演説から「エモさ」が消えた!菅首相を安倍首相と比べてみると…

    初めての所信表明演説を行った菅義偉首相。2050年までの「温室効果ガスゼロ」や、「デジタル社会の実現」などに触れながら、規制改革に進んでいく姿勢を示した。情緒的、理念的な演説で「大きな国家観」を示すことの多かった安倍前首相との違いとは?

    菅義偉首相は10月26日午後、衆議院の本会議で初めての所信表明演説を行った。2050年までの「温室効果ガスゼロ」や、「デジタル社会の実現」などに触れながら、規制改革に進んでいく姿勢を示した。

    安倍政権との変化を指摘する声もあった。情緒的、理念的な言葉が多かった安倍前首相に対し、菅首相は個別具体的な施策への言及が多かった、というものだ。

    いったい、どのような違いがあったのか。BuzzFeed Newsは菅首相の演説と、第二次安倍政権後はじめての安倍前首相の演説を、テキストマイニングの手法で比較した。

    時事通信

    テキストマイニングとは、文章を単語レベルで分解し、「ワードクラウド」や単語の出現頻度などを分析するもの。

    分析には「ユーザーローカル」のツールを用いた。「ワードクラウド」では文章中でスコアが高い単語を複数選び出し、その値に応じた大きさで示される。

    頻出しているものが大きい、使用回数が少ないものが小さいとは限らない。品詞の種類で色分けされ青が名詞、赤が動詞、緑が形容詞、灰が感動詞を表す。

    比較対象としたのは、第二次安倍政権が発足したあと、初めてとなった安倍晋三前首相の所信表明演説。2013年1月28日、183回国会においてのものだ。

    なお、単純に文字数の比較をすると、安倍前首相は4974文字、菅首相は7301文字だった。演説時間は前者が約19分、後者が25分で、菅首相のほうが全体的に長い演説となっている。

    安倍首相は情緒的、菅首相は具体的?

    安倍前首相が首相に就いたのは、2012年12月。東日本大震災から2年弱、円高やデフレに苦しむ日本経済をどう上向きにさせていくかが大きな課題だった。

    まだ「アベノミクス」という言葉が生まれる前の演説だが、「日本銀行」「危機」「我が国」「経済」と言った言葉が目立つことから、経済最優先を掲げていることが一目瞭然だ。

    「戦後レジームの脱却」を第一次政権から説いてきた安倍前首相のキーポイントとも言える「外交」や「安全保障」も目立っている。

    実際、安倍前首相はこの後、日米同盟の強化に加え、賛否ある中での沖縄・辺野古埋め立て工事、安保法制などの整備を進めていった。

    また、「守り抜く」「取り戻す」「拓く」といった理情緒的な言葉が目立つところも安倍前首相らしさと言える。

    一方の菅首相は「新型コロナウイルス」が何よりも重要な課題であることがわかる。「安全保障」や「経済」もあるが、安倍前首相ほどは大きくない。

    「デジタル化」「改革」も大きく、さまざまな規制改革を訴え、「デジタル庁」の創設をうたう菅首相のアピールポイントであることを伺わせる。

    「進める」「講じる」「取りまとめる」など具体的な課題を解決していく姿勢を見せていることも、大きな違いだ。

    菅首相だけが使った言葉

    安倍前首相だけが使っている言葉(左)と、菅首相だけが使っている言葉(右)からも、ふたりの違いが一目瞭然だ。

    なお、安倍前首相の「働く女性」はここでは認識されておらず、それぞれの単語がまったく使われていないというわけではないことに留意が必要だ。

    まず、安倍前首相は「国家の危機の突破」を強く訴えている一方で、菅首相は「(課題解決を)早く進める」ことを訴えている。

    安倍前首相の「日本銀行」「デフレ」「富」と言った言葉からも、何よりも経済に取り組む姿勢が目立つ。

    一方の菅首相は「新型コロナウイルス 」以外について「地方」「デジタル化」「環境」「グリーン」「医療」「女性」という個別の諸課題に言及していることがわかる。

    頻出単語(左から2つめ、右から2つめ)をそれぞれ見比べると、安倍前首相は「成長」「再生」「外交」という言葉が目立っており、菅首相は「改革」「地域」「実現」などの言葉が目立つ。

    双方に共通する言葉としては「復興」「安全保障」「経済」であり、これらは両者が共通して課題意識を持っているテーマであるとわかる。

    安倍首相の演説に「少女」?

