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放火犯に狙われた…それでも「社会は捨てたもんじゃない」京都・ウトロ平和祈念館の“大きな希望”とは

在日コリアンへの差別感情をもとに、排外的世論を煽るために起こされた京都・ウトロ地区などで起こした連続放火事件。京都地裁は求刑通りの懲役4年の実刑判決を言い渡した。男が「開館阻止」をねらい、史料が焼損したウトロ平和祈念館で、放火に関する特別展が始まる。その思いを聞いた。

在日コリアンが集住する京都・ウトロ地区や、名古屋市の韓国学校などをねらい、22歳の男が起こした連続放火事件。

差別感情をもとにネット上のデマを信じ、さらに憎悪を煽る目的で実行された明確なヘイトクライム。京都地裁は「偏見」に基づいた悪質な犯行だったとして、懲役4年の判決を言い渡した。

被告が「開館阻止」を狙っていた同地区の「平和祈念館」では9月4日から、放火事件を伝える特別展示が開催される。関係者は「差別をめぐる問題が過去のことではないとを知ってもらえれば」と語っている。

事件は2021年8月30日に起きた。空き家など7棟が全半焼し、2世帯が焼け出された。当時、家の中には住民がいたが、幸いにしてけが人はなかった。

当初は失火として処理されていたが、その後、放火事件であることが明らかになった。犯人は愛知県内の韓国学校などに火をつけ、建物を焼損させたとして逮捕されていた22歳の男だった。

被告へのBuzzFeed Newsの取材や裁判などを通じて、被告がネット上にある「在日特権」「不法占拠」などのデマを信じ込んでいたことや、「ヤフコメ民」を煽る目的があったことが明らかになっている。

京都地裁(増田啓祐裁判長)は8月30日の判決で、被告がかねて在日コリアンが「不当に利益を得ているなどとして嫌悪感や敵対感情」を抱いていたと指摘。

「在日韓国・朝鮮人や日本人の不安を煽ることで、自らの望む排外的な世論を喚起すること」を目的に犯行におよんだとした。

そのうえで、ウトロ地区での犯行については平和祈念館の展示物を焼損させることで開館を阻止しようとしたとも認定。「民主主義社会において到底許容されるものではない」と断じた。

火災では実際、土地問題に関する看板など、史料や生活資料約40点が焼失している。男はこうした展示物を狙ったと明言している。

事件の開館への影響も不安視されていたが、同館は予定通り4月末に無事開館に漕ぎ着けた。コンセプトは「ウトロに生きる、ウトロで出会う」だ。

当初の想定よりも多くの人々が足を運んでいるといい、すでに計5000人近くとなった。土日には多い日では100人以上が訪問することもあるという。

「かわいそう」で終わらないで

「住民たちの方たちが萎縮をせずに、事件があったこそ歴史をしっかり伝えようという理解を示してくれたからこそ、こうして開館することができたと思っています」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、同館の金秀煥・副館長だ。

事件当時も現場にかけつけ、その後も住民のサポートや被害側の声の発信を続けてきた。裁判でも当事者として、被害側としての意見陳述に立っている。

「来館者の数は、私たちにとって大きな希望になっています。若いカップルの姿などもあって、まだまだ社会は捨てたもんじゃない、そんなふうに勇気づけられるんです」

9月4日から始まる事件に関する特別展示では、パネル10枚を通じて、被害を受けた地区側からの視点やメディアの報道の変化を伝えるという。

判決を受け、「裁判所が差別の問題にしっかり向き合ってくれた。この社会が一歩、一歩進んでいるんだと住民たちに伝えられる判決だった」とも語っていた金さん。展示については、こう思いを語った。

「今回の事件のきっかけにもなったヘイトスピーチは、ウトロだけではなく、偏見や差別にさらされるマイノリティの人たちの命にも関わる深刻な問題です。差別による被害というものが過去のものではなく、今まさに起こっていることだと知っていただければ」

「単に『かわいそう』で終わってほしくないとも思っています。判決のときにも述べたように、住民の人たちが声をあげ、取り組みをしてきたことが、ヘイトを許さないという社会を少しずつ前に進めている。その力というものも、感じてもらえれば」

今回の裁判では、判決に「差別」という言葉が用いられずヘイトクライムの認定がされないなど現行法の限界も明らかになった。また、「ヤフコメ」をはじめとするネット上の差別的書き込みやデマの問題も改めて浮き彫りになった。

金さんは「ひとりひとりが考え、行動をするきっかけになれば」と語る。展示は年内は開催予定という。詳細は同館サイトより。