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「拝啓 デマサイトを管理していた人へ」25歳在日コリアンの彼が、韓国ヘイトサイトの運営者に伝えたかったこと

「ソウルで日本人女児が強姦された」と拡散された韓国にまつわるデマ。サイト運営者に向け、手紙をしたためた一人の男性の思いとは。

韓国人を誹謗中傷するようなニュースを発信するサイト「大韓民国民間報道」。

「ソウルで日本人の姉妹が強姦された」などのニュースは完全なフェイク(偽)で、その目的が広告収入だったと明らかにしたBuzzFeed Newsの報道は注目を集めた。

運営者の男性(25)は、私たちの取材に言った。「ヘイトを煽る記事は拡散される」と。反韓感情をもった人たちを、ターゲットにしたとも。

さらに私(籏智)の「傷つく人たちがいる。後ろめたい気持ちはないのか」という質問には、こう答えている。

「怒っている人がいることは想像できますが、これが誰かの人生や、実生活に影響を及ぼすことはないんじゃないでしょうか」

このインタビュー記事を読んだ、ひとりの在日コリアンの男性がいる。彼は怒り、悲しみ、そして、運営者に手紙をしたためようと決めた。

タイトルは拝啓 デマサイトを管理していた人へ。じわりじわりとシェアされている一通の手紙は、こんな言葉から始まる。

はじめまして。私は貴方と同じ年の25歳の在日コリアンで、名前はSHIONと申します。貴方がこんなブログを読むかどうか分かりませんが、今回、私のブログ上で手紙を書かせて頂きました。

ブログを書いたのは、在日コリアン3世の男性だ。

強い意志が込められている言葉たちが並ぶが、文章は至極冷静だ。まるで諭すように、会ったことのない運営者に向け、インタビューを読んだ感想をつづる。

なぜ、この男性はブログで手紙を書こうと思ったのか。気になった私(籏智)は、取材を申し込むことにした。

嘘をつくことは、命に直結している

取材を快諾してくれたSHIONさんは、25歳。関東圏在住の会社員だ。待ち合わせをしたのは、都内の喫茶店。腰が低く、人懐っこい笑顔を浮かべている。

なぜ、手紙を書いたんですか。

「記事を読んで、同い年の子がしていた事実にびっくりしたんです。さらに、自分がやっていることに一切の当事者意識がないのはどういうことなんだろうと感じてしまいました」

「嘘をつくということは、私たちの家族の命に直結しているという思いもありました。それを、知ってもらいたかった」

サイトの運営者は、BuzzFeed Newsの取材に対し、韓国について「好きも嫌いもない」と答えている。こんなことも。

「……申し訳ないのですが、韓国の人についてあまり思うことはありません。自分に帰属意識がないからだと思います。逆に、韓国で日本についてのこうした記事が出ても、なんとも思わない。もちろん、帰属意識が強い人がいることは想像はできます。でも、それで人生に関わるような損をするようなことはないでしょう。子どものケンカが、大きくなっただけじゃないかな」

何も考えていないようにも見える、こうした無責任な態度に、SHIONさんは怒りを禁じ得なかったのだという。

本当は、手書きの手紙を送りたかった。しかし、宛先はわからない。だからこそ、ブログにこんこんと自身の思いを書き連ねたのだ。

差別を避けるために帰化をした

SHIONさんには、不動産業を営む父親と介護士の母親、そして2人の妹がいる。ただ、5人とも自身が小学生のころ、日本国籍に帰化している。

母親は国籍を理由に旅行会社に就職できず、辛い思いをしてきた。おじも、在日コリアンであることを理由に、日本の私立高校をやめさせられた。

帰化は、そんな差別がSHIONさんに繰り返されないようにと、両親が決めたことだったという。手紙には、こう書かれている。

私は小学校1年生の時に帰化をしました。帰化をした理由は私が警察官になりたいという夢を親が実現させてあげたいという親心だったんです。

私の両親や親戚たちは韓国籍であったことで進学や就職の際に苦労しました。私のいとこも警察官を志望していたのですが、国籍条項があったので警察官になることができませんでした。両親は私に日本籍を与えることによって、この社会で生きていく選択肢を与えてくれたんです。

日本籍になったとしても、出自自体が変わるわけではない。差別は、常に身近にあるものだった。

「在日だからという理由で嫌な気持ちになったことは、たくさんありますよね」

高校時代、担任が近くにあった朝鮮学校に「近寄るな」と言っていたことは忘れられない。インターネットを開けば、罵詈雑言が溢れていた。

友達たちには、自分が在日コリアンであることを告白できなかった。「ネトウヨ」が言うようなことを、あえて言いふらしていたことすらあった。自分を守るためだ。

「出自を明かした友人たちや大学の先生に、日本人になっちゃえよ、そんなの気にするなよ、と言われたこともあります。みんな、私たちを『自分たちと違う何か』にあてはめようとしていたんです」

