• borderlessjp badge

【判決要旨全文】「歪んだ正義感」で立憲・辻元事務所やコリア学園、創価学会を連続襲撃。男への有罪判決、動機への言及は

立憲民主党の辻元議員の事務所や、在日コリアンらが通う中高一貫校・コリア国際学園、さらに創価学会の施設を立て続けに狙った事件。Twitter上の情報を信じ込み犯行に及んだ男に、司法が下した判断は。

辻元清美・参議院議員(立憲)の事務所と、インターナショナルスクール「コリア国際学園」、創価学会の施設にそれぞれ侵入し、建物を損壊したり、火をつけたりしようとしたとして建造物損壊などの罪で起訴された無職・太刀川誠被告(30)の刑事裁判。

大阪地裁(梶川匡志裁判官)は12月8日、被告に懲役3年、執行猶予5年の判決(求刑懲役3年)を言い渡した。

被告はTwitterアカウントで根拠のない情報やデマを信じ込み、「日本を滅ぼす」などと思い込んで3者への犯行に及んだ。在日コリアンに「嫌悪感」を抱いていたとも述べており、コリア国際学園の事件は憎悪感情をもとに排除をあおる「ヘイトクライム」と言える。

判決は、被告がSNS上などの情報を閲覧して根拠のない考え方を持ち、「歪んだ正義感に基づいた独善的な犯行」に及んだとした。しかし、検察側が論告でも触れていた「差別」などへの言及はなかった。

判決を受け、コリア国際学園側は「差別犯罪(ヘイトクライム)であるということが看過され、執行猶予とした結論としており、不十分であったと思わざるを得ません」などとコメントした。

判決要旨は以下の通り。

令和4年(わ)第1588号、 同第2013号、 同第2337号 建造物侵入、窃盗未遂、建造物損壊、器物損壊被告事件

被告人 太刀川 誠

判決要旨

判決主文

被告人を懲役3年に処する。この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。

理由の要旨

(罪となるべき事実の要旨)

被告人は、

第1 窃盗の目的で、令和4年3月1日午前3時14分頃、 辻元清美氏事務所所長が看守する大阪府高槻市所在の同事務所に、1階東側窓ガラスの施錠を外すなどして侵入し、その頃、同事務所内において、キャビネットの扉を開けるなどして物色したが、警報機が発報したことにより逃走したため、窃盗の目的を遂げなかった、

第2 正当な理由がないのに、同年4月5日午前2時7分頃から同日午前2時37分頃までの間に、コリア国際学園学園中等部高等部学校長が看守する大阪府茨木市所在の同学園敷地内に、南西側フェンスを乗り越えて侵入し、その頃、同学園が所有する同学園建物1階ピロティにおいて、同所に置かれていた段ボールに火を点け、その火力により同建物床面に固定されたビニル床シートを焼損させ(損害見積額合計29万400円)、もって他人の建造物を損壊した、

第3 正当な理由がないのに、同年5月4日午前2時35分頃、創価学会淀川文化会館事務長が看守する大阪市淀川区所在の同会館敷地内に侵入し、 その頃、同所において、同会館1階北東側窓ガラスにコンクリートブロックを投げ付けて同窓ガラス2枚を割り(損害見積額合計18万4800円)、もって他人の物を損壊した

ものである。

(量刑の理由の要旨)

本件は、

①特定の政党に所属する元衆議院議員(当時)の事務所に侵入して事務所内を物色し(判示第1)

②特定の国籍の者らを含む生徒を受け入れる中学校及び高等学校の敷地に侵入し、段ボールに火を点けて建造物のビニル床シートを損壊し(判示第2)

③宗教団体の施設の敷地に侵入して同施設の窓ガラスを割った(判示第3)というものである。

被告人は、いずれも下見の上、顔を隠すためのサングラス等を用意して深夜に犯 行に及んだものであって、一定の計画性が認められる。

本件各犯行がわずか2か月余りの間に立て続けになされたことや、判示第2の犯行が火力を用いた危険な態様で行われたことも看過できない。判示第2及び第3の各犯行による被害は合計で約47万円に及んでいるし、判示第1の犯行によっても金銭的な被害が発生しているから、犯行の結果は相応に重い。

犯行によって被害者やその関係者が強い不安感を抱くことは想像に難くなく、判示第2の被害者代表者が公判廷において強い被害感情を表すことも当然である。

被告人の供述によれば、被告人は、SNSの書込みを閲覧するなどするうちに、特定の政党や特定の宗教団体が支持している政党が我が国に対して害悪をもたらす、あるいは特定の国がミサイルを発射し又は農作物を詐取したことなどから、日本に居住する同国籍の者を放置すると国民が危険にさらされる、などと考え、嫌がらせをするためにその関係者の名簿を入手する目的、あるいは嫌がらせの目的で本件各犯行に及んだというのである。

しかしながら、他者が自らと異なる政治的な意見等を有していることは自由民主主義社会では当然のことであるし、それに対して嫌がらせをしたり、暴力をもって対抗することは許されない。

仮に特定の国の者が何らかの不正をしたとしても、同じ国籍だからといって無関係の者がその責めを負ういわれはない。そもそも、これらの者が我が国に害悪をもたらすなどという被告人の考え自体、根拠のない情報に基づくものである。

犯行は歪んだ正義感に基づく独善的なものであって、犯行に至る経緯、動機に酌量の余地は全くない。そうすると、被告人の刑事責任は到底軽視することができない。

他方、被告人が、犯行を認め、身柄拘束を通じて一定の反省の言葉を述べるに至っていること 判示第1の窃盗の犯行は未遂に終わったこと、判示第3の被害者との間で示談がなされていること、父親が監督を約束していること、 被告人に前科のないことなど、 被告人に有利に斟酌すべき事情もあると認められる。

そこで、 以上の事情を考慮し、 被告人に対して主文の刑を定めた。

(求刑懲役3年)

令和4年12月8日 大阪地方裁判所第12刑事部

裁判官 梶川匡志