    時事通信

    安倍前首相にだけある「少女」という単語は何か。これは、演説で紹介した被災地にまつわる以下のようなエピソードで使われているものだ。

    被災地のことを想う時、私は、ある少女とその家族の物語を思い出さずにはいられません。東日本大震災で、小学校3年生だった彼女は、ひいおばあさんとお母さんを亡くしました。悲しみに暮れる家族のもとに、被災から2か月後のある日、1通の手紙が届きます。それは、2年前、少女が小学校に入学した後に、お母さんが少女に内緒で書いた「未来へ宛てた手紙」でした。

    安倍前首相の演説の最大の特徴は、こうした感動的なエピソードをフックに、国民に対してエモーショナルな呼びかけをする修辞法を用いていたことにある。

    それは時に歴史上の人物であったり、少女であったり、地域の人々であったりする。ある種の「エモさ」を強調したものでもあったといえる。

    実際、この際には以下のような言葉につながっている。漢字に当てているふりがなからも、その狙いは明らかだ。

    故郷(ふるさと)の復興は、被災地の皆さんが生きる希望を取り戻す作業です。今を懸命に生きる人々の笑顔を取り戻す。それは、その笑顔をただ願いながら天国で私たちを見守っている犠牲者の御霊(みたま)に報いる途(みち)でもあるはずです。

    一方で、菅首相にはそうした情緒的な演説はみられない。個別具体課題に言及し、期限を設け、具体的な数字などをあげていくところが大きな違いだ。

    実際、読売新聞(10月26日)によると、「歴代首相の演説で慣例となっていた歴史上の人物の言葉や故事来歴の引用は今回、見送られた」という。

    これは菅首相が「国民のために働く内閣」として、「一つ一つの仕事に真面目にこつこつ取り組む姿勢を示すことが重要だ」と指示したことに起因している、としている。

    締め方も「エモさ」に違い

    時事通信

    演説の締め方からも、「エモさ」をめぐる違いが出ている。安倍前首相の場合は以下の通りだ。

    我が国が直面する最大の危機は、日本人が自信を失ってしまったことにあります。

    今ここにある危機を突破し、未来を切り拓いていく覚悟を共に分かち合おうではありませんか。「強い日本」を創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です。

    ここでは、「戦後の焼け野原」にまつわる元首相のエピソードも引用している。震災直後という状況もあるが、「自信を失ってしまった日本人」に対し「強い日本」というやはり情緒的な理念を掲げ、「共に未来を切り拓いていこう」と鼓舞する。

    一方の菅首相は選挙中から掲げている「携帯電話の値下げ」や「自助・共助・公助そして絆」も改めて強調しながら、こう述べている。

    これまでにお約束した改革については、できるものからすぐに着手し、結果を出して、成果を実感いただきたいと思います。

    行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、規制改革を全力で進めます。「国民のために働く内閣」として改革を実現し、新しい時代を、つくり上げてまいります。

    諸悪の根源として「行政の縦割り」「既得権益」「全霊主義」があると言及し、それに対する改革を実現していく主体が「国民のために働く内閣」にあると宣言をしている。「一緒に頑張ろう」と国民を鼓舞するようなメッセージではない。

    理念的、情緒的な演説を得意としていた安倍前首相は、「大きな国家観」や「ビジョン」を提示していることが多かった。

    しかし菅首相はそうしたものを示すわけではなく、前述の通り個別具体策を掲げることに終始した。今後いかに「総合的、俯瞰的」なビジョンを示していけるか。菅首相の「政治家の覚悟」が問われている。


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