「彼女の時は止まったまま」高齢ドライバーに奪われた女子高生の命、友人たちが国に署名提出

    後を絶たない高齢ドライバーによる交通事故。そうした被害を少しでも食い止めようと、4年前に事故で亡くなった稲垣聖菜さん(当時15)の母親や友人たちが集めた署名を提出した。

    大好きだったRADWIMPSのライブに行こうとしていた日、彼女は乗用車にはねられ、亡くなった。16歳の誕生日まで、あと2日だった。

    運転手はそのとき、80歳だった。ブレーキを踏めば間に合ったものの、アクセルを踏み込んでいたーー。

    「もっと長い人生を生きられたのに。ほんとうに悔しい」。友人が、そんな思いで事故直後から続け、4年間かけて集まった約4万8千筆の署名が2月18日、政府に提出された。

    県立高校に通い、ダンス部に所属していた稲垣聖菜さん(当時15)は2015年12月23日、大好きだったバンド、RADWIMPSのライブを友人と見に行く予定だった。約束より早めの14時ごろ、家を出た。

    事故があったのは、最寄駅に向かう途中のことだった。裁判の弁論要旨などによると、渋滞道路を渡り終わって道路脇を歩いていた聖菜さんめがけて、一台の乗用車がぶつかった。

    高齢だった運転手はそのままブレーキを踏むことはなく、アクセルを踏んで急加速した。聖菜さんは、鉄製のポールと車の間に挟まれ、死亡した。その叫び声は、100メートル離れたマンションの一室まで届いていたという。

    さいたま地裁(古玉正紀裁判官)は2016年12月16日、運転していた男に対し、過失運転致死で禁固1年6月の実刑判決を言い渡した。交通事故の中では重い部類だった。

    「このままでは死が報われない」

    中学時代の同級生だった舟木優斗さん(19)は、事故の前日に、聖菜さんとLINEのやり取りをしたばかりだった。「このままでは死が報われない、何かしてあげたい」

    そんな思いから、3日後から「Change.org」で署名をはじめた。高齢ドライバーによる人身事故防止の対策を求める内容だった。

    最初の300筆ほどは友人たちが賛同し、じわじわと広がりを見せ、1年後には1万筆に達した。

    そして、事故から4年と2ヶ月が経った2020年2月18日、署名が提出された。内閣府の担当者が代表として受け取り、国土交通省と経済産業省、警察庁の担当者も同席した。

    あわせて提出した要望書では、以下のような取り組みを、政府に求めた。

    • 後期高齢者(75歳以上)の免許更新を毎年にすること
    • シュミレーションテストによる運転能力の判定(厳格化および義務化)、不適合なら強制返納する制度創出
    • 免許返納後の交通手段確保にむけた取り組み(タクシーの利用補助や循環バスの増便補助など)
    • 事故防止にむけた自動車のより一層の技術開発


    彼女の時は止まったまま

    署名提出後、母親の智恵美さん(50)は「娘を失い絶望のなかにいたとき、署名活動に寄せられた多くの励ましの声に救われました」と振り返る。

    「きょうも、娘と一緒にここにきているつもりでした。聖菜と対話しながら、その日がくるまで、活動を続けていきたい。署名提出は、第一歩だと思っています」

    また、提出には友人たちも参加した。高校時代に同じ部活動に参加していた遠田みさきさん(19)は、こう語った。

    「私たちは普通に生きているなかで、彼女の時は止まったまま。やっと、こうやって署名を出すことができて、彼女に『これからもやっていくからね』と声が届いたと思います」

    また、舟木さんも「これが終わりではなく、これがはじまり。引き続き活動を続けていきたいです」と述べた。

    加害者は、亡くなった

    「この4年の間にも、高齢ドライバーの事故によって、多くの命が奪われました。制度が整っていれば、聖菜やほかの被害者の方たちの命も、守られていたはずです」

    聖菜さんの命を奪った加害者は1年前に、亡くなった。智恵美さんは「これが高齢ドライバーによる事故の現実なんです」とやりきれない思いを吐露し、こうも言葉に力を込めた。

    「高齢ドライバーの方には、周りの人たちの声に耳を傾けて、免許を返納する判断をしてもらいたいと思っています。なによりも、かけがえのない大切な命を、奪わない社会になってほしい」

    実際に制度が整うまで、署名は今後も続くという。詳細は「Change.org」より。


    ご意見を募集しています

    📣BuzzFeed Newsでは、LINE公式アカウント「バズおぴ」(@buzzopi)で、読者の皆さんのご意見を募集しています。

    日々の暮らしで気になる問題やテーマについて、皆さんの声をもとに記者がニュースを発信します。

    情報や質問も気軽にお寄せください🙌様々なご意見、お待ちしています。

    友だち追加