「私を任命すると、国民への責任を負えないの?」学術会議、任命拒否の教授が官僚に直接聞いたこと

    内閣府の担当者は2018年11月13日付の内部文書を公開。過去の答弁との矛盾も問われたが、内閣法制局の担当者も「国民および国会の責任に負えないような場合にまで任命する義務はない」という見解を繰り返した。

    日本学術会議の任命問題をめぐり、過去の政府答弁との矛盾が注目を集めている。

    学術会議の人事は法律で定められており、過去の政府答弁では、首相による会員の任命は学術会議からの推薦を受けた上での「形式だけ」のものであり、法解釈上も政府側が「拒否はしない」「干渉しない」仕組みになっている、と明言されていたからだ。

    そのため、今回の菅義偉首相による6人の任命拒否には「解釈変更」が必要ではないかとの指摘もある。内閣法制局は10月6日の野党合同ヒアリングで内部文書を示し、「変更はしていない」との立場を示したが、専門家からは批判があがった。

    まず、経緯を振り返る

    そもそも、学術会議の会員の選定方法が「推薦制」になったのは1983年(中曽根康弘政権)のこと。

    それまでは「公選制」だった選定方法が、現在のように学術会議側の推薦(当時は学術研究団体によるもので、2004年に会員によるものに変更)を受け、首相が任命する方式に変えられた。

    当時の政府は「立候補者数の減少」など「学者の学術会議離れ」をその理由にあげていたが、当時の国会では、この「推薦制」に反対する声も野党側からあがっていた。当時も政府内に学術会議に対する批判的な目線があったことから、今回のような「恣意的な人事介入」を懸念していたのだ。

    一方で、当時の政府側はそうした懸念には当たらないと答弁してきた。

    5月の参院文教委員会で、手塚康夫・内閣官房総務審議官(当時)は同じ日の委員会で首相による任命は「形式的であり、実質的ではない」と述べている。また、高岡完治・内閣官房参事官も同日の委員会で、以下のように述べている。

    この条文の読み方といたしまして、推薦に基づいて、ぎりぎりした法解釈論として申し上げれば、その文言を解釈すれば、その中身が二百人であれ、あるいは一人であれ、形式的な任命行為になると、こういうことでございます。

    高岡参事官は「法律案審査の段階におきまして、内閣法制局の担当参事官と十分その点は私ども詰めたところでございます」とまで言い切った。

    さらに国務大臣である丹羽兵助・総理府総務長官も「学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない」と「歯止めをつける」「干渉しない」と述べ、中曽根康弘首相(当時)も「政府が行うのは形式的任命にすぎません」と明確に答弁しているのだ。

    国民への責任…?

    この点について、10月2日に開かれた野党合同ヒアリングによると、2018年に内閣府からの問い合わせを受けた内閣法制局が、合議ののち解釈を「確定」させたという。

    1983年の解釈を変更したのかどうかについて野党側は何度も追及をしたが、内閣府も法制局も回答をにごし、「まさに義務的に任命しなければならないわけではない」と繰り返した。

    そのため、10月6日の野党合同ヒアリングでは、改めて「解釈変更ですか?」という質問があがった。内閣府の担当者は2018年11月13日付の内部文書を公開し、以下のように回答した。

    「憲法の規定に照らして行った時に、まさに任命権者たる内閣総理大臣が任命責任を負えるものではないといけない。結論として内閣総理大臣に17条による推薦の通りに任命する義務があるとまでは言えない、この考え方については、従来から一貫しているものだという風に理解をしています」

    憲法の規定とは「憲法15条」の「公務員を選定、罷免は国民固有の権利」とする条文を指している。政府はこの点を引用し、以下のように判断しているのだ。

    「内閣総理大臣が、会員の任命について国民及び国会に対して責任を負えるものでなければならないこと」

    内閣法制局の担当者もこの点を問われ、「解釈の変更ではありません」と明言。

    「憲法15条に基づく公務員の終局的な罷免、任命権は国民にあります。それを内閣総理大臣が請け負っており、その関係において内閣総理大臣は最終的に国民に対する責任を負っている」

    「その責任の範囲のなかで任命権を行使するわけですから、責任を負えないような任命権は行使できないということはずっと一貫している考え方であり、その前提のもとに1983年の答弁もなされているというわけであります」

    ただし、文書では過去の答弁には触れていない。その後も矛盾を問われたが、法制局の担当者は「国民および国会に対して責任に負えないような場合にまで任命する義務はない」という見解を繰り返した。

    「解釈の変更と言わざるを得ない」

    これについて、ヒアリングに参加していた、任命を拒否されたひとりである早稲田大大学院の岡田正則教授(行政法)が、内閣法制局の担当者にこう語りかける場面があった。

    「国民に責任を負えないから任命できないとおっしゃったわけですね。江崎さん(*内閣法制局の担当者)私、どうして国民に責任を負えないとあなた、あるいは内閣総理大臣は判断したのでしょうか?」

    内閣法制局の担当者はこう問われ、少し動揺しながら「すみません」と回答。以下のように述べている。

    「あくまでそれは法解釈、規範的な部分で述べているわけであって……。個別具体的にどうかというのは、こちらからお答えする立場にはございません」

    さらに内閣府の担当者も同様の問いに対して「個別の人事については申し上げることは控えたい」と答えた。

    岡田教授はその後、今回の政府判断について「法解釈の変更と言わざるを得ない」と指摘。「変更でなければ、わざわざ(*2018年に内閣府から)法制局に義務的に任命できないということを相談することもない」とも言及した。

    そのうえで、「実質的に推薦名簿から除くということは、この人はいい悪いという選考を内閣総理大臣がやった」ことになるとして、独立した機関である学術会議に与えられていた選考を「改めて内閣総理大臣がするということはそもそも法律としてやってはいけないこと」と強調。こうも述べた。

    「学部のゼミ生にとって、国家公務員の幹部の方々は憧れです。きちんと学生の目標になるようにお仕事をしてきていただきたいし、誠心誠意国民のみなさまに説明をしてもらいたい」

    なお、菅首相は10月5日の内閣記者会による「合同インタビュー」で、今回の任命拒否の理由を以下のように答えている。

    「個別人事に関するコメントは控えたい」「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から判断した」

    これが果たして、内閣府などがいっていたように「国民に責任を負えない」というものになるのだろうか? 野党側は、引き続き政府に説明を求めている。

    UPDATE

    一部表記を修正しました。

    UPDATE

    当初、内閣府文書の日付を「2019年」としていましたが、正しくは「2018年」でした。修正いたします。