度を作ったらそういう人たちばっかりだったみたいなことになる」(城内実・衆議院議員)

また、毎日新聞と共同通信によると、「家庭の中に第三者の権力が入り、家庭教育の自主性がゆがめられかねない」「大人の注意を『虐待だ』と通報する子どもが出たら、どうするのか」という意見もあったという。

賛成議員もいるが、議論は紛糾。「提出に慎重論目立つ」(産経新聞)と後ろ向きに報じるメディアもある。

なお、同紙は名称を「こども基本法」ではなく「こども家庭基本法」にすべきとの意見があったとも伝えている。「家庭の役割を重視すべき」という保守層の意見を受けたものという。

また、自民党の西田昌司・参議院議員もこうした議論を受け、自身のYouTubeに「家族を分断する左翼勢力を警戒して、日本的価値を再興せよ」とする動画をアップロードしている。

「大事なのはイデオロギーではなく…」

こうした「保守派」による反対意見について、末冨さんはこう苦言を呈す。

「視点が子どもからずれている。右か左かって大人の議論じゃないですか。大人がイデオロギーでいがみ合うことで、子ども自身の状況は何もよくなりません。大事なのはイデオロギーではなく、子ども自身が幸せに育つことができ、恐ろしい目に合わなくて済む社会ですよね」

「そのゴール自体がそもそも共有されているのかが見えない。イデオロギーに染まった社会しか見えてなくて、子どものことなんか1ミリも見えてないんじゃないかな、と心配になります。『保守派』という言い方自体、やめたほうがいい。子どもに本当は関心がない方たちではないかと心配しています」

そのうえで、「こどもコミッショナー」への反対意見については、こう指摘する。

「たとえばいじめの隠蔽はずっとなくならず、横行していますよね。旭川事件もそうですが、日本は地方自治の建前に守られて、文部科学大臣の是正の指示、法務省の人権相談の仕組みもあるが、結局、教育委員会や学校が隠蔽したときの調査・改善に関する国の権限は曖昧で弱いままです」

「文部科学省にも、強い権限やいじめ隠蔽の調査・改善の仕組みがない。関係団体が独立した児童の権利擁護機関を願うのは、そうしなければいつまでも駄目な地方自治体は隠蔽し、子どもの命を犠牲にし続けるという深刻な懸念があるからです」

「こうした実態を改善するために、『こどもコミッショナー』にどのような役割を持ってもらうのか、どのような権限を持つ組織として設置すべきなのか、与野党でヒアリングや議論をし、合意形成していくのが国民に選ばれた国会議員の仕事なのではないでしょうか」

「大人ファースト」のこの国では

また、「こども家庭庁」の議論でも持ち上がっていた、「家庭」を重視すべきという保守派の姿勢についても、「決して、子どもと家庭を切り離し、家族を分断させようとしているわけではありません」としながら、こう述べた。

「どうしても家庭をベースに考えてしまう方が一定数いますが、大抵の子どものリスクは家庭によって引き起こされてている。子どもが家庭の犠牲にならないように、親だけではなくたくさんの大人が、子どもの側からも関われるようにしていくことが大切です」

「もちろん親の側にも寄り添うことも大事ですが、千葉県野田市の心愛ちゃん事件のように、『大人ファースト』で親に子どものアンケートを見せてしまい、子ども自身の生命が危険になるようなことは、ゼロにしなくてはなりません」

「子どもに関わる大人たちが、『こども基本法』で共通認識を作ることで、早い段階から子どもを守り、家庭にも寄り添うことが可能になり、親子の分断が避けられる。親子を分断しないためにも、大人ファーストのこの国では、子ども自身を大切にする法や政策をもっと充実していく必要があります」

そう言葉に力を込める末冨さんは、反対の立場にいる議員たちとコミュニケーションや対話を続けることで、その「偏見」を取り除いていきたいとも語る。

「家庭を大事に思っている方々は、どこかで子どもを大事に思っているということでしょう。しかし、あまりにも困難な状況の子どもたちの様子をご存知ないのかもしれないし、子どもや若者支援団体がマルクス主義の人で満ちあふれているという偏見をお持ちなので、私も研究者として反対されている先生方に説明をするなどし、それを取り除きたいと考えています」

末冨さんはいま、子どもに関わるNPOのメンバーや専門家の人たちとともに、法案成立を求める署名活動を呼びかけている。「子どもが一人ひとりの人間として大切にされ、守られながら自分らしく生きられる社会を作るため」と訴えていく方針だ。

「これだけ変化の激しい時代にあっては、子どもと大人で一緒に考えて、こうした方がいいよねとふうにしていかないといけないのではないでしょうか。家庭が困難であれ、どのような境遇にある子どもたちであっても、その願いを叶えて支えて、社会に送り出すことが、大人と国家の責任であると私は思っています」