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なぜ彼女は「保守速報」を訴えたのか。ある在日女性の思い

大阪高裁で敗訴したまとめサイト、保守速報。その裁判に至るまでの経緯とは。

まとめサイト「保守速報」。裁判所が相次いでその差別的な内容を認定し、掲載広告がすべて撤退している同サイトを訴えた在日朝鮮人の女性がいる。

「私は日本で生まれ育って、この国で生きていきたいと思ってきた。愛着もあるし、大切にしているところ。だからこそ、この国が私を大切にしてくれるか、知りたかったんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、「保守速報」を訴えた大阪在住の在日朝鮮人でフリーライターの李信恵さん(46)だ。

自身に関する同サイトの記事が「名誉毀損、侮辱、いじめ、脅迫、業務妨害」に当たるとして、2200万円の損害賠償を求め、裁判を起こした。

6月28日、大阪高裁は記事内容の差別性を認め、サイトの管理人に200万円の支払いを命じる地裁判決を支持した。敗訴した保守速報は最高裁に上告した。

李さんは、なぜ裁判を起こしたのか。

「選挙権を持たない在日朝鮮人は、日本の社会のなかで発言をすることがとても困難な存在です」

「私たちの先輩たちはさまざまな訴訟をして、権利を一つ一つ勝ち取っていった。だからこそ、法廷は日本で一番公平な場所だと思っていたんです」

息苦しくなったインターネット

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在日1世の父と2世の母を持つ李さんは、東大阪市で育った。実家は鉄工所だった。

その影響もあってか、幼いころから機械好き。早くからコンピューターに興味を持ち、パソコン通信やインターネットの黎明期から、その世界に没頭した。

ネット上での、世代も出自も関係ない出会いは、刺激的だった。

行ったことがない韓国の話を聞いたり、在日同士で家庭ごとの食事の違いを笑いあったり。すべてが新鮮で、自由だった。

そんな和気あいあいとしたネット上が、だんだん息苦しくなってきた。ちょうど日韓W杯が開かれ、北朝鮮による拉致問題が注目されるようになった、2002年のころだ。

「その前後から、2chなどの匿名掲示板で在日を差別するような書き込みが増えていったんです。でもその時は、見たくなければ、見に行かなければよかった。変わった人たちが悪口を書き込んでいるだけだ、と」

「それに、そういう人だけではなかった。拉致問題の時には『在日としてどうしたらいいのか』と書き込んだことがあるけど、当時は『悪いのは北朝鮮という国家で、在日じゃない』と支えてくれる人もいました」

加熱した「ネトウヨ」からの攻撃

SNSの出現をきっかけに、空気は変わった。

mixiを皮切りに国内でもSNSサービスが普及し始めると、ネット上の差別は顕著に、そして直接的になっていったのだ。書店に「マンガ嫌韓流」(2005年発売)などの本が並び始めた頃だった。

「個人のmixiや在日コミュニティなどにも荒らしが来て、『チョン帰れ』などと書き込まれるようになった。ブログをやっていた在日の友達で、荒らしを原因に閉じる人が何人もいました」

「それまでは匿名で掲示板に書かれていた内容が、直接的な嫌がらせになった。一気に激しくなったんです。仲間内のリストに一斉にDMやリプライを飛ばされたこともある」

2011年ごろからTwitterが普及すると、いわゆる「ネトウヨ」からの攻撃はさらに加熱した。

比較的閉鎖性が高いFacebookに逃げ場を求めた人も多かったが、李さんはTwitterでの発信をやめなかった。

「在日であること、そして女性であるということが、私が攻撃を受けることになった一番の理由だと思っています」

「私は言い返すし、強い言葉を使うこともある。さらに朝鮮学校や慰安婦のことについても発言をするからこそ、集中攻撃されるようになったんでしょう」

「タガが外れた」瞬間

ネット上で「帰れ」「死ね」などの言葉を投げつけてくる人たちは、中学生から同年代の女性、中高年と思しき男性までと幅広かった。

「路上でも日常的にヘイトデモを見かけるようになり、ネット上では個人攻撃が止まなかった。差別のハードルが低くなったような、まるで、タガが外れたようでした」

ちょうど慰安婦問題などが再燃し、ヘイトデモの動きが活発化した時期にも重なる。

2013年に新大久保であったデモの「カウンター」に参加した時には、ネット上で後ろ姿を特定された。保守系のネットTV「チャンネル桜」(2004年設立)に出演し、在日問題について話したことをきっかけに、顔と名前が広まった。

同時期に活動が各地に拡大していた「在日特権を許さない会」(在特会、2006年結成)元会長の桜井誠氏にも、名指しで批判されるようになった。

そんな中、「保守速報」が李さんに関する記事を掲載した。

「2ちゃんねるに書き込まれた内容をまとめた」として、「マジこいつゴミ」「帰ってくれ」など誹謗中傷の言葉を並べたのだ。

認められた2つの差別

ネット上で発言を続ける李さんは、周囲から疎まれることもあった。

「黙っとけ、ほっとけという人も多かった。お前が色々言うから差別がひどくなる、と在日の男性から言われたこともあった。マイノリティの中でも、さらに弱いところにいたのです」

「しかし、黙っていたら乗り越えられるような差別じゃなかった。死ねと言われているんですから。こうした問題がずっと続かないためにも、何かをしないといけないと思った」

そして2014年、桜井氏と保守速報を相手に二つの裁判を起こした。

桜井氏との訴訟は、2017年に最高裁で勝訴が確定し、後者も6月28日に出た大阪高裁の判決で、保守速報が敗訴した。

差別や誹謗中傷が「人種差別および女性差別に当たる」とし、「社会通念上許される限度を超えている」と指摘。掲示板の書き込みを「まとめる」という行為が「独立した別個の表現行為」とも認め、男性管理人の責任を厳しく問うた。

まだ見えぬ差別も

李さんは、判決をこう評価する。

「公平な司法判断が下された。朝鮮人として、女性として、この日本に生まれてよかったと初めて思いました。この4年間は、ほんとうに辛かった。それでも誰かのためになれば、報われるかもしれません」

「路上でもネット上でも、私たち在日の声はかき消されていた。この裁判を機にネット上でも差別やヘイトは許さないと訴えていきたい」

保守速報をめぐっては、広告主の企業やアドネットワークなどの仲介企業がその記事内容を問題視し、撤退する動きが相次いだ。

広告がなくなりその「存続が危うい」(同サイト)一方で、現役地方議員からグッズ販売などで運営を支えようという動きも出ている。

「こうしたサイトの、差別でお金を稼ぐという目的は明らかだと思っています。まだまだネット上には多くの見えない差別があるはずです」

「誰かに指摘されてやめるということではなく、差別するということが自体が恥ずかしいことであると、気がついてほしい」


BuzzFeed Newsでは、大阪高裁の判決について【保守速報、高裁でも敗訴。在日女性への差別を認定】という記事も配信しています。


Kota Hatachiに連絡する メールアドレス:Kota.Hatachi@buzzfeed.com.

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