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「朝鮮学校への攻撃を煽る」MBSラジオ「スパイ養成的なところも」発言、BPOに人権侵害申し立て

問題視されているのは、ゲストだった経済評論家の上念司氏が北朝鮮のミサイル問題に関して触れる際の発言。関係者は在日コリアンを狙ったヘイトクライムが相次いでいるなかでの発言は批判を集め、上念氏は降板した。

MBSラジオ(大阪市)で2月に放送された番組内で、朝鮮学校に対して「スパイ養成的なところもあった」などという発言があった問題で、在日本朝鮮人人権協会は3月31日付で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に人権侵害の申し立てをした。

申立書では、発言は「朝鮮学校への攻撃を煽るメッセージ性」を持っており、「効果としてヘイトスピーチ」であると主張。ヘイトクライムの誘因など、「重大な被害をもたらす危険性」があるとした。

そのうえで、局側にはヘイトスピーチであると認めたうえでの改めての謝罪と、反差別の立場を明確にしたステートメントの公表などを求めている。

まず、経緯を振り返る

問題となったのは2月21日の『上泉雄一のええなぁ!』の番組内における発言。

ゲストだった経済評論家の上念司氏が北朝鮮のミサイル問題に関して触れる際、朝鮮総連の「締め付け」の必要性を強調しながら、朝鮮学校の教育方針などにも言及。そのなかで、以下のように述べた。

「公的助成なんてとんでもない話だし。さらにここのOBがね、日本人の拉致に関わってたりとかするわけですよ、スパイ養成的なところもあったりとか、こういうの、やっぱガチで査察を入れたりとかね」

これに対し、弁護士ら専門家や研究者でつくる「在日本朝鮮人人権協会」の関西地方の組織が3月3日、MBSに質問状を送付。

「在特会」による「朝鮮学校襲撃事件」の民事裁判での京都地裁判決(その後ほぼ同一内容で確定)は、同様の発言が「社会的評価たる名誉を著しく損なう不法行為」と認定されたことにも言及し、「到底看過できない発言であり、極めて重大な問題がある」と批判している。

これを受け、MBS側は3月10日の放送やサイト上で「配慮の足りない表現」「誤解を招くような表現」があったとしてお詫び。PodcastやYouTubeの配信から削除され、16日には配信そのものも削除された。なお、お詫び文は「二次被害」を懸念したとして1日でサイト上から削除されていたが、その後再掲されている。

さらに局側は3月24日、発言をした上念氏の降板を発表。「今後の情報発信についての考え方に開きがあることが分かり、最終的にご出演の継続は困難という判断に至りました」と理由を明かしている。

一方で発言については「上念さんの意図は朝鮮学校の子どもたちにとって何が必要かという論評であり、民族教育や朝鮮学校の存在を否定したものではなく、ヘイトスピーチにはあたらないのではないかと考えております」とした。

MBS側はその後、人権協会や朝鮮学校の関係者らと面会をしたが、発言がヘイトスピーチではなく「論評」であるという主張は維持したままだったという。

「危険な言動」が子どもに恐怖を…

人権協会がBPOの放送人権委員会に4月1日に送付した3月31日付の申立書では、こうした局の対応を、以下のように批判した。

「こうした発言が平然と放送局等のマスメディアにおいてなされるようなことになれば、在日朝鮮人に対する猜疑心や攻撃的な思考を一層固着化させるとともに日本社会において深刻な分断を生じさせ、朝鮮学校の保護者・生徒の日常に恐怖をもたらすものであり、およそ放送内容として容認できるものではない」

また、北朝鮮のミサイル発射などを受け、朝鮮学校への嫌がらせや生徒への暴行事件などが相次いだことや、京都府宇治市「ウトロ地区」などへの放火事件など、在日コリアンへのヘイトクライムが相次いでいることにも言及し、こう訴えた。

「こうした社会状況下において、今回の当該発言のように在日朝鮮人への攻撃を煽るメッセージ性をもつ発言が公共性の高いメディアによって放送されることは、それ自体が在日朝鮮人にとって深刻な脅威であり、最悪の場合はヘイトクライムを誘引する等、重大な被害をもたらす危険性がある」

また、申立書とともに、今回の発言はその意図にかかわらず効果として「ヘイトスピーチ」であるとする、龍谷大学法科大学院・金尚均教授の以下のような意見書も提出した。

「発言に煽られて偏見と憎悪をもつに至った人々によって、現実の世界において在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチが行われる恐れは優に想像できる。特に登下校中の朝鮮学校の生徒への言動や行動による攻撃の危険がある」

「人種差別撤廃条約によれば、発言者の意図の有無にかかわらず区別、排除などの効果を生じさせる言動などは人種差別に該当する。本件発言は、人種差別の一つとしてのヘイトスピーチであり、これは将来のヘイトクライムをも誘発する危険な言動である」

そのうえで申立書では、発言がヘイトスピーチであることを認めたうえでの謝罪、二次被害や再発防止措置のために反差別・反ヘイトの立場を明確にしたステートメントの公表、社員教育の徹底、番組の政治的公平性を確保するために最大限の注意を払うことーーなどを求めた。