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在日コリアンの父に「密入国では?」ヘイト投稿に損害賠償200万円求め、娘が提訴

投稿は父親への名誉を毀損し、遺族による「敬愛追慕の情」を害していると主張。違法な差別的言動であるとも指摘している。

在日コリアンの父を持つジャーナリストの安田菜津紀さんが、Twitterでヘイトスピーチを受けたとして、投稿者の西日本在住の2人に対し、それぞれ損害賠償など約200万円を求める訴訟を12月8日、東京地裁に起こした。

(*この記事にはヘイトスピーチの文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)

安田さんは中学生の頃に父親を亡くしており、高校時代に戸籍を手にするまで、在日コリアン2世だったという父親の出自を知ることはなかった。

訴状などによると、2人は安田さんが父親に関する記事をTwitterに投稿したところ、それぞれ以下のようにリプライを寄せた。

(1)「密入国では?犯罪ですよね?逃げずに返信しなさい」

(2)「チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい。お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」

安田さん側は訴状で前者について、事実ではなく父親への名誉を毀損し、遺族による「敬愛追慕の情」を害しているなどと主張。さらに双方について、違法な差別的言動であるとも指摘している。

なお、これらが「差別」に当たるかについては、プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟の判決が、それぞれ以下のように明言している。

(1)「原告の父親の出自が朝鮮人であることをもって、密入国者であると摘示した、不当な差別的言動と言わざるを得ない」

(2)「原告の父親のみならず、原告含め、広く韓国にルーツを有する日本在住者をその出自のみを理由として一律に差別する趣旨のものであって、それらの者の社会的評価を低下させるとともに、その名誉感情を侵害する表現というべき」

代理人の神原元弁護士は会見で、後者の「チョン共」という表現が差別であると認められた点について、「複数形を巧妙に用いた集団へのヘイト表現について認めたということは非常に稀で、大きなこと」と評価した。

「密入国していない人を密入国というのは名誉毀損に当たりますが、本件の分類で言えば在日コリアンの人たちを密入国と決めつけることが差別と言えます。これは、今回の裁判の重要なポイントになってくるのではないでしょうか」

「差別する自由が認められてしまっている」

安田さんに対しては、こうしたルーツに言及する差別的な書き込みがTwitter上で年々、増加している。

「社会調査支援機構チキラボ」の調査では、2021年だけで100件以上に及んだ。「帰れ」「ゴキブリ」「出ていけ」などのヘイトスピーチもあった。

安田さんは会見で、「差別的投稿を見なければいいという声もあるが、ヘイトスピーチは沈黙を相手に強いるだけではなく、向けられた側の命や日常の尊厳を削り取る暴力性がある」と語り、こうも訴えた。

「差別する自由が認められてしまっている一方で、矛先を向けられた側の表現の自由がじわじわと削られてしまうという非対称性がある。さらに裁判を起こすのには労力が必要で、認められないこともある。安心して被害を訴える受け皿がないと感じています」

「こうした現状に何か歯止めをかけたいと今回、提訴しました。この訴訟が、次世代がこうした言葉の暴力の矛先を向けられ、脅かせることがない社会がつくれることへの一助になれば」

代理人の師岡康子弁護士は「被害者が声を上げなければいけないのはおかしいことで、国の責務を果たしていない」と指摘し、包括的な差別禁止法や独立した人権救済機関の必要性を訴えた。