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子どもと、コンビニにも行けなくなった。在日コリアン女性を襲ったネットの匿名中傷、そしてヘイト。その恐怖とは

Twitterの匿名アカウント「極東のこだま」による名指しのヘイトスピーチや中傷の被害を受け続けてきた在日コリアンの女性。容疑者の男は脅迫罪で書類送検されたものの、不起訴になった。いまもなお、苦しんでいる。

普通に、暮らしていただけなのにーー。

ある日、突然インターネット上の匿名中傷、そしてヘイトスピーチの被害者になってしまった、女性がいる。彼女の普通の生活はどうして壊されてしまったのか。いつ誰が「ターゲット」にされるかわからない、その恐怖とは何なのか。

いまなお続く被害について、話を聞いた。上下にわけてお伝えする。

「世界に向けて発信されて拡散されたら、もう止まらない。個人では太刀打ちできない、やられたら最後なんです。ネットの誹謗中傷は、本当に怖いし、辛いんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に吐露するのは、川崎に暮らす崔江以子(チェ・カンイジャ)さん。在日コリアン3世だ。

崔さんは1年半にわたって、Twitterの匿名アカウント「極東のこだま」による名指しのヘイトスピーチや中傷の被害を受け続けてきた。そしていまもなお、苦しんでいる。

彼女はこう、言葉に力を込める。

「本人は軽い気持ちかもしれないけれど、受け手は普通に暮らすこと、生きることを諦めてしまいそうになる。それほどの被害があるんです」

「誰がツイートを書いているかわからない。隣にいるこの人かもしれない。毎日、外を歩くときにはそんな恐怖を感じていました」

「余暇を楽しむかのように」続いたツイート

「極東のこだま」による嫌がらせがはじまったのは、2016年3月ごろ。崔さんの暮らす川崎・桜本でヘイトデモが相次いでいたことを受け、それに反対する動きをはじめたことがきっかけだった。

ツイートはいつも、週末だった。まるで、「余暇を楽しむかのように」(代理人弁護士)さまざまな脅し文句やヘイトスピーチが繰り広げられた。

実際は違っていたが、すぐそばに住んでいて、いつも監視しているよう装っていた。

「一番憎いのは在日」「チョーセンを許さないよ、特にカンイジャな」「チョーセンはしね」「植木に使うナタを買ってくる予定。レイシストが刃物を使うから通報するように」「すれ違わないかな」「民族性モロ出しの小賢しさ」「桜本のチョン公」「川崎の泣き女」

崔さんは刑事告訴に踏み切ったが、一筋縄には行かなかった。

大きなハードルになったのは、Twitter社が発信者情報の照会になかなか応じなかったことだ。その間もツイートは続き、内容は過激化していった。

「週末がくるのが怖かった。もういなくなってしまいたい。そう感じて一晩眠れない、ということが、本当にありました」

近所に住んでいるのではないか。どこかで、後をつけられているのではないかーー。心が磨耗する日々が続いた。恐怖と苦しみのあまりのストレス性の不眠症と突発性難聴は、いまも続いている。

「母親として、申し訳なかった」

警察からは、表札を外し、インターホンをオフにするように言われた。できる限りカーテンを閉めておくように、とも。

外に出る時にマスクをつけたり、メガネをかけたりして、できる限り他人と目を合わせないようにした。家族が特定されるのを防ぐため、一緒に出かけることもできなくなった。

「とりわけ辛かったのは、小学生の子どもと一緒にいられなかったことでした。家族とバスに乗っても離れて座る。手を繋いでコンビニにアイスを買いに行くこともできない」

「自分のせいで子どもにつらい思いをさせ、母親として、申し訳なかった。出口が見えない、そんな暮らしがずっと続いていました」

ようやく発信者情報が開示されたのは、2017年の8月のことだ。

2017年12月、神奈川県警は容疑者の男を特定。自宅に捜索に入り、事情聴取をしたことで、ツイートは止まった。

最初のツイートから1年半あまり。その総数は数百件にも及んでいた。

県警は2018年5月、男を脅迫容疑で書類送検した。ネット上のヘイトスピーチ事案では、初めてのケースとなった。

「刑事事件を抱えて暮らすのは、本当に辛かった。やっとこれで終わりだ、と思っていたのに……」

こうしたことが、許されてしまうのか

今年2月、横浜地検川崎支部は男を不起訴にした。

Twitterの書き込みは相手が読んでいるのかわからないため、脅迫罪の成立要件である「害悪の告知」に当たるとは認定されなかったためだという(共同通信、2019年2月22日)。

崔さんはTwitterアカウントをもっており、自分と家族を守るため毎日そうしたツイートを調べ、ネット上のヘイトスピーチに対して法務局や警察に相談していた。そうしたことは報道されていたにも関わらず、認定はされなかった。

崔さんはいう。

「こうしたことが許されてしまうのか、と絶望を感じました。ペナルティを科されなければ、また同じことが起きてしまうし、他のアカウントで繰り返しているかもしれない。逆恨みへの恐怖もあります」

「無罪放免にしてはならない」(代理人弁護士)と、ツイートの内容が「つきまとい」にあたるとして、神奈川県迷惑行為防止条例違反の疑いで、脅迫罪で不起訴になった当日、刑事告訴した。

とはいえ、それから8カ月経過したがいまだ処分が出されていない。

代理人弁護士は、条例違反での一刻も早い起訴を求め、9月と10月に、同様にヘイトスピーチに苦しむコリアン女性たち約20人による、男の処罰を求める陳情書を提出した。そこにはこんな、切実な声が記されている。

「個人のSNSアカウントにも、見ず知らずのわからない人から差別的なコメント・メッセージが送られてくることもあり、ネット上を含む日常生活において、『いかに自分のルーツを隠して生活できるか』ということを話し合うたびに、自分の存在が否定されるような気持ちを味合わないといけない」(20代、韓国人女性)

「匿名の差別にもとづく攻撃が許されてしまうなら、自分も同じ目にあっても助けてもらえない、攻撃されないよう、自分や子どもたちは民族を隠し、差別に対してやめてくれということもできずに声を潜めて生きていくしかなく、絶望しかない」(30代、在日2世の女性)

《下:顔写真を「2ちゃんねる」に晒されて… ネットの匿名中傷、被害者に残る深い傷