「高輪ゲートウェイ」日本語学者や地図研究家たちがJRに撤回を求めるワケ

    エッセイスト・イラストレーターの能町みね子さんと「三省堂国語辞典」の編集委員で日本語学者の飯間浩明さん、日本地図学会の今尾恵介さん、境界協会の小林政能さん、立正大学非常勤講師の杉内由佳さんが提言している。

    JR東日本が山手線の田町駅と品川駅の間に建設中で、2020年に開業する新駅「高輪ゲートウェイ」。

    その撤回を求め、エッセイストや日本語学者、地図研究家らがJR東日本に約4万8千筆の署名と「緊急提言」を提出した。

    「山手線新駅の名称に関する緊急提言」を提出したのは、「山手線新駅の名称を考える会」。

    エッセイスト・イラストレーターの能町みね子さんと「三省堂国語辞典」の編集委員で日本語学者の飯間浩明さん、日本地図学会の今尾恵介さん、境界協会の小林政能さん、立正大学非常勤講師の杉内由佳さんが参加している。

    3月27日に提出した提言では、以下の条件に当てはまる「高輪」を新駅名に採用するよう呼びかけている。

    • 新駅名は「地域の歴史を受け継ぐ」「街全体の発展に寄与する」(JR東日本の見解)という趣旨に一層ふさわしいものにすること。
    • 新駅名は、単に駅周辺のみならず、首都東京の新しい「地名ブランド」として集客に貢献し、さまざまな場面で広く使うことが可能な、伝統的地名を選ぶこと。
    • 新駅名は、多くの人々に支持される名称にすること。


    1位は高輪、2位は芝浦… ゲートウェイは?

    同日に開かれた会見で、能町さんは「こんな名前にしてしまうのか、と愕然とした」と語る。

    そもそもJR東日本は、新駅の名前を公募していた。

    結果は、1位が「高輪」(8398件)で2位が「芝浦」(4265件)、3位が「芝浜」(3497件)。「高輪ゲートウェイ」は130位(36件)だった。

    「高輪ゲートウェイがもし上位なのであれば、何も言わなかったかもしれないですけれど……。JRにとっても高輪にしたほうが良いと、心から思っています」

    実際、こうした結果には批判の声もあがっている。また、ネット上の調査(Jタウンネット)でも「名前を変えた方がいい」が全体(1551票)の95.8%だった。

    能町さんは「選定の経緯が不透明であること、名称で歴史を踏まえておらず、語感も悪いこと」を理由に、発表の4日後から撤回を求める署名を始めた。

    「こんなに世間の人が嫌がっていることが、何も言わないと通ってしまうのかと感じて、後先考えずに署名を立ち上げました」

    1月5日までに集まった4万7930筆は、提言とともにJR東日本に提出した。しかし担当者からは「お気持ちはわかりましたが、変える必要はないと考えている」との認識を示されたという。

    おじさん世代の”キラキラ駅名”

    「本来であれば、高輪から何も足さず、引かないのが良いのではないでしょうか。色が付いていない、何百年も続いている地名をつけるのは非常にシンプルなことです」

    日本地図学会の今尾さんは、言葉に力を込める。大切にしたいのは、「高輪」の歴史的価値だ。

    「駅名は所在地の地名をつけるのが順当で、山手線の駅名はすべて従来の地名を採用しています。しかし今回、高輪が江戸時代からの歴史的な地名にも関わらず、JR東日本が開発を進める”グローバル ゲートウェイ 品川”の商標を付け加えてしまった。その価値を限定化、矮小化しているとも言える」

    今尾さんは、こうした類の駅名を「キラキラ駅名」と名付ける。

    「カタカナ文字の”キラキラ駅名”や”キラキラ地名”をつけたがるのは、バブル期に舶来のものがよくて日本がダメ、欧米に追いつけ追い越せと新しいものを作ろうとしたおじさん世代です。一方でいまの若い世代には、無理して装った不自然な駅名は”イタい””ダサい”という印象になるのでは、と感じています」

    「日本では江戸時代から残っている地名が破壊されてきたが、最近では金沢や富山などで復活の機運も出ています。JR東日本にも、ネットで炎上したから変えるということではなく、これから100年200年続く駅名を考えるという文化的な側面を考えて、勇気ある決断をしてもらいたい」

    ”愛される”駅名を

    一方、日本語学者の飯間さんは、こう指摘する。

    「たとえば東京テレポートは海の上につくられた新しい街だが、高輪は江戸時代から古い歴史を持っている街。ゲートウェイがつくことで、高輪といえばゲートウェイになり、泉岳寺などを持つ伝統的な街が発展する可能性を失ってしまう」

    「それに、多くの人が嫌だと思いながら使うことは非常に不幸なことです。事実上高輪と呼ばれるようになるという意見も多い。みんなが愛する駅にするべきではないでしょうか」

    今後、同会では「世の中の共感を得られるようにする」ため、ステッカーなどのグッズを制作したり、「キラキラ駅名」について語り合うイベントなどを開いたりしていきたいという。