着物の販売やレンタルをする横浜市の会社「はれのひ」が突然閉店し、予約していた新成人が振袖を着られなかったトラブル。警視庁などに寄せられている相談は450件を超えたという。
同じ名前ということから、一連の問題に巻き込まれたフォトスタジオがある。佐賀県にあるフォトスタジオ「ハレノヒ」だ。風評被害への不安を抱える代表は、言葉に力を込める。
「こんなことをするのは一部の人だけだよ、と伝えたい」
「まさかこんなことが起きるとは思っていませんでした。いままで経験したことのないことに巻き込まれ、困惑しています。いろいろと不安で、夜も寝られませんでした」
「ハレノヒ」代表の笠原徹さん(42)はBuzzFeed Newsの取材にそう語る。
笠原さんは3年前にフォトスタジオをオープン。2016年からは貸衣装店「Reminess(レミネス)」もはじめ、今年の成人式のために着付けや撮影を行なっていた。
顧客からの電話でトラブルが発覚。それ以降は、サイトにアクセスが殺到しダウンしたほか、無言電話も10件ほどかかってきたという。メディアの取材も集中し、業務外の対応に追われた。
「はれのひ」社長に向けた思い
騒動から2日。笠原さんは、サイトに【ハレノヒ違いの渦中にある私からのお礼と「はれのひ」元社長へ伝えたいこと】という文章をアップした。
「誹謗中傷されることの方が多いのかなと思っていたが、助けてくれようという動きが多くあり、本当に嬉しかった。とても勇気付けられました。それをまず、伝えたかったんです」
そう考えて綴ったと言う文章は、まず「感謝」から始まる。
ここでお礼を申し上げたいと思います。
それはSNS上などで、当社が今回の騒動とは全くの無関係であり、間違えないように呼びかけて下さるなど、風評被害を防ごうと動いて下さった皆様にです。
見ず知らずの当社に被害が及ばないように行動して下さり、本当にありがとうございました。
また、「はれのひ」社長にも「少なからず影響を受けた人間の一人として」の思いをこう記した。
まず今回の騒動で当社へ影響が出るなんてことは、おそらく貴殿の頭の中にはなかったと思いますし、そこに対して恨みなどは一切ありません。
しかし、成人式当日に業務を放棄した行動は到底容認できません。
さらに「同じ経営者として」こうも書き加えている。
小さな小さな会社ながら一応は私も同じ経営者です。事業が苦しい時もあるでしょうし、倒産するかもしれません。
それでもこの事業を行なっている以上、あなたには最後までカッコつけて欲しかったです。
「もう倒産するけど、成人式だけはちゃんと着物を着させて終えてあげたい。」
そう考えて欲しかったです。
それが「時」と「思い出」を扱う商売をしている人間の最低限の資質だったんではないでしょうか。
トラブルを機に、改めて自らの仕事について考えたという笠原さんは、こう語る。
「いくつかのメディアの取材で、社長に対して言いたいことがあるかと聞かれました。怒りの言葉を引き出そうとされるのですが、そういうのは出てこなかったんです」
「やらなきゃいけないことは、自分たちが何を扱っているかというところに立ち戻ること、だと思いました。我々のように”時”と”思い出”を扱っている者は、お金や物を右左に流すだけではなく、その先にいる人間を見ないといけない」
社名を変えるつもりはない
一方で、風評被害への不安も募るという。
「今回の騒動をきっかけに、成人式で振袖を着るという選択がなくなったり、業界全体からお客さんを遠ざけてしまったりすることになるのではないか、と不安に思っています」
さらに心配なのは、自らの写真館や貸衣装店への「見えない風評被害」だ。
「名前を変えては?」という声もかかる。しかし、その気持ちはないという。先出の記事には、こうも記している。
「ハレノヒ(Halenohi)」という社名は私が起業する際、自分の子供に名前をつけるような思いで命名したので変えるつもりはありません。
当社のハレノヒという名は、写真を撮る日がその人の「ハレの日」になって欲しいという意味のほか、
心が晴れやかになる天気の「晴れた日」の意味と、ハワイ語で「家」を指す「hale」の日、つまり「家族の日」になればいいなという思いのもと付けました。
今はむしろ「はれのひ」という音に付いたマイナスイメージを、当社でなんとかプラスに持っていきたいと考えています。
笠原さんは言う。
「同じ名前の宿命でしょうか。むしろこの名前をプラスにしていくために、良い目標になるのではないかとも、思っています」
「ハレノヒ」では、今回のトラブルに巻き込まれた新成人を対象に、無料での着付けや撮影サービスを提供するという。
「被害に遭われた方には、もう嫌な思いをしたくない、騙されたくない、という方が多いはずです。佐賀まで行ってもいいよ、という方がいるのであれば。ぜひ、楽しく、安心できるような時間を提供させていただきたいです」