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自衛隊員、海外派遣でPTSD傾向、自殺も 南スーダンでは「深い傷」 メンタルケアの重要性

防衛省が実施しているアンケートから、海外や国内災害に派遣された隊員のうち、PTSD傾向にある隊員が毎年1千人以上で推移していることが明らかになった。

国連平和維持活動(PKO)のために南スーダンに派遣されている陸上自衛隊が、5月に撤退することが決まった。

「内戦状態にある」とも言われる環境下で、任務にあたる隊員たち。そして日本で不安な日々を送りながら、その帰りを待つ家族たち。

精神科医などの専門家は、彼らが心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する可能性と、メンタル・ケアの必要性を指摘する。

いったい、誰がケアを担うのか。防衛省や自衛隊が用意しているケアだけで事足りるのか。

立ち上がった精神科医たち

「海外派遣の自衛官は、眠れない、気持ちがつらいという症状を抱えていることが多い。そういうことを、自衛官自らが語ることができるのか。あるいは、聞く耳を社会が持っているのでしょうか」

2月中旬、「海外派遣自衛官と家族の健康を考える会」が開いたシンポジウム。会の共同代表で精神科医の蟻塚亮二さんは、言葉に力を込めた。

沖縄戦体験者の4割がいまだにPTSDに苦しんでいることを調査で明らかにし、「沖縄戦と心の傷: トラウマ診療の現場から」にまとめた蟻塚さん。いまは福島県相馬市で、震災で傷ついた人のケアに当たっている。

「福島の人では、数年経ってからPTSDの症状が出てくるケースがあります。沖縄戦の体験者では、数十年経ってからということも。海外に派遣されている自衛隊員も同じように深刻な問題をはらんでいると、理解することが大切なのです」

東日本大震災への派遣や日常の訓練を通じてPTSDになった隊員たちを診てきた精神科医の五十嵐義雄さん(同会共同代表)も、同様の指摘をした。

「PTSDは異常な体験に対する正常な反応。戦闘行為に参加する、目撃するなどの傷は重く、拭い去れない。彼らが体験したことに向き合うための時間はとても大切です。それを守れる環境をつくれるかが求められます」

こうした問題意識を根幹に、会は2月に発足した。蟻塚氏や五十嵐氏を含む医療者、研究者、カウンセラーなど38名が賛同。情報提供や相談対応を通じて、防衛省が実施しているメンタル・ケアを補完する目的がある。

まったくの民間組織であることから、隊員やその家族が周りを気にせず、気軽に相談できるようにすることを目指しているという。

隊員やその家族たちからのメール相談を受け付けており、ケースに合わせ、提携している医療機関や医師を紹介する仕組みを整えている。

1千人以上がPTSD傾向

こんなデータがある。

イラクやインド洋に派遣された経験のある56人の自衛隊員が、在職中に自殺していた、というものだ。このうち、精神疾患を原因としたものは14人。2015年の政府答弁で明らかになった。

1人の自殺者の陰には、PTSDやうつなどに悩まされている多くの隊員がいる。防衛省が全自衛隊員に向け実施したアンケートの結果を見ると、それがよくわかる。

下の表は、海外や国内災害派遣を経験した隊員のうち、PTSDのリスクや、うつ病や不安障害のリスクが高い隊員の割合を示したものだ。

PTSD傾向にある隊員が毎年1千人以上で推移していること、うつ病や不安障害傾向の隊員はその数倍に及んでいることがわかる。

それでも、BuzzFeed Newsの取材に応じた防衛省の広報担当者は、決して派遣経験者だけが高リスクになるとは言えないとしている。

全隊員でうつ病や不安障害のリスクが高い隊員の割合を見ると、13年度は10%、14年度は7.8%、15年度は7.1%になるからだ。ただし、PTSDに関するデータは「必要性」の判断から、派遣経験者しか取っていない。

防衛省も認識するメンタルケアの重要性

こうした現状を把握している防衛省も、対応を進めている。各自衛隊病院や総監部などに「メンタルヘルス専門官」を配置。隊員の相談に応じているという。

実際、陸上幕僚監部が作成した「イラク人道復興支援行動史」(民進党の辻元清美衆院議員が全文を公開)を見ると、「今後は2割の隊員にストレス傾向があることを前提として、精神面のフォローが必要である」とのデータがある。

さらに、今後の海外派遣にあたる留意事項については、こう書かれている。

「今後の国際貢献活動において、クールダウン実施の可否についての基準を確立する必要がある」

その具体例としてあげられているのが、「戦場に準じた地域・環境などでの活動等」「死、あるいは惨事等と接する活動」だ。

さらに詳しく「銃の携行や防弾服等の着用が義務付けられた活動」「砲弾等の攻撃の事実又はその可能性が高い地域での活動」とまで限定されている。

同じことは、南スーダンでも

では、南スーダンはどうなのか。

防衛省が公表した南スーダンの「日報」では、「戦闘」という言葉が多用され、宿営地近くで「激しい銃撃戦」や「距離200」の地点に砲弾が落下していることも記されている。

