なぜ小田急線は火災の前で停止したのか?

    幸いにして乗客約300人にけがはなかったが…

    9月10日午後4時すぎ、小田急小田原線参宮橋駅付近(東京都渋谷区)で火災が発生、沿線を停止していた列車の屋根に燃え移った。

    乗客約300人にけが人はなかったが、この火災を受け、小田急線は一部区間で午後9時半ごろまで5時間近く運転を見合わせた。約7万1000人に影響が出るなど、大きな混乱が生じた。

    なぜ、列車は火災の前で停車してしまったのだろうか。BuzzFeed Newsは、小田急電鉄に取材した。

    そもそも、火災があったボクシングジム(参宮橋駅から約300メートル南)の前で停止し、屋根に燃え移ったのは前方から2両目の車両だ。屋根15平方メートルが燃えた。

    小田急電鉄によると、車両はステンレス構造。電気の絶縁のためにウレタン樹脂を使用しているが、これは防火基準を満たすように、難燃剤を混じえたものにしているという。

    では、なぜ火災の前で列車は停止したのか。小田急電鉄の広報担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対しこう説明する。

    「現場近くにある踏切の非常停止ボタンを最寄りの警察の方が押した結果、自動的に列車ブレーキがかかり、火災現場の前に停止してしまった」

    改めて、時系列を整理しよう。小田急電鉄の説明によると、火災の経緯は以下の通りだ。


    • 午後4時09分:火災を認めた警察官が踏切の非常停止ボタンを押す
    • 午後4時11分:列車が自動停止、運転士が踏切の安全確認に向かう
    • 午後4時19分:列車を移動させようとしたが、屋根への類焼を認め、消防の指示でただちに停止
    • 午後4時22分:避難誘導を開始する
    • 午後4時42分:避難が完了する

    午後4時11分に自動停止した列車を、即座に火災現場から動かすという措置は取られなかったのか。広報担当者はこう説明する。

    「踏切上の安全を確認し、非常停止を解除しない限りは運転は再開できません」

    踏切から停止位置までは23メートルほどの距離がある。運転手は、一旦電車から降り、現場の安全を確認。同時に後方での火災が発生していることを確認したため、車両を安全な地点まで避難させる判断を取ったという。

    列車が移動されたのは、約8分後のことだ。ただ、屋根に火が燃え移っていることが確認された列車は、消防の指示を受けすぐに停止。約120メートル移動したという。

    この時間については、安全確認とともに司令所と連絡を取り合うなどしていたため、「やむを得ない」(担当者)長さだという。一方、ある乗客はBuzzFeed Newsの取材に対し、「火災があまりに近くだったので、燃え移るのではという緊張感があった」と語っている。

    再度列車が停止した3分後から、避難誘導が始まった。車内アナウンスでは後方からの避難を呼びかけたとともに、火災の起きた2両目を避けるため、運転手も肉声で前からの避難を呼びかけた。

    乗客約300人の避難が完了したのは、列車が最初に停止してから31分後のことだ。

    そもそも、小田急の沿線火災マニュアルはどのような内容なのだろうか。担当者は言う。

    「沿線、列車を運転している途中で火災を認めた場合は、運転士または車掌は運輸司令所に報告するという規定を定め、もっとも安全と思われる行動をとるように定めています」

    もっとも安全、とは。

    「通過するも一つの選択肢、手前に止まるのがもう一つの選択肢です。ただ、今回は非常停止ボタンが押されたことによって、システム上、停止位置が現場付近となってしまった」

    「これにより、ご不安とご心配をおかけし、申し訳ありません。もちろん、非常ボタンが押されたことは、安全を最優先とした警察官の方の判断です。緊急時は躊躇なく押してもらいたい」

    火災時に車両が現場前で自動停止してしまった、イレギュラーとも言える今回のケース。これを受け、マニュアルを改善する可能性はあるのだろうか。

    担当者は「起きたばかりの事象なので、今すぐにということはお答えできない」としつつ、こうも説明した。

    「運転士や車掌、関係職場などのヒアリングも必要になるかもしれない。異常を早期発見できるよう、お客様の安全確保に努めていくとともに、避難誘導については日頃から指導を徹底していきたい」


    BuzzFeed Newsでは【小田急線に沿線火災が延焼、そのとき乗客は…】という記事も掲載しています。

    CORRECTION

    列車の移動距離を訂正しました。