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「ロシアによるウクライナ侵略は…」防衛省が“異例”の情報発信。Twitterを活用、そのねらいとは

ウクライナ、ロシア側の発信やシンクタンクの情報をまとめたものだが、他国間で起きている戦争に関して、防衛省がSNSでこうした発信をすることは異例。Twitter上では3万いいねが集まるなど、大きく注目された。

ロシアによるウクライナ侵略が始まって1ヶ月。防衛省が公式Twitterなどを通じて、地図などを用いた「戦況分析」の情報発信を続け、注目を集めている。

戦闘機やミサイルなど通常兵器による攻撃だけではなく、情報戦やサイバー攻撃なども駆使した「ハイブリッド戦争」の脅威が指摘されるなか、防衛省としても情報発信を強化しているという。狙いを聞いた。

今回のロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更であり、欧州のみならずアジアを含む国際秩序の根幹を揺るがす行為です。 防衛省としては、インド・太平洋地域への影響も見据えながら、関連動向の情報収集・分析に努めており、可能な限り共有していきたいと考えています。

Twitter: @ModJapan_jp

防衛省・自衛隊の公式アカウントで最初の「戦況分析」が発信されたのは、3月3日。軍事侵攻が始まってから1週間後のことだった(写真上)。

ウクライナ、ロシア側の発信やシンクタンクの情報をまとめたものだが、他国間で起きている戦争に関して、防衛省がSNSでこうした発信をすることは異例。Twitter上では3万いいねが集まるなど、大きく注目された。

戦況分析はその後も継続しており、23日までに計5回投稿している。また、サイト上では、アメリカ国防省とウクライナ軍参謀本部による戦況や被害状況を時系列にまとめた表も公開している。

「ロシアによる一方的な現状変更は断じて認められません」と強い言葉を用いるものもあった。いったい、どのような狙いがあるのか。BuzzFeed Newsの取材に対し、同省報道室はこう回答した。

「防衛省・自衛隊の活動は、国民の皆さまのご理解とご支持があって初めて成り立つものであり、平素からホームページやSNSなどを通じて分かりやすい広報活動を積極的に行っているところです」

「我が国を取り巻く安全保障環境については、これまでも、例えば、ロシアの軍事動向を含む周辺国の情勢、中華人民共和国海警法、北朝鮮による核・ミサイル開発などを積極的に発信しています。我が国の安全保障の観点からも決して看過できません」

そのうえで、「今回のロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更であり、欧州のみならずアジアを含む国際秩序の根幹を揺るがす行為」と強調。こう述べた。

「防衛省としては、インド・太平洋地域への影響も見据えながら、関連動向の情報収集・分析に努めており、国民の皆さまのご関心が高いことも踏まえ、引き続き可能な限り、情報を発信していきたいと考えています」

「ハイブリッド戦」への対峙も

防衛省がSNSを通じた情報発信に力を入れる背景には、近年その脅威が指摘されている「ハイブリッド戦争」の存在がある。

兵器を用いた実際の地上戦だけでなく、インターネット上でのフェイクニュース(偽情報)の発信などで世論をかく乱し、有利な方向に誘導する情報戦や、他国の国家機関や企業などへのサイバー攻撃などを駆使したものだ。

今回のウクライナ侵略においても、ロシアがそうした手法をとっているとみて、防衛省は問題視しているという。「偽情報」についてのBuzzFeed Newsの取材に対し、報道室はこう返答した。

「近年、国際社会においては、自らに有利な国際・地域秩序の形成を目指した政治・経済・軍事等の幅広い分野にわたる国家間の競争が顕在化するとともに、偽情報の流布を含む様々な宣伝工作等が行われるなど、伝統的な安全保障領域にとどまらない動きが指摘されています」

「今般のウクライナ侵略においても、いわゆる『偽旗作戦』と呼ばれるような行為やウクライナ政府機関等へのサイバー攻撃を行っているとの指摘があり、『ハイブリッド戦』の手法をとっているとみられます」

「こうした手法により、ロシアは、ウクライナへの軍事行動を正当化するための口実を作為するとともに、相手方の混乱を企図していると考えられます」

「偽旗作戦」とは、「敵から攻撃を受けた」「敵が攻撃の準備をしている」などと主張して自己を正当化するため、自作自演の謀略攻撃を行ったり、偽情報を流したりすることだ。世論を誘導する狙いもある。

ウクライナ侵略をめぐっては、ウクライナがアメリカの協力を得て生物化学兵器を開発しているとする偽情報などを流しており、「偽旗作戦」にあたるとされている。

インターネット上では、ロシア側の公的アカウントやメディアなどによるそうした情報発信が多々見られている。また、偽のSNSアカウントや、陰謀論「Qアノン」の信奉者を介したネットワークでの拡散を指摘する声もある。AIを用いた「ディープフェイク」を活用した例も報じられている

こうした情報戦が活発化するなかで、情報発信を強化していきたいという狙いが防衛省にはあるようだ。

「防衛省・自衛隊としては、このように国際情勢が複雑化しつつある状況を踏まえ、情報の収集・分析能力を強化するとともに、諸外国の動向等について、国民の皆さまや諸外国に対し、様々な言語や媒体を用いて積極的に発信してきているところです」

ウクライナ情勢をめぐっては、ロシア側からの発信のほかにも、さまざまな誤情報、偽情報が飛び交っている。

プラットフォーム側も規制を強化しているほか、メディアによるファクトチェックの対象となっている言説も多く存在する。情報の取り扱いにはより注意が必要だ。