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「人生で味わったことのない恐怖」テレビで“フェイク”を流されて… DHC子会社めぐる裁判、女性が訴えた差別の被害

「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組で、「DHCテレビジョン」が制作、TOKYO MXなど複数の地方局で放送していた。問題となったのは2017年、沖縄基地問題を特集した番組。「反対運動の参加者に、のりこえねっとが日当を支払っている」「反対派が救急車を止めた」など、事実に基づかない内容が複数あり、批判が集まっていた。

化粧品大手DHCの子会社「DHCテレビジョン」の制作した番組「ニュース女子」の内容に名誉を毀損されたとして、市民団体「のりこえねっと」の辛淑玉・共同代表が同社と番組の司会者を訴えていた裁判。

控訴審の第1回口頭弁論が2月8日、東京高裁であった。在日3世である辛さんは意見陳述で、「フェイクニュース」に扇動された人々による差別被害について、「これまでの人生で味わったことのない恐怖」と訴えた。

まず、経緯を振り返る

「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組で、「DHCテレビジョン」が制作、TOKYO MXなど複数の地方局で放送していた。

問題となったのは2017年、沖縄基地問題を特集した番組。「反対運動の参加者に、のりこえねっとが日当を支払っている」「反対派が救急車を止めた」など、事実に基づかない内容が複数あり、批判が集まっていた。

出演者の発言やナレーションなどで反対派を「テロリスト」「犯罪」と表現し、「黒幕」として辛さんを名指し。「在日韓国・朝鮮人の差別に関して戦ってきた中ではカリスマ。お金がガンガンガンガン集まってくる」などの発言もあった。

番組をめぐっては、BPO(番組倫理向上機構)の2つの委員会が「重大な放送倫理違反」「名誉毀損」などと結論づけ、取材の欠如や事実確認の不足、人権や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いたとしている。

その後、辛さんはDHCテレビジョンと、番組の司会者だった元東京・中日新聞論説副主幹のジャーナリスト長谷川幸洋氏に名誉を毀損されたとして東京地裁に提訴。

昨年9月の一審判決では辛さんが「経済的支援を含め、反対運動を煽っている」とする番組内容について、「重要な部分の真実性が証明されているとは到底いえない」と結論づけた。

さらに、「取り上げられた内容は根拠として薄弱である」として、取材や裏付け調査が不十分だと指摘。DHCテレビジョンに対し、損害賠償など約550万円と謝罪文の掲載を命じたが、長谷川氏への請求と反訴はともに棄却した。

辛さん側はDHCテレビジョンには控訴しなかったが、同社は判決を不服として控訴。また、長谷川氏に関しては双方が控訴した。

「犬笛」がもたらしたもの

2月8日に東京高裁で開かれた口頭弁論では、辛さんが「私は、私たちは、3代にわたってこの社会の一員として生きています」と述べ、意見陳述した。

「地上波のテレビ番組で自分があたかも国家国民の敵として烙印を押され、吊るし上げられた時、私はこの国のメディア……いや、もっと深いところで、 この国は越えてはならない一線を越えたと感じました」

番組については、「(辛さんが)外国勢力と結託している敵性外国人だというフェイクニュースを公共の電波を使って流した」と、涙ながら裁判長に被害を訴えた。

「扇動された人たちから受けた集中的な嫌がらせは、これまでの人生で味わったことのない恐怖でした。私の民族名は敵の印とみなされ、さらに、母と母の居場所が特定され脅迫を受けた時、民族名で生きようとしたことの帰結がこれなのかと、改めて思い知らされました」

控訴審では、早稲田大の樋口直人教授(社会学)が、番組の影響で辛さんへの誹謗中傷が急増したとする意見書を提出した。ネット掲示板での差別的な書き込みや、Google検索の頻度が増えたという。

樋口教授は報告集会で、DHCの会長が在日コリアンに対する差別的な文書をサイト上に掲載した問題にも言及。「番組で辛さんに執拗に言及したのは、差別的なストーリーを提示するのが制作上の方針だった」とし、こう述べた。

「DHCテレビジョンはその後もこの問題を繰り返し取り上げることで、攻撃を誘発している。差別効果への未必の故意があったはず。在日コミュニティへの沈黙効果にもつながりかねず、控訴審で差別を認め、然るべき判決出すべき」

一審判決では、番組内容が名誉毀損に当たるとは認めたが、こうした差別の問題には触れていない。弁護団は、番組が「犬笛」となり、辛さんを「敵」として憎悪を煽る効果を生じさせたことについて、控訴審を通じて訴えていく方針だ。

辛さんも「この裁判は、一貫して差別と戦うものです。番組は私の国籍を利用し、沖縄を叩いた。どちらもベースに差別がある。人間としてやってはいけないことをやり続けている。同じことが繰り返されないためにも、尊厳をかけて闘い、公的に残していかないといけない」と語った。