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小池百合子氏の不出馬で主役なし。「希望の党」応援で語ったのは政策ではなく政権批判だった

衆議院議員選挙の応援演説で、小池百合子知事が語ったこと。

小池百合子の、百合子による、百合子のための「第一声」。そんな印象を残しつつ、結局、立候補はしなかった。

10月10日に公示された衆議院議員選挙。「希望の党」代表の小池知事は、盟友である若狭勝候補の応援演説に現れた。

集まった人たちは、候補者ではなく知事に目を向ける。主役は誰か、明らかだった。

候補者の演説が始まったのは、午前9時50分前。

池袋駅前の広場、2段ほどの低いお立ち台から声を張り上げている。周りをずらりと報道陣のカメラが囲んでいるせいで、聴衆からは顔も見えない。

若狭候補は語る。

「国民の多くの皆様が希望を抱けるような政策を国会議員としてもっともっと実現したいんです。私は国会にもう一回戻って、希望の党の主張を国民目線に立って実現したいんです。どうかみなさん、実現させてください」

集まった聴衆からパラパラと拍手が上がる。数十人ほど。熱気にはほど遠い。メディアや聴衆のお目当はやはり、あの人なのだ。

膨れ上がる聴衆

10時前になって、演説用の車両がやってきた。人々が一斉にスマホやカメラを向ける。

現れたのが、小池知事だ。若狭候補を伴って車両の上に立つ。演説が始まると、聴衆はすぐに倍ほどに膨れ上がった。

「希望を、夢を叶えるのが私たち政治の役割だと心得ておりますが、みなさんいかがでしょうか」

呼びかけに対し、大きな拍手や合いの手が上がる。熱心な支援者なのか、百合子カラーの緑色を身につけて聴き入る人たちの姿もある。

盛り上がるのは、安倍政権や自民党への批判を口にするときだ。

「安倍1強政治によって、お友達だ、忖度だ、そしてお友達なら何かいいことがある。そんな政治に対して信頼が持てますか、みなさん」

「北朝鮮がミサイルを今日にもぶっ放そうとしているときに実際にこの国を守ってくれるのか。そういったごくごく当たり前のことにきちんと答えられる、そんな政党みなさん欲しくないですか」

小池知事がこのような疑問符を投げかけるたび、拍手や「そうだ!」という同調の声があがる。それに応えるように、小池知事は言葉に力を込める。

「政治が信頼を確保できない中で、また新たな政策だ、そしてこれまでの延長線の政権が続く。安倍1強政治をみなさんの1票で終わらせようではありませんか」

「原発ゼロ」「女性の活躍」「憲法改正」など、希望の党の政策にはほとんど触れない。看板に掲げた「ユリノミクス」に至っては、その言葉すら出てこない。

選挙戦で訴えかけるのは、政策ではなく、安倍政権批判。そういう姿が最初の演説から見えてくる。

都民ファーストの存在感は…

演説会の後段、小池知事から「応援団」の紹介があった。

「7人の侍のみなさんもここにずらっとお揃いいただいて、今回の選挙戦を最初から最後までサポートしていただくこととなっております」

2016年7月の知事選時、自民党に所属しながら、小池知事を支援した豊島、練馬両区議の7人のことだ。うち3人は、知事が実質的に率いる地域政党「都民ファーストの会」の都議に転身している。

ただ、小池知事の口からは、都民ファーストの名前は出なかった。10月5日に結んだ政策協定で、都民ファーストが「一致団結して希望の党の候補者を全力で支援する」を約束したにもかかわらずだ。

小池知事が現れる前、都民ファーストの荒木千陽代表は「所属議員すべて、総力をあげて12日間、戦ってまいりたいと思っております」と意気込んでいた。

しかし、マイクを持たせてもらえたのは、ほんのつかの間。知事が壇上に上がるまでの「つなぎ」のためだった。時間調整のために、司会が「突然、すみません」とふったようだった。

知事から「ファーストペンギン」と呼ばれ、都民ファーストで存在感を示していた議員たちの姿もなかった。

音喜多駿都議と上田令子都議だ。

早くから小池知事を応援し、1月に設立した都民ファーストには、無所属会派からいち早く移籍を表明した2人。最初の公認候補となり、音喜多都議は都議団の初代幹事長でもあった。

しかし、10月に入って「ブラックボックスそのもの」などと知事の政治手法を批判し、離党。当然、この日、会場に現れることはなかった。

「ジタバタしているような印象」

演説会の最後。若狭候補や小池知事を交えた「ガンバロー三唱」で、音頭をとった男性が「希望の党」を「都民ファースト」と言い間違えた。聴衆からは失笑が起きた。

集まった人たちは、そんな演説会をどう見たのか。

「小池人気だけで寄せ集めた党。ジタバタしているような印象を受けたし、政権を任せるわけにはいかないと思う」

BuzzFeed Newsの取材に応じた聴衆の主婦は、こう辛口の評価を下す。

自身が主に支持をする自民党候補者の演説と聞き比べをしようとしたというが、小池知事は「パフォーマンスがうまくて、口だけだなと感じた」という。

一方、「自民党は好きだが安倍首相は嫌い」という理由から小池知事を支持するという販売業の女性はこう評価した。

「やっぱり、小池さんは迫力がある。物怖じしないし、男勝りで度胸もあるから。いまの政治を変えてくれそう」

残ったのは違和感

話を聞いた女性は共に60代だった。平日の午前中という時間帯もあるだろう、聴衆の年齢層は中高年が多く、女性の方がやや多かった。

二人とも演説のお目当は小池知事。若狭候補への評価はともにポジティブではなかった。

前出の主婦は「小池さんの操り人形というか、頼りなくて、自分の意見を出せないのでは」。一方、販売業の女性は「ちょっと優しすぎるんじゃないかな。だからあんまりものが言えないのだと思う」。

演説会の最初から最後まで、主役は知事だった。

これは知事選や都議選の小池劇場と一緒だ。ただし、唯一違うのは、小池知事が前面で戦った先の2つの選挙と違い、今回の衆院選は、知事は立候補せず、一歩引いていることだ。

演説会が終わると、小池知事は早々と車へと向かった。聴衆と報道陣が周りを取り囲む。手を振る人、写真を撮る人ーー。若狭候補はひとり、取り残されたかのようだった。

聴衆のラブコールを受けつつ、主役がいない小池劇場。そこには東京での2度の選挙で圧勝した熱気はなかった。


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