「ネットではヘイトが野放しのまま」対策法制定2年、何が変わったのか

    今後も残る問題点とは。

    ヘイトスピーチ対策法が制定され、2年が経った。いまだネット上に溢れるヘイトと向き合うためには、どうしたら良いのか。

    国内に居住する外国籍の人らへの差別や排除の扇動をするような言動の抑止や、解消を目的としたヘイトスピーチ対策法が制定されたのは2016年6月のことだ。

    ヘイト問題に対する社会的な注目が高まっただけではなく、川崎市が利用制限を設けたガイドラインを制定するなどし、街頭における大規模デモなどへの一定の効果はあったと言える。

    ただ、対策法は具体的な罰則規定がない「理念法」であるため、いまだに多くの「ヘイト」は野放しになっているままだ。

    特に、インターネット上においては多くのコメントや書き込みが止まる気配はない。Twitterや「まとめサイト」における情報だけではなく、2018年5月には、内閣府が運営するサイトにヘイトコメントが書き込まれ、放置されていたことも明らかになっている。

    こうした状況については、より強い規制や行政による監視を求める声があがっている一方、「表現の自由」との兼ね合いもあり、過度な規制が「検閲」にならないよう心配する声もある。

    数百万円稼ぐ「まとめサイト」も

    5月30日には、ネット上のヘイト問題を考える集会が参議院議員会館で開かれ、識者らが対策法が及ばないことで起きている問題点を説明した。

    ジャーナリストの津田大介さんは、いわゆる「嫌韓・嫌中」のまとめサイトなどが多くが、広告収入目的でヘイトや差別情報を拡散させていることを問題視。

    なかには月に数百万円単位で稼いでいるサイトがあることにも言及しながら、「ヘイトを載せているようなサイトには広告をつけられないようにするというような経済制裁的な規制が必要ではないか」と述べた。

    津田さんはまた、現行のプロバイダ責任制限法(プロ責法)の見直しにも言及した。

    プロ責法では、権利侵害を受けた被害者がプロバイダ側に「発信者情報開示」を求めることができると定められている。

    ただ、発信者保護の観点などから任意では応じないケースがほとんどで、裁判を起こす必要があるなど、被害者個人の負担も大きい。

    津田さんは「誰がどのような目的でやっているかきちんと特定して訴訟できるよう、見直しが必要ではないか」と訴え、一方で「検閲、インターネット監視とつながってしまうという副作用も大きい」として、表現の自由を犯さないような、慎重な規制の必要性を訴えた。

    ドイツでは最大63億円の罰則

    一方、龍谷大学教員の金尚均・龍谷大法学部教授(刑法)は、ドイツにおけるヘイトスピーチ対策について語った。

    ドイツでは2018年から、明らかに違法なヘイトな書き込みの24時間以内削除などを定めた法整備を実施。SNSやメディア運営者側に最大で5000万ユーロ(約63億円)の罰則を設けている。

    金教授は、ドイツでは違法な表現内容が細かに定められている点や、申請から削除までが短時間であることを評価。

    「日本では、犯罪であると認定されたケースでも情報が残っていることもある。ヘイトスピーチ対策法などの制定に合わせ、新たな法改正をすべきではないか」と指摘し、刑法(名誉毀損や脅迫)のインターネットに特化した罰則整備や、プロ責法改正の必要性を訴えた。

    現行法ではヘイトが野放しに…?

    現状の法規制では不十分だという声は、現場の弁護士からも声があがった。

    Twitter上における在日コリアン女性への脅迫事件を担当していた師岡康子弁護士は、「ヘイトスピーチが法律上違法となっておらず、差別的動機によるヘイトクライムも明文上規定されていない」と、理念法であるゆえの問題点を指摘した。

    実際、数百寄せられた誹謗中傷・ヘイトのツイートのうち、脅迫罪にあたる30件のみしか告訴できなかったという。事件では5月18日、藤沢市在住の50歳の男が書類送検されたが、起訴されるかは不明だ。

    師岡弁護士は、「刑法に触れなければ野放しのままになってしまう。現行法令では、ヘイトスピーチの被害に対応しきれない」と語った。

    会ではこの他にも、ヘイトスピーチ対策法が直接の対象に定めている外国人らだけではなく、被差別部落出身者や障害者などへのヘイトや差別が蔓延していることも問題視する声もあがった。

    採択されたアピール文では「実際の取り組みはきわめて不十分」「ネットでのヘイトスピーチが改善される様子はまったく見えません」として、政府や地方自治体に法整備やモニタリングの実施などを求めた。