日本の四大公害と言われる水俣病を世界に伝えたフォトジャーナリスト、ユージン・スミスを描いた映画『MINAMATA』(配給:ロングライド、アルバトロス・フィルム)。
9月23日から全国で公開されるのを前に、主演でプロデューサーも務めたジョニー・デップさんらが2日、オンライン記者会見を開き、映画を通じて伝えようとした思いを語った。
水俣病は、化学メーカー「チッソ」が海に垂れ流した水銀によって起きた公害病。公式確認は1956年で、汚染された魚などを食べた住民らが脳や神経を侵された。
雑誌『ライフ』を中心に様々な作品を発表していたユージン・スミスは、1971年から3年間、水俣に滞在。
妻のアイリーン・美緒子・スミスとともに、患者たちの様子をフィルムに収め、写真集「MINAMATA」を発表した。
母親の胎内で影響を受け、重い障害を持って生まれた胎児性患者・上村智子さんの写真「入浴する智子と母」は、多くの人に衝撃を与え、その病の存在を世界に知らしめるきっかけとなった。
写真は智子さんの両親の意向から1998年に公開を「封印」され、写真集も絶版となっていたが、今回の映画公開を合わせ、クレヴィスから復刻されることになった。
「いまも世界中で同じようなことが」
映画では、デップさんが演じるユージンが水俣病と出会い、現地で患者らと関係性を紡いでいきながら、企業による犯罪的行為を写真の力で告発するまでを描いた。
アイリーンは美波さんが演じ、患者やその家族を真田広之さんや浅野忠信さん、加瀬亮さんが、そしてチッソの社長を國村隼さんが演じている。
プロデューサーも務めたデップさんは「水俣病のことを聞いたときは悪夢と思った」と評していた。会見では、「この映画は、いまの時代に見られるべきもの」と語った。
「水俣病では多くの人が苦しんだ。そしていまも世界中で同じようなことが繰り返されている。水俣の皆さんがたどってきた軌跡とともに、企業の腐敗が存在しうること、それが見逃されるのならば蔓延ってしまうという事実を伝えられれば、と思っています」
「水俣で起きたことは本当に大きなショックを与える出来事でしたが、そのあと世界で起きた色々なことの予兆にしかすぎなかったのかもしれません。一部に権力が集中している企業や政府は都合のいいことしか伝えず、人々の分断が進みました」
「私は陰謀論者ではありませんし、コロナ禍が誰かに引き起こされたとは思っていません。しかし、分断や孤立、猜疑心や恐怖心はさらに深まった。不正義は世界中に存在します。映画で描いたように、腐敗が伝わることで、人々は動いた。水俣という小さな漁村でそれができたのであれば、ほかの多くのところでも、可能なのではないでしょうか」
監督が伝えようとしたこと
一方、アンドリュー・レヴィタス監督は「工業汚染がいかに世界で多くの人を苦しめているのか、広い視点で見ると同時に、ユージン・スミスの目線から水俣の勇敢な人々の姿と、いまも続くその戦いを知ってもらいたい」と述べた。
水俣病をめぐっては、いまもチッソや国を相手取った裁判が続いている。症状がありながら患者と認められない人たちも多く、被害の全容は明らかになっていない。
また、水俣湾に垂れ流された水銀や汚染された魚は処理することができず、そのまま埋め立てられ、「エコパーク水俣」という名前がつけられた。チッソは「JNC」(「ジャパン・ニュー・チッソ」の頭文字)という社名で、いまも水俣市で工場の操業を続けている。
水俣市が映画の先行上映会の後援を「複雑な住民感情」(市長)を理由に断ったという事実は、水俣病が「終わっていない」こうした現状を反映させているものだといえる。
撮影前に水俣に滞在し、患者や支援者と交流したレヴィタス監督は「この映画をきっかけに支援が広がってほしい」と述べ、さらにこうも語った。
「世界にはこの水俣の世界の人たちのように、困窮しつつも支援を得られない状態にある人が多くいる。この映画が、そうしたコミュニティの人たちが抵抗して声をあげ、存在を示すための一助になってもらえれば」
デップさんは「忘れないでほしいのは、皆さんの近くでもこういったことが起きているということ。誰か他の人にできることがないか、日々の中で、1日数分だけでも費やして、思いを馳せてほしいと思います」と結んだ。