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在日コリアン女性への差別ツイートに削除要請。川崎市が初判断も「被害者救済につながらない」理由とは?

7月に全面施行された川崎市のヘイト禁止条例では、ネット上のヘイトスピーチについて、市の区域内や市民などを対象にしているものであった場合、被害者の支援や、拡散防止の措置や、その内容の公表をすると定めている。

国内で初めて罰則付きの「ヘイト禁止条例」を制定した川崎市の審議会が、在日コリアン女性に対するネット上の書き込み9件をヘイトスピーチと認定した。ネット上にはうち2件が残されており、市は近くTwitter社に対して削除要請をする。

ただし、これは被害者側が申請した300件を超える書き込みに対し、9件についてに限られている。「一歩前進であるが、被害者の救済にはつながらない」と指摘のもある。

認められたものは、いずれも川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子さんに対するTwitter上のヘイトスピーチ。

7月に全面施行された川崎市のヘイト禁止条例では、ネット上のヘイトスピーチについて、市の区域内や市民などを対象にしているものであった場合、被害者の支援や、拡散防止の措置や、その内容の公表をすると定めている。

崔さん側はこの条例に基づき、5〜6月に市に対して削除の要請などを求めてきた。ツイート295件、ブログなどの書き込み44件にのぼる。

市は「差別防止対策等審査会」にそのうち9件のツイートついて諮問。3回にわたった審査会を経て、10月9日に最終的にヘイトスピーチに認められた。市によると多くは排除などを呼びかけるものだという。

答申は16日に出され、市はそれを受け、ネット上に残るうち2件について、Twitter社に対して削除申請をし、公表もする方針という。7件についても公表を検討する。また、残りの300件以上のうち5件(ブログ2件、掲示板3件)を追加で審査会に諮問する方針だという。

制度全体の課題も

代理人の師岡康子弁護士は会見で「市が対策をしようという姿勢の現れでもあり、前進です。しかし、数ヶ月で300件以上のうち9件が認められる、という状況ではネットリンチの被害者救済にはつながらないのではないでしょうか」と指摘した。

現状の仕組みでは、ひとつひとつの書き込みを審査会で、月に1度、2時間の議論で認定していくようになっている。審査会の委員は5人。師岡弁護士によると、諮問を判断する市側の職員の研修なども追いついていないという。

また、川崎市では民間先に委託したうえでのネットモニタリングなども実施しているが、これも実際には機能していないとも指摘。制度全体の運用に課題があるのではないか、と疑問を示した。

そのうえで師岡弁護士は「対象となる書き込みの範囲があまりにも狭く、そもそも審査会にもかけられずに市で弾かれてしまっている、という面では救済として不十分」として、今後も話し合いを継続していく方針だ。

一方、崔さんは「ネット上の中傷書き込みの多くは、匿名で、無責任で、人を人と思わずに、この社会や日本から出ていけ、いなくなれなどと書かれているもの」と語り、認められなかった多くの書き込みについて「市がお墨付きを与えたようなことにもなってしまうのでは」と危惧した。

そのうえで、「川崎市の条例は日本一のものだと思っています。こうしたネットの被害を訴えるフィールドが整っていないなか、被害を受けた人たちが声をあげられるような希望になってもらいたい」と話した。