つまり、イラク派遣時に留意された対象にあたるのだ。

黒塗り日報」の存在を明らかにしたジャーナリストの布施祐仁さんが情報公開請求で得た資料「南スーダン派遣施設隊第5次要員に係る教訓要報」(陸自研究本部作成)には、こうはっきり記されている。

「深刻なストレスを抱え、深い傷を抱えている隊員が存在する」

防衛省によると、昨年8月下旬には、南スーダンにも精神科医官などでつくる「メンタルヘルス支援チーム」を派遣。また、隊員家族にはイラク派遣時と同じような対策を実施しているという。

求められる家族たちのケア

ケアの必要性は隊員個人にとどまらない。家族、特に残される配偶者にしわ寄せがいくこともある。

イラクに派遣された隊員の家族へのヒアリング調査を続けている滋賀大学の福浦厚子教授は、シンポジウムでこう語った。

「隊員が海外に派遣されれば、配偶者も子どもたちも影響を受ける立場になる。情報が不十分なため抱える不安、家庭のできごとの判断や子育てをすべて担うことによるストレス、帰国後の隊員の性格の変化などがあげられます」

福浦教授の調査では、心療内科に通院したり入院したりする配偶者がいることが明らかになっている。

たとえば、福浦教授がヒアリングをした、夫(30代)が幹部自衛官としてPKOに派遣された妻(20代)の場合。

妻は「家にいても換気扇の音や映画の爆発音を聞くだけで、怖くなったりして」しまった。さらに現地情報の少なさに不安を覚え、「テレビ報道が見たくなかったり、涙が出たり」するなど、情緒が不安定になったという。

数年後、夫が今度はイラクに派遣されると、妻は神経性胃腸炎をわずらった。

一方の夫も帰国後に「睡眠ができなかったり、職場で人前に立つ際に緊張で震えが止まらなくなったり、なにをするにしてもぜんぜんやりたくなくなったり」する症状に悩まされて、心療内科に通院。

家庭環境も大きく変わり、妻も再び、心身の体調を崩したという。

福浦教授によると、こうした家族は少なくない。自衛隊側も説明会の開催やカウンセリング先を紹介するなど、家族に対するサポートを少なからず実施しているものの、利用しづらさなどの難点があるそうだ。

「家族は組織から医療支援対象者として認識されていないのが現状。そういう意味で、そのメンタル支援をするということは重要なことなのです」

防衛省によると、南スーダンに派遣されている隊員の家族たちにも、イラク派遣時と同様の対応が取られているという。

まず、社会が理解すること

民間有志が集まった「海外派遣自衛官と家族の健康を考える会」は今後、隊員やその家族に向けたどのようなケアを提供できるのだろうか。

布施さんはシンポジウムでこう強調した。

「この会のような組織は、防衛省がやっていることを否定するわけではなく、補完するために存在する。しかし、情報が黒塗りにされるなど、閉鎖されたなかでことが進んでいくと、社会全体でサポートする術を失ってしまう」

「たとえば、負傷した時も被害が出たかわからない。隊員やその家族も自分たちで表に出せないなか、隠されてしまうのは非常に大きな問題だと思います」

そのうえで布施さんは、帰国した隊員を、社会がどう受け止めるかについても言及した。

「隊員の人たちは、精神的にトラウマを抱えた状態で帰国する。その際、周囲の無理解で加害追求をされたり、間違った戦争だと言われたりすると、余計に精神的にきつくなってしまいます」

「人が足りておらず通常の任務だけでも激務です。そこに海外派遣や災害派遣が増えていくことで、過重なストレスが自衛隊にかかろうとしている現状を、まず理解する必要があります」

BuzzFeed Newsは防衛省に、この会の活動についての見解を問い合わせたが、「個々の団体にコメントをする立場にない」との回答があっただけだった。


海外派遣自衛官と家族の健康を考える会」のサイトには相談フォームが設けられている。

共同代表の蟻塚さんは「不眠だったり、1〜2時間おきに目が覚めたりする、なぜか戦闘を思い出す、イライラするなどの症状は、PTSDと思われる。そうした症状が出た場合は、気軽に相談をしてもらいたい」と話している。


BuzzFeed Newsでは、太平洋戦争でPTSDに苦しんだ元日本兵の実情を戦後70年以上PTSDで入院してきた日本兵たちを知っていますか 彼らが見た悲惨な戦場にまとめています。


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