「反社会的勢力」めぐる閣議決定、日本語学者も困惑

    法務省が「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人であると定めていた反社。桜を見る会に関連した政府答弁では「定義することは困難である」とされてしまった。

    政府が12月10日、「反社会的勢力」について「限定的かつ統一的に定義することは困難である」と閣議決定したことが話題を呼んでいる。

    ネット上では「排除しようとした警察や企業の努力は…」「笑えない。怖い」などという声が上がっている。また、日本語学者からも困惑の声が聞こえてきた。

    この閣議決定は立憲民主党の初鹿明博議員が、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」に反社会勢力が招待されていたことを受けて出した質問主意書に対するもの。

    そもそも反社会的勢力とは何か。小学館の『日本大百科全書』では、以下のような説明がされている。

    「暴力や威力、あるいは詐欺的な手法を駆使し、不当な要求行為により、経済的利益を追求する集団や個人の総称」

    これは、法務省が2007年に出した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に基づいたもの。同指針には以下のように記されているからだ。

    暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。

    定義は定まっていない…?

    この「反社会的勢力」に関しては、安倍首相主催の「桜を見る会」への参加が取り沙汰されて以降、政府への批判が高まっていた。

    しかし、菅義偉官房長官は記者会見で「様々な場面で使われることがあり、定義は一義的に定まっているわけではない」と発言。

    また、西村明宏官房副長官も「反社会的勢力の皆さまが出席されたかどうかについては、個人に関する情報であるため、回答できない」などと述べていた。

    こうした状況を受け、初鹿議員は先出の指針に言及しながら質問主意書を提出。閣議決定された答弁は、以下のような内容だった。

    「その形態が多様であり、またその時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的かつ統一的に定義することは困難である」

    法務省の指針を踏まえた定義を載せていたWikipediaも、今回の閣議決定が報道された直後、さっそく更新された(その後、さらに表現が変わっているが閣議決定には触れられている)。

    「反社会的勢力とは、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難はされていない。反社(はんしゃ)とも略される」

    一方、ネット上では困惑の声も広がった。「反社会的勢力」への排除に力を入れてきた警察や企業の努力について言及する声も多くみられたほか、「言葉の意味を変える」ことが怖い、という指摘もあった。

    「社会に混乱を招く」

    専門家からも、同様に困惑の声が聞こえてくる。『三省堂国語辞典』編集委員で日本語学者の飯間浩明さんは、BuzzFeed Newsの取材に、以下のように答えた。

    「『反社』という言葉は、将来辞書に入りうる単語になるだろうと、『今年の新語』に選んだものでした。その意味は法務省の指針を参考に、『暴力団など、暴力や詐欺(サギ)といった方法で利益を得ようとする勢力』としています」

    今年は「桜を見る会」や吉本の闇営業問題で「反社会的勢力(反社)」が多く報道されたことを受け、「新語」に選出していたという。そんな飯間さんは、今回の閣議決定は「好ましくない」と感じている。

    「事実上、社会の共通認識となった指針がある一方で、定義ができないという閣議決定が出てしまうと、社会に混乱を招くことになるため、好ましくないとも思います。政府内では高度に整合性が取れているのかもしれませんが、一般の立場からは理解ができません」

    「辞書をつくる際には政府の定義も参考にしますが、基本に立ち戻って、一般の人々がどういう意味で使っているかを観察することになるでしょう。そうすると法務省の指針で説明されている見方とするのが、もっとも妥当ではないかと思います」

    そのうえで、飯間さんはこうも語った。

    「政府に対しては『定義が定まっていないのであれば、今後は辞書をお引きください』ということになりますね」