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「バイデン氏の当確取り消し」フジ解説委員が誤情報拡散→削除。テレビ局側は「遺憾」

発端となったのはトランプ氏の側近。情報はサイト側にも否定されていたが、日本ではその後も「まとめサイト」などを通じて拡散し、フジテレビも上席解説委員の署名記事でこの情報を一時掲載していた。記事はその後、削除されている。

アメリカ大統領選をめぐり、ネット上に「世論調査サイトがペンシルベニア州でバイデン氏の当選確実を外した」という情報が拡散した。

発端となったのはトランプ氏の側近。情報はサイト側にも否定されていたが、日本ではその後も「まとめサイト」などを通じて拡散し、フジテレビも上席解説委員の署名記事でこの情報を一時掲載していた。記事はその後、削除されている。

フジテレビの平井文夫上席解説委員が11月11日に掲載したのは、「バイデンは融和を求める素晴らしい次期大統領で、トランプは負けを認めないひどい奴、というストーリーは本当なのか」という記事。

バイデン氏の勝利宣言に対し、トランプ氏が法廷闘争を展開していることに触れながら、以下のように記している。

トランプの奴、いったいいつまで粘るつもりなんだ、と思っていたら昨夜面白いニュースが入ってきた。世論調査サイトの「リアルクリアポリティクス」がペンシルベニア州でのバイデンの当確を取り消した結果、バイデンの獲得選挙人は259人となり、過半数の270人を下回ったというのだ。このサイトは主要メディアがよく引用しているので怪しいものではない。

こういう数字が出るとトランプはますます敗北宣言をしなくなってしまうだろう。

しかしこれは、アメリカ発の誤情報だ。もともとはトランプ大統領の側近で弁護士のジュリアーニ元ニューヨーク市長が日本時間の11月9日午前(日本時間)にツイートし、拡散したものだった。

ジュリアーニ氏は大手世論調査サイトの「リアル・クリアポリティクス」がペンシルベニア州のバイデン氏の当確を取り下げたとして、「これは始まりにすぎない」などとツイートしている。

この情報は10日午前に別の保守系活動家のインフルエンサーもツイートし、さらに拡散したが、「リアル・クリアポリティクス」の代表者は10日午前の段階で、Twitter上で「これは誤りです。リアル・クリアポリティクスはペンシルバニア州に当確を出したことはなく、何も変わっていません」と否定した。

先述のインフルエンサーはツイートを訂正したが、ジュリアーニ氏は取り下げておらず、Twitter側から「真偽が議論されている」との警告が表示されるようになっていた。

アメリカの複数のファクトチェックサイトでも、この情報は取り上げられていたが、日本では同日ごろから拡散が始まった。

起点となったのは「アノニマスポスト 」や「もえるあじあ」などの複数のまとめサイトで、計測ツール「BuzzSumo」を使うと、2つのサイトを合わせSNS上で8000以上シェアされていることがわかる。

削除の経緯は?

平井解説委員の記事が出たのは、翌11日午後0時45分のことだった。

ただし、この時点では日本でもTwitter上で訂正情報が拡散しており、さらに夕方には毎日新聞がファクトチェック記事を掲載した。平井氏の記事も、午後6時ごろに以下のように訂正された。

これはトランプ側近のジュリアーニ元NY市長のツイートをもとに書いたものですが、リアルクリアポリティクスはもともとペンシルバニア州でバイデンの当確を出しておらず、従って獲得選挙人は259人で過半数を超えていませんでしたので、その部分を削除します。

記事の情報ソースは、すでに誤りが指摘されており、Twitterから警告も出されていたジュリアーニ氏のツイートだった、ということだ。

リアル・クリアポリティクスのサイトを読み込み、アメリカ側で広がっていた訂正情報を調べてさえいれば、気づけたはずの誤情報を記事化してしまったことになる。

さらに記事は、深夜0時ごろに削除された。BuzzFeed Newsはフジテレビに対し、(1)経緯(2)今後の対応(3)記事化の前に事実確認のプロセスは経ていたのかーーの3点をFAXで質問したところ、以下のように回答があった。

「11月11日正午に掲載した記事の内容に誤りがあったため、同日18時に訂正を含む記事に修正、同日24時に記事そのものを削除いたしました。すぐに記事を削除せず、一時、訂正を掲載したのは、誤った内容であったことをお知らせすべきと考えたためです」

「取材および編集の詳細に関してはお答えしておりませんが、誤った情報を配信し訂正・削除にいたったことは遺憾であり、今後、同様の問題が発生しないよう努めてまいります」

学術会議めぐる誤情報も拡散

平井氏は、日本学術会議をめぐってもネット上で拡散されていた誤情報を番組中で発言し、後から訂正したことがある。10月5日の同局系列の情報番組「バイキングMORE」で発言した以下のような内容だ。

「だって、この人たち6年ここで働いたら、そのあと学士院というところに行って、年間250万円年金もらえるんですよ。死ぬまで。みなさんの税金で。だいたい。そういうルールになっている」

ネット上では、番組のこの部分を切り取った動画が多数拡散。中には40万近く再生されているものもあり、いくつかのまとめサイトがこの言説をまとめている。

そもそも双方は独立した組織で、学士院の会員にはなるためには推薦、選考が必要であり、学術会議の所属がその資格になるわけではない。平井氏本人も翌10月6日朝放送の「とくダネ!」内で「学術会議の全員が学士院会員になれると誤解を一部に与えてしまった」と述べた。

この際、「事実を確認させてください」として「学術会議の会員は学士院の会員に推薦されますが、ならない人もいますし、学術会議以外の人も学士院会員になる道はあります」とも述べている。

しかし、学術会議の会員であれば学士院の会員を「推薦」することはできるが、それによって無条件に「推薦される」わけではない。訂正の発言にも誤りが含まれていた格好だ。

10月6日の「バイキングMORE」の最後では、平井氏の発言についての「補足と訂正」があった。平井氏は出演していなかったが、伊藤利尋アナウンサーがその発言について、「誤った印象を与えるものになりました」と指摘。

そのうえで、正確には「学術会議の会員は推薦される方もいますが、全員が学士院の会員になるわけではありません。学術会議以外の方が学士院の方になることもあります」として、「大変失礼いたしました」と謝罪していた。