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政治家の発言の45%が「誤情報」 10年間フェイクと向き合った専門家が語ったこと

日本でも始まったファクトチェックの取り組み。最前線のアメリカでは何が起きているのか。

政治家の発言や報道、ネット情報などの真偽を調べる「ファクトチェック」。日本でも推進するNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」ができるなど、その重要性が認知されつつある。

10年以上前から実績をつむアメリカには、どういう現状があるのか。

「私たちが10年間、ファクトチェックをしてわかったことがあります。政治家は本当に真実だけを伝えているわけではない」

そう語るのは、アメリカで2007年からファクトチェックを牽引してきたサイト「PolitiFact」事務局長のアーロン・シャロックマンさんだ。PolitiFactは2009年にはピューリッツァー賞を受賞している。

10年間で1万3500件を党派に関係なくチェック

チェックしてきた情報(2017年7月まで)は10年間で1万3500件、その多くは大統領や大統領選の候補者など、主要な政治家の発言だ。当事者だけではなく、自分たちでソースを確認することを徹底している。

4月22日、FIJの設立を記念して開かれたシンポジウム「『ポスト真実』時代におけるファクトチェックの可能性」で基調講演したアーロンさんは言う。

「日本の首相にせよアメリカ大統領にせよ、選ばれたトップはファクトチェックされなければいけない。それがオバマ大統領であれ、トランプ大統領であれ。政党は関係なく、トップにいる限りファクトチェックされるべきなのです」

44.7%が「誤り」、ダントツに多いのはトランプ大統領

「PolitiFact」が調べたの言説のうち、44.7%は一部か全部が間違っており、完全に正しかったのは15.6%にすぎなかったという。

「これをもってすべての政治家がそうだ、ということはできません。それでも私たちには、一般の人たちが真実とそれ以外を見分けらえれるようにする、という使命があります」

政治家による誤情報は、トランプ大統領が群を抜いているとも指摘する。分析した530言説のうち、およそ70%が誤情報だったからだ。

なかでも、全く根拠のなかった言説は75件。これは、オバマ大統領とヒラリー・クリントン候補の合計をも上回っているという。

「トランプ大統領は、フェイクニュースという言葉を400回以上使っている。それは本来の意味ではなく、彼が気に入らないことをそう指摘しているのです。それこそが、問題だと言えます」

ネットで情報の「いいとこ取り」

右と左、リベラルと保守など、社会の極性化が進む中で、自分と意見が違えば、客観的なファクトチェックも信じない人が増えているのではないか。会場からはそんな質問も出た。

「何か問題がある場合、事実を理解したうえで、それぞれが信じることを引き出してもらいたいが、今の世の中では信じることが先になってしまっている。インターネットでそうした情報をいいとこ取りできるからでしょう」

「それでも正しい情報は、社会の両極の間にいる大勢の人たちに届くはずです。彼らが適切な情報を提供されたとき、より良い選択ができるようになっていくのではないでしょうか」

そのうえでアーロンさんは「できるだけ多くの人たちに会って、真実を広げること、話し続けることが大切です」とも強調する。

「PolitiFact」では、テレビ番組で毎週ファクトチェックの結果を発表しているほか、さまざまな政治団体などにも直接足を運び、その意義や客観性が担保されていることを説明するという。

寄付や広告で黒字化、11人体制に

当初3人でスタートした「PolitiFact」は、現在11人に。寄付や広告を収益にしている。情報の信頼性が重要視されるようになり、サイト訪問者数は増え、黒字化しているという。

「正しい情報を探し、人々に真実を伝え、複雑な問題をわかりやすく説明するという点では、従来のジャーナリズムとやっていることは変わりません」

Facebook社とも協力し、ネット上に飛び交う「フェイクニュース」とみられる情報のチェックも担う。ただ、リソースが足りているとは言えない。

「誤情報はとても早く拡散する。すべてをモグラ叩きのように確認していくのは、ガンジス川の水をコップ一杯で入れ替えるような作業です。止めることは、簡単ではありません」

だからこそ、メディアだけではなく、プラットフォームや広告業者で取り組みを進めていくことが重要ともいう。

「ファクトチェックは、とても労力が必要である作業です。その一方で、わくわくするような結果が生まれないこともある。猫のビデオのように、拡散もしないことだってある」

「しかし、大切なことなのです。ファクトチェックがより浸透していくことで、人々が、政治家の言葉に批判的に耳を傾けるようになるかもしれない。それは、政治家への脅威ともなりうるのですから」

一連の問題は、日本でもすでに起きていることだ。しかし、ファクトチェックの実例は少ない。

FIJが設立し、BuzzFeed Newsも協力を深めているが、主要メディアが競うように取り組むアメリカに比べ、まだまだ大きな広がりがないのが現状だ。

どこまで「誤情報」との対峙にリソースを割くことができるのか。「ファクト」が揺らぐいまだからこそ、本腰を入れた対策が求められている。


BuzzFeed Newsは政治家の発言やメディアの報道、ネット情報などを検証する「ファクトチェック」を実施しています。情報提供はこちら(japan-report@buzzfeed.com)。