乳がん検診の大切さを啓発するためのポスターのデザインなどに当事者らから批判の声が相次ぎ、主催する日本対がん協会が謝罪した。
「当事者の誰もが傷つかないよう、配慮してほしい」。乳がんサバイバーの女性は、そう語る。一連の問題をどう捉えているのか、思いを聞いた。
今回批判が集まったのは、日本対がん協会や朝日新聞社などが主催する「ピンクリボンフェスティバル」の「デザイン大賞」で、入賞した作品だ。
2021年のグランプリとなったポスターでは、乳がん検診を促すメッセージを伝えるため、胸を模したような色合いの「ガラポン」抽選器のイラストを掲載。乳がんと福引きの「当たり」を結びつけたデザインになっている。
SNSでは、当事者らから「がんは当たりじゃない」「誰も乳がんを望んでいない」といった批判が相次いだのだ。
また、同大賞の過去の入賞作品をめぐっても、検診に行かないことの原因が女性の怠惰にあると想起させるものや、性的役割分担を強調したもの、女性の胸を男性の所有物とイメージしたものなどがあるとして、さらに批判が集まった。
これを受け、日本対がん協会は2月21日、サイト上に以下の謝罪文を掲載した。
日本対がん協会が主管するピンクリボンデザイン大賞は、乳がんの早期発見の大切さを伝え、検診受診を呼びかけるとともに、正しい知識を習得していただき、ご自分に合った適切な行動を起こしていただくことを目的に実施しております。
これまでの入選作品に対し、問題点を指摘する多くのご意見が寄せられております。選考の責任はわたくしども協会にあり、お気持ちを傷つけてしまった患者さんやご家族のみなさまにお詫びを申し上げます。また、偏った価値観に基づいて作品が選ばれているとのご批判もいただきました。ご意見を真摯に受け止め、よりよい啓発活動のあり方を探ってまいります。
「患者への理解が全くない」
「ショックと驚きと、悲しさと怒りと、冗談であってほしいという気持ちが込み上げてきました」。そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、乳がんサバイバーの女性(51)だ。
40歳のころ、入浴中にしこりに気がつき、乳がんが発覚。部分切除の手術や25回の放射線治療、10年にわたるホルモン剤治療などを乗り越えて、いまに至る。
女性は、問題視された一連のポスターを見て、こう感じたという。
「いまだに優しさや思いやり、患者への理解がまったくないんだなと感じました。2人に1人ががん患者だと言われている時代にあって、デザイン性だけで、乳がん患者がどう思うかが考えられていないように思います」
ピンクリボン大賞のサイトによれば、ポスター選考の過程では患者会による審査もあるという。だが、女性はより広く闘病経験者や医師らの声を反映してほしいと感じた。
「ガラポンは“運”の要素が強いようにとれ、啓発として説得力が感じられませんでした。(過去の受賞作には)食べ過ぎて肥満でダラダラ生活をしていると乳がんになると読み取れるようなポスターもありましたが、それは誤解だと伝えたいです」
自らの発症が発覚したとき、長女は小学5年生。そして長男は、幼稚園の年中だった。当時をこう振り返る。
「自分は死んでしまうんだ、と発覚直後や治療中に感じていました。子どもと一緒に寝ながら、夜な夜な涙が出てきたのを思い出します」
「特に5歳の子を家に残しての入院は不憫で、前日まで家を離れることを拒みましたが、家族に頼むから手術をしてくれと説得されました。子どもを残しては死ねないと、泣く泣く入院をしました」
それから10年、治療を続けてきた。「命の大切さを知り、一度は死を覚悟した。日々に感謝していて、身体になんの異常もないことがなにより幸せだと思います」
だからこそ。検診の大切さをしっかり啓発してほしいと、女性は願っている。
「より多くの人の声を取り入れられれば、もっと良い啓発ができるのではないでしょうか。『ピンクリボン』だけにハートや愛、心を感じられる明るいポスターが良い。当事者の誰もが傷つかないよう、配慮していただきたいです」