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「ネットでモンスター生み出さない対策を」在日コリアン“銃殺”ほのめかした男に、被害者が直接伝えたこと。

立憲民主党の辻元議員の事務所や、在日コリアンらが通う中高一貫校・コリア国際学園、さらに創価学会の施設を立て続けにねらった事件。Twitter上の情報を信じ込み犯行に及んだ被告に対し、被害者が法廷で訴えたこととは。

辻元清美・参議院議員(立憲)の事務所と、インターナショナルスクール「コリア国際学園」、創価学会の施設にそれぞれ侵入し、建物に損壊を与えたり、火をつけたりしようとしたとして建造物損壊などの罪で起訴されている無職・太刀川誠被告(30)の第4回公判が11月17日、大阪地裁(梶川匡志裁判官)であった。

検察側は論告で「不合理な差別も許されない」「歪んだ憎悪心は容易に矯正できない」などとして、懲役3年を求刑。弁護側は被告による謝罪文を読み上げたほか、最終弁論では執行猶予付きの判決を求め、結審した。

被害者であるコリア国際学園の金淳次・理事長も法廷に立ち、「ヘイトクライムという恐ろしい犯罪は、差別や偏見に根差すもの」などと厳罰を求めた。そして、被告にあえて「太刀川君」と呼びかけ、反省を促した。その要旨は以下の通り。

(注:事件の実相を伝えるため、この記事には差別・暴力表現が含まれます)

コリア国際学園は、「越境人」の育成を建学の精神とし、在日コリアンをはじめとする多様な文化的背景を持つ生徒たちが、自らのアイデンティティについて自由に考え学び、学力と豊かな個性を持った創造的人間として、複数の国家・境界をまたぎ活躍できるような人材を育てることを目的とした学校です。

在校生の国籍は日本・韓国・中国・アメリカと多様ですが、K-POPを学びたいという日本人の生徒が多数在籍しており、今年に入ってからは日本人の生徒が在日コリアンの生徒らよりも多く在籍しています。

裁判所に訴えたいことは、太刀川君が犯した当学園に対するヘイトクライムという恐ろしい犯罪は、在日コリアンに対する差別や偏見に根差すものであるということです。在日コリアンとしては、今回の犯罪をとても許せるものではなく、できる限り厳しく処罰してほしいと思います。

被告人質問を傍聴し、謝罪文も読みましたが、太刀川君がヘイトクライム事件を起こしたことに対する心からの反省を感じることはできませんでした。

もし太刀川君にも、国籍や民族に関係なく、お互いが名前で呼び合うような在日コリアンの友人や知人がいれば、果たして今回のような恐ろしい事件を起こせたのだろうかとも想像します。

在日コリアンへの差別や偏見をなくし、真に更生してくれることへの願いと、人を人として見ない無知から発する差別や偏見に対する強い怒りを込めて、被告人という記号で呼ぶのではなく名前でもって呼びかけたいと思います。

在日コリアンというだけで…

今回の犯行は、明らかに在日コリアンを攻撃する意図をもってなされた放火であり、決して許されるものではない重罪です。小さな学校ですので、少しでも火の勢いが強ければ、校舎が全焼していてもおかしくありませんでした。

太刀川君が、在日コリアンを日本から排除しようという目的で当学園の名称を狙ったとも聞き、私は恐布と不安と怒りを感じました。

もし名簿が盗まれていたら、理事長である私が真っ先に狙われていたのではないかという恐怖はもちろん、別の人間が起こすヘイトクライムの対象となるかもしれない、在日コリアンだというだけで、いつどこで誰に狙われるかわからないという漢然とした不安を感じるのです。

今回の犯行に至った動機として、北朝鮮による邦人拉致やミサイルなどを挙げ、在日コリアンは反日的であると決めつけ、犯行に及んだと言いますが、これらの動機は何ら正当化されないものです。学園の生徒や学校とは全く関係がなく、あまりにも一方的で身勝手な考えであるとしか言いようがありません。

ツイッターには「韓国人の射殺が合法化されないかなぁ」「もう日本人に朝鮮人の射殺許可出してくれよ」という恐ろしいツイートがいくつもありました。ヘイトクライムにとどまらず、在日コリアンを抹殺しようとするジェノサイドまで扇動していることに、底知れない恐怖と不安に襲われています。

ツイートを前にして、1923年の関東大震災で多くの朝鮮人たちが理由もなく日本人から殺された歴史を思い起こさずにはいられません。約100年前に日本で実際に起こったことと本質において何ら変わりがないことが、現代の日本で起こっているという事実に驚愕せざるを得ませんでした。

「モンスター」を生み出さない対策を

ヘイトクライムは、在日コリアンへの個人的な差別意識や偏見だけに限られるものではなく、放置すればあらゆる外国人学校も標的になる可能性があります。日本においてダイバーシティを標ぼうする個人や団体が阻害されることにもつながっていきます。

太刀川君は、当学園だけではなく、辻元議員や創価学会への事件でも起訴されていますが、まさに日本社会に対するテロでもあるのです。

そして、本件の事件に限らず、京都・名古屋・徳島をはじめ日本全国で発生したヘイトクライム事件を目の前にして、事件を起こした人たちが、どうして途中で歯止めをきかせられなかったのか、誰か止める人はいなかったのかと考えざるをえませんでした。

インターネットやSNSで得られる情報だけで直情的な犯行に流されていくモンスターを生みださないような対策をとることが急務であると思います。

そのためには、太刀川君を厳しく罰するだけで終わるのではなく、ヘイトスピーチに対しても罰則を科し、ヘイトクライム事件に対しても厳しく処罰できるようにして、次の太刀川君が現れないようにしてほしいのです。

また、日本の社会全体が、ヘイトスピーチやヘイトクライムが決して許されない行為であることを認識できるよう、広く啓発してほしいのです。

私自身も自分たちが何をしなければならないか、教師や生徒らと話し合いたいと思います。それが、今回のヘイトクライムに対する恐怖や不安に打ち克つ一番の方法であるはずです。

最後に、太刀川君には、当学園の生徒募集のポスターに掲げた言葉を伝えたいと思います。「当学園では、人と違う自由はありますが、人と違うことを責める自由はありません」という言葉です。この言葉の意味をよく考えてください。

再犯防止だけでなく、他人が起こすかもしれない同種犯罪を防止するため、何ができるのか、何を勉強しなければならないのか。インターネットの環境がない刑務所で、真剣にこの問いに向き合ってください。

訂正

関東大震災の発生年を「1928年」としていましたが、正しくは1923年でした。お詫びして、関連部分を訂正いたします。