それでもまだ、親たちの時代よりも差別は少なくなったとも感じていた。未来への不安も、徐々に薄れようとしていた。

命を脅かすヘイトスピーチ

しかし、社会は変わった。以前よりも攻撃性を増した「ゴキブリ」「殺せ」などの言葉が平気でネット上に溢れるようになった。

SNSやまとめサイトでそうした言葉たちは氾濫し、リアルな空間にも溢れ出した。休日に街を歩いていても、ヘイトスピーチが耳に入ってしまう時代がやってきたのだ。

SHIONさんは自分を取り巻く状況の変化について、こう記している。

私が韓国人であったというだけで言われもしないことで罵倒され、命を脅かされる時代になりました。

最近、家ではどうやって苗字を変えようかと真剣に話してます。私の苗字は植民地時代に名乗っていた名前です。「そんな苗字をしていては韓国人だとバレるからいつでも変えなさい」と両親は言います。

小さい頃から慣れ親しんできた親戚の家がある東上野でも、ヘイトデモが開かれていた。何度か、見に行ってみたことがある。強い恐怖を覚えたという。

そうした状況に自分たちがいるなか、ヘイトを煽るデマを使ってお金を稼ごうとした人物を、許せなかった。何も影響がないなんてあり得ない。彼のやっていることは、単に「憎悪を増長しているだけ」なのだ。

「彼はとっても頭が良いのだと思う。でも、お金儲けのためなら、人の一番大切な部分を踏みにじっても良いと感じているし、それを気にしていない。大量虐殺に加担したナチスのアイヒマンと同じだと感じました」

思想家のハンナ・アーレントは、官僚機構の中にいた普通の役人であるアイヒマンが、仕事としてユダヤ人の虐殺に加担してきた様子を「悪の凡庸さ」という言葉で表現している。

思考停止、そして想像力の欠如は、時に多くの命を奪うことにすらつながると。

未来を傷つけないで

最近、SHIONさんの妹に娘が生まれた。初めての姪っ子だ。可愛くて仕方ない。

妹は在日コリアンと結婚をしたわけではない。でも将来、姪っ子のルーツがそこにもあると知られたとき、攻撃を受けてしまうのではないか。何か、辛い思いをしてしまうのではないか。不安は募る。

手紙の後段には、そうした強い思いが書き込まれている。

貴方の流したデマそのもので私や私の大事な家族やそしてこれからの人生を健やかに生きていく権利のある姪の未来を大きく傷つけているのです。私は貴方の儲けたいという気持ちの犠牲にはなりたくありません。

貴方はちょっとした気持ちでやっていたのかもしれませんが、貴方のせいで私たちの人生は大きく変わろうとしています。

儲ける為だけに人を傷つけるようなサイトを作るのは止めてください。二度としないでください。私の平穏な日常と未来を返してください。私の切実なお願いです。

SHIONさんは言う。

「彼が在日コリアンのことを知らなかったのは、彼だけのせいじゃないんです。いまの社会では、僕らは存在しないかのようにされている。自分たちと違う他者として、扱われている。僕らがどう生きているのか、考えたことがない人はたくさんいるはずです」

「だから、彼を殴って復讐したいわけではありません。彼が何を思っているのか、知りたかったんです。一緒にお酒でも飲んで、対話ができれば一番良いんですけどね」

なぜ、あんなヘイトを撒き散らした人物相手に、そこまで望めるのだろうか。そう聞くと、笑いながら答えた。

「自分たちが少しでも変われば、きっと社会も変わってくれるのではないかって、思ってますから」

手紙は届いたのか

思いを語るSHIONさんは取材中、決して言葉を荒げることはなかった。一つ一つの言葉を、じっくりと考えながらつむぐ姿が、印象的だった。

その姿勢は、淡々と取材に応じ、すらすらと受け答えをしていたサイト運営者と、対照的にも映った。

私(籏智)は、運営者にこの手紙のURLを送付している。感想は得られなかったが、SHIONさんが紡いだ言葉は届いているはずだ。

サイトはすでに、閉鎖された。その後の運営者と私のやり取りには、こんな言葉がある。

「まっとうに真面目に生きれる道を探そうと思います。今後、buzzfeed様とまた人生のどこかでその道が交差することはないとは思いますが、もしその万が一の機会には胸を張った立場でいられるようになりたいと思いました」


BuzzFeed Japanでは、デマや不正確な情報、いわゆる「フェイクニュース」を継続的に取材しています。そう思われる情報や、そうした情報を拡散している公人を見つけた場合は、BuzzFeed Japanのニュースチーム(japan-report@buzzfeed.com)までご一報をお願いいたします。