「対応を指示しました」。そんな、河野太郎外務大臣の発言が話題を呼んでいる。
きっかけは、ある女性がパスポートの「旧姓併記」に関する外務省の対応の不足を指摘したツイートだった。
BuzzFeed Newsでは、この女性に話を聞いた。
対応を指示しました。 https://t.co/fbsWDtvNX9
「まさか河野さんが見てくれるとは思っていなくて、本当に驚きました」
そう語るのは、都内に暮らす会社員・羽賀美樹さん(29)だ。2年前に結婚し、旧姓を使って仕事を続けている。
ツイートで指摘したのは、「旧姓併記パスポート」のことだった。
羽賀さんのパスポートには、ふたつ姓が記載されている。もともとの姓とともに、結婚で改姓した法律上の姓が記載されているのだ。
そもそも外務省は、1959年からパスポートにおける本名との「別名併記」を認めている。国際結婚や旧姓で活動している人などが利用しており、羽賀さんもこれを利用している。
ただ、カッコ書きの名前になるため、旧姓という概念自体が浸透していない海外では、トラブルのもととなるケースもある。
羽賀さんもこれまで、ホテルの予約や飛行機のチェックインなどで「これは本当にあなたの名前なのか」などと不審がられたり、マイルの決済がされなかったりしたケースがあったという。
「途上国などに行くことも多いので、何か有事に巻き込まれたときにもトラブルの元になるかもしれないという不安もありました。今回は、海外の大学院に秋から進学するため、ビザの申請や学校側に旧姓併記を説明するための文書をもらいたいと思っていたのですが、外務省に問い合わせたところ『ない』と言われてしまったんです」
たった1日で…

BuzzFeed Newsの取材に応じた外務省旅券課によると、「基本的に併記自体が例外的措置」であることが、そうした書類がなかった理由だという。
「申請者の渡航や滞在の便宜に必要な場合に限って認められている措置であるため、外国当局への説明などは自己責任においてやっていただいていました」
こうした現状を指摘した羽賀さんの以下のようなツイートはじわじわと伸び、河野大臣にメンションを飛ばす人も現れた。
旧姓併記パスポートを持ってるが海外に行く際に色々と説明やビザ取得の際等不便なので、外務省が公式に私が旧姓を併記したパスポートを持ってる理由を説明した文書を出してもらえないか?あるいは私のように困っている人のため英語で説明している資料はないか?と尋ねたところと、予想通り「ないですね〜」と言われた。
少し粘り、「本当に困っているのでどちらに掛け合えばいいですか?」と聞くと上司らしき人に代わり、今度はきっぱり「ないです。そんな事例があるんですか?今まではどうしてたんですか?」と。
私「これまでも沢山そのようなことがあり毎回の説明が大変だった。他にも困っている人は沢山いると思う」と言うと、外務省「ではこれからもそう説明して対応してください。繰り返しですが対応していません。」
と。
分かってもらうのがこれほど大変とは(゜゜)
旧姓併記パスポート持ってる人のために、HPに英文で説明載せるくらいやってほしい。。
そして、ツイートからたった1日後。大臣から直接「対応を指示しました」という返事をもらうに至ったのだ。
寄せられた誹謗中傷

旅券課によると、河野大臣からは秘書官を通じて6月4日に「別名併記をしている邦人が困らないように外国当局に対し現行の別名併記制度に関する資料を外務省が作成するなどの方法を検討する」ように指示があったという。
具体的な時期や方法は未定だが、担当者は「鋭意検討中」としている。つまり、羽賀さんがツイートしてから1日で対応が始まったと言える。
「Twitterってすごいんだな、と思いました(笑)大臣がちゃんと一般の人の、辛かったり、困ったりしている声を拾っているなんて、すごいなと。河野さんには御礼を伝えたいです」
ただ、良いことばかりではなかった。当初のリプライでは応援がほとんどだったが、拡散すればするほど、誹謗中傷も寄せられるようになったからだ。
「お前が勝手に併記したんだろ」「ゴネて得しただけ」ーー。
羽賀さんはいう。
「私の場合は、これからのキャリアのことも考えているだけではなく、アイデンティティとしても苗字を変えたくない、という気持ちがありました。でも、まだまだ当事者しかわからない問題でもあるんだなと感じています」
この出来事をきっかけに…

一方、旅券の「旧姓併記」をめぐるハードルもまだ高い。
そもそも「旧姓併記」を求める際にも、職場からの証明書や、活動実績書の提出をする必要があるのが現状だ。
こうした要件について、外務省は緩和を目指しているという。羽賀さんも、それを望んでいる。
「今回の一件も、あくまで文書を出すという対症療法であって、根本的な解決はありません。でも、希望にはなりました」
羽賀さんはいま、それぞれが事情に合わせて姓を選ぶことにできることを求める「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」に参加している。約100人ほどが参加し、全国各地の議会などへの陳情や勉強会を続けている団体だ。
今回の件で「希望」をもらったという羽賀さんは、これからも活動に力を入れていきたいという。
「今回の出来事をきっかけに、『選択的夫婦別姓』に関する声が広がってくれれば良いと思っています。興味を持つ人が少しでも増えてほしいんです」