11月9日、Twitter上で大きく拡散した「尊いの手話」というツイート。
「日常に使いたい手話」と書かれたツイートは少なくとも7万7千回以上リツイートされ、18万7千回以上の「いいね」がついていた。
しかし、これは手話辞典を使ったコラージュ画像だった。実際は「鳥」や「飛ぶ」を意味する手話だったが、ツイートの拡散によりろう者までに「新しい手話ができたのでは」との誤解が広がった。
なぜ、この画像はここまで拡散してしまったのか。BuzzFeed Newsは経緯を取材した。
ネタとしてはじまったグランプリ
そもそもこの画像は、8月にTwitter上で使われたハッシュタグ「#鳥手話クソコラグランプリ」の最中につくられたものだった。
もともと『子どものための手話辞典』(汐文社)の「鳥」の項が「素材画像」にされていたと。
素材画像や「尊い」のコラージュをつくった人物は、BuzzFeed Newsの取材にこう答えた。
「他の人がツイートした画像の文字を僕が消して素材にしたら、鳥手話クソコラグランプリというものが始まりました。そこで作った画像です」
もともとは「ネタとしてバズればいい」とは思っていたものの、3ヶ月後に別の人物によって「本物」として広がりを見せるとは思っていなかったという。
「尊い、という言葉と天に召されるということが繋がるのは、ツイッター内だけだと思います。本当にある手話表現だと捉えられていたことは、正直びっくりしました」
「バズっていた画像は作った時より劣化していて、現実感が増してるように見えたかもしれません」
きっかけは「勘違い」だった
「事実確認もせずツイートをした事、出典のわからないものを説明もせず発信したことについて大変申し訳無く思います」
そう取材に答えたのは、拡散したツイートを掲載した20代前半の男性だ。
男性の説明によると、画像は偶然Twitterの別アカウントで見つけたという。
「かわいくて面白かった」のでリツイートしようとしたが、鍵のかかっているアカウントだったためにできず、本アカウントから画像を投稿し直した。
その際、事前にGoogle画像検索をして、念のために本物かを確認したが、文字部分の消された素材画像しか見つからなかった。
また、「尊い」という手話を調べたが、Twitterには「地域で差がある」「新しく出来た手話」という意見もあったため、「本当の意味だと勘違いして」ツイートしてしまったという。
「こんなに伸びるのは全くもって予想外でした」。最初は10リツイートほどだったものが、みるみるうちに拡散した。
騒動の最中にアカウントが凍結され、ツイートを削除したのは、2日後のこと。凍結が解除されてから、謝罪の旨もツイートした。男性は、取材にこうも語った。
「手話という重要なコミュニケーション手段に対する勘違いを産ませてしまった事について、多大なるご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」
ろう者にも広がった誤解
Twitter上では、「会社でやってしまった」「本当だと思っていた」などの声が相次いで投稿されている。
なぜ、ここまで誤解が拡散してしまったのだろうか。
実際、尊いの手話に関する「訂正マンガ」(写真)を投稿した美大生のコノミさん(19)も、小さい頃から基本的に手話を使ってコミュニケーションをとって過ごしてきたが、当初は「尊いの手話が新しくできた」と誤解していたという。
「私の友人も『あれ、”尊い”の手話なんだ!と思った』と言っていましたし、他のろう者のところでも”尊い”ってこうやるんだね!と両手でパタパタしてみせたりする人もいたようです」
表現の幅が広く、さらに地域差も大きい手話という言語の特性上、こうした誤解が広がりやすかったともみられる。
出版社も「訂正」を拡散依頼
一方、汐文社は11月21日、Twitterに本来の書籍の画像を投稿。
「誤った情報を拡散することのないようにお願いいたします」と呼びかけた。
コノミさんの訂正マンガとこのツイートを合わせても、計4万RT。もともとの拡散には及ばない。
いったい、こうした拡散を防ぐためにはどうしたら良いのだろうか。
自らも「誤解」から画像を投稿してしまった先出の男性は、こうも語った。
「実際ネットの情報というものは曖昧なものが多く、何気なくただTwitterを眺めてるだけでたくさん情報が流れてくると思います。その中で正しい情報かどうか見定める必要があるなと私自身がより実感しました」
「私が言えたことではありませんが、流れてくる情報を鵜呑みするのではなく、疑いの目を持って情報を摘み取ってほしいと思います」