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「帰れよ朝鮮に」「強制送還すべき」ヘイト書き込みの違法性、法務局が認定。在日女性が申告、Twitterなどに削除要請

認められたものは、いずれも川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子さんに対して、Twitterや掲示板、ブログに書き込まれたもの。弁護団によると、「帰れ」「強制送還」などのヘイトスピーチの違法性も認定された。

川崎市に暮らす在日コリアン女性に対するネット上の差別書き込みをめぐり、横浜地方法務局が2022年4月までに、計192件を違法な書き込みとし、Twitterや事業者などに削除要請をしたことが、明らかになった。

女性側の弁護団が9月8日に、公表した。当初は市に削除要請などを求めていたが、市側は弁護団が申し立てたネット上の書き込み300件以上のうち、数件しか認定しなかったため、法務局に人権侵犯被害申告をしていたという。

弁護団は、法務局がヘイトスピーチなどの書き込みの違法性を認定したことを評価しつつ、市側には運用のあり方の再検討を求めている。

(注:問題の実相を伝えるため、この記事にはヘイトスピーチに当たる内容が含まれます。

認められたものは、いずれも川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子さんに対して、Twitterや掲示板、ブログに書き込まれたもの。

崔さんに関する書き込みは膨大で、暴力を示唆するものもあり、これまでも刑事告訴などの対応を取ってきた。

2019年12月には、嫌がらせを繰り返していた匿名アカウントの男に対し、川崎簡裁から罰金30万円の略式命令が出されている。また、別の書き込みに対しても、損害賠償300万円を求めた民事訴訟が継続中だ。

崔さんは2020年4〜6月、川崎市の「ヘイト禁止条例」に基づき、ツイートとブログ・掲示板の書き込み計約340件の削除要請を求めた。条例では、ネット上のヘイトスピーチについて、市民らを対象にした場合、被害者支援や、拡散防止措置、内容の公表をすると定めているからだ。

市は、うち8件しか「川崎市差別防止対策等審査会」に諮問・認定せず、審査は打ち切られた。そのため、弁護団は同年12月、横浜地方法務局に対し人権侵犯被害申告し、市側の要請ですでに削除されていたものを除いた書き込み332件の削除を改めて求めた。

法務局は2022年4月までに、リストのうち約6割にあたるツイート156件、ブログ・掲示板36件について、民法上の不法行為であり、削除要請の対象であると認定。「ヘイトスピーチ対策法」に基づく差別的書き込みであり、かつ違法であると認められた書き込みもあった(写真上など)。

削除要請された書き込みは、いずれも「被害者ヅラ」「反日のプロ」(侮辱型)や、「帰れよ朝鮮に」「強制送還すべき」(排除型)、「滅多切りにしてほしい」「殺すしかない」(脅迫型)という、ヘイトスピーチの3類型(括弧内は弁護団)に分類されるものだったという。

弁護団によると、これまでにツイート60件、ブログ・掲示板の書き込みが28件、削除されている。まだ対応されていないものについては、法務局側が継続してTwitter社や事業者側に要請するという。

「被害」ないことにしないで

同一の書き込みを対象にしながら、法務局(国)と川崎市で削除要請を巡る判断が大きく異なった今回の事例。

弁護団によると、法務局では法務省人権擁護局内の「ヘイトスピーチ被害相談対応チーム」が参加、法律の専門家が判断。対応も早く、最初の17件の削除認定の通知は2週間後だった。

さらに、違法性が認められなかったものの一部についても、「ヘイトスピーチ対策法」に基づく「不当な差別的言動」にあたるものについては、プロバイダなどに対し情報提供をしたという。

一方、川崎市側は最初の2件の削除要請に至るまでに、申し立てから5ヶ月近くを要した。そもそも、削除リストから市の担当者が選定し、十数件しか専門家の「審査会」に諮問していなかったなど、対応も問題視されていた。

崔さんは、会見で法務局の対応について「私の被害を“ないこと”にしないで、1件1件、誠実に対応していただき、救われる思いでした。法務局が被害救済の観点からこうして人権侵害を認定してくれたことが、川崎市やほかの自治体の背中を押すものになってほしいと思っています」と語った。

弁護団の師岡康子弁護士は「ここまで大量に違法と認定されたことは大きな成果です」と法務局側の対応を評価しながら、川崎市側にはこう指摘した。

「ネット上のヘイトスピーチはとにかく早く削除しないと、どんどん広がり、止められなくなってしまうという特徴がある。また、“認定しない”ことが差別ではないと認めたような効果ももたらしてしまうおそれもあります」

「ネットリンチとも言える大量のヘイトスピーチについては、行政側が人権侵害に当たるか迅速に判断し、削除の要請をするということが大切になります。差別をなくすための条例がある川崎市には、被害者救済のため条例運用を改めてほしい」

弁護団は市側に対し、条例の運用を柔軟にし、担当者判断による打ち切りではなく審査会に全件を諮問することや、すでに実施している「ネットモニタリング制度」を活用した迅速な削除などを改めて求めたという。

川崎市人権・男女共同参画室の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「法務局の判断と市の条例の要件が異なる部分もあるかもしれないが、同じ書き込みについて違う判断を下していた以上、報告書を確認し、今後の条例運用にも生かしていきたい」と述べた。

UPDATE

文中表記を一部修正いたしました。