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「日本人でない私を利用した犬笛」在日女性の名誉毀損、DHCテレビに550万円の賠償命令

問題となった番組は「ニュース女子」。DHCテレビジョンが制作し、TOKYO MXなど複数の地方局で放送していた。2017年に沖縄の米軍基地の反対運動について報じたが、事実に基づかない内容や侮蔑的表現が複数あり、問題視されていた。

化粧品大手DHCの子会社「DHCテレビジョン」の制作した番組「ニュース女子」の内容に名誉を毀損されたとして、市民団体「のりこえねっと」の辛淑玉・共同代表が同社と番組の司会者を訴えていた裁判。

東京地裁(大嶋洋志裁判長)は9月1日、番組で「(辛さんの)社会的評価が著しく低下し、重大な精神的損害を受けた」と名誉毀損を認め、損害賠償など550万円の支払いと謝罪広告の掲載を命じた。一方でいまも続く動画の配信差し止めと、司会者への請求、その反訴はいずれも退けた。

辛さんは同日の会見で「画期的な判決をいただいた」と一定の評価をしたが、損害賠償や一部棄却の点を不服とし、控訴する方針。また、DHCテレビ側も控訴する方針を示している。

まず、経緯を振り返る

「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組。「DHCテレビジョン」が制作し、TOKYO MXなど複数の地方局で放送していた。

問題となったのは2017年、沖縄基地問題を特集した番組。高江の米軍ヘリパッドの反対運動について報じた。

番組には事実に基づかない内容も複数あった。たとえば反対運動の参加者に「のりこえねっと」が日当を支払っているという主張や、「反対派が救急車を止めた」とした内容などだ。

さらに反対派の人たちを「テロリスト」「犯罪者」と表現したほか、「黒幕」として「のりこえねっと」共同代表で在日3世の辛さんを名指し。「在日韓国・朝鮮人の差別に関して戦ってきた中ではカリスマ。お金がガンガンガンガン集まってくる」などという発言もあった。

番組をめぐっては、BPO(番組倫理向上機構)の2つの委員会が「重大な放送倫理違反」「名誉毀損」などと結論づけ、取材の欠如や事実確認の不足、人権や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いたことなどを指摘している。

その後、辛さんはDHCテレビと、番組の司会者だった元東京・中日新聞論説副主幹のジャーナリスト長谷川幸洋氏に名誉を毀損されたとして東京地裁に提訴していた。

判決の内容は?

この日の東京地裁の判決では、「(辛さんが)危険な存在であるとの悪印象を強調する行為」に及びながら謝罪や訂正がないこと、現在も番組の公開が続いていることなどから、損害賠償の支払いと謝罪広告の掲載を命じた。

また、「日当」については、「のりこえねっと」が「反対運動の参加者に対して現金の支給をしたことを認めるに足りる証拠」はないと指摘。

「のりこえねっと」が高江に派遣した「特派員」に対し、交通費5万円を支払っていたことは「現状を発信してもらうことに主たる目的がある」「反対運動を煽る目的でされたものとは認め難い」と認定した。

反対運動についても「過激(派)」「襲撃される」「警察でも手に負えない」「テロリスト」などの表現で、「ことさらに危険性の高い暴力が直接身体に加えられる可能性を強調し、視聴者に印象付けている」とした。

そのうえで判決は、辛さんが「経済的支援を含め、反対運動を煽っている」とする番組内容について、「重要な部分の真実性が証明されているとは到底いえない」と結論づけた。

さらに、「取り上げられた内容は根拠として薄弱である」として、辛さんや「のりこえねっと」に対する取材や裏付け調査が不十分だと指摘した。

一方、現在もネット上で続く番組の公開差し止めについては、「公表直後と同等に重大な損害が発生するとはいえない」と退けた。

また、司会者である長谷川氏への請求についても、同氏が番組の企画・制作・編集に一切関与していないことなどから、退けた。同氏が辛さん側を名誉毀損で訴えていた反訴も退けた。

「私への仕打ちは、酷いものでした」

判決後に会見した辛さんは、「画期的な判決をいただいた」と述べつつ、番組を契機にさまざまな誹謗中傷にさらされたとして、次のように語った。

「この番組は私を利用して沖縄の平和運動を愚弄する、もっとも悪質なフェイクニュースでした。そして、犬笛でした。日本人ではない私が、反戦運動に声をあげること、沖縄のことに思いを馳せることを巧みに利用された。そして、そのことで2017年から受けた私への仕打ちは、酷いものでした」

「今回の判決は、番組が問題であったということを明確に示した。私への名誉毀損の部分でしか戦うことはできませんでしたが、あの番組が問われているのは、まごうことなきフェイクです。沖縄の人たちを愚弄し続けたのです。そこの部分はこれから次のステージで戦っていかなければいけない」

辛さんらは人種差別による精神的苦痛も訴えていたが、判決は「差別」については認定しなかった。

「差別を禁止する法律があれば、と感じました。1行でも良いので、これは人種差別だったと記載してほしかった。そういうものがダメなんだと活字になって出ていくことは、私たちマイノリティにとって大きな力になると思っています」

一方、DHCテレビの山田晃社長は、同日放送された同社のネット配信番組で「本社ともやりとりをすることになるが、おそらく控訴する運びになる。戦う姿勢でいきたいので、まだそういうもの(謝罪広告)は出しません」と話した。

また、長谷川氏は同じ番組で、判決について「私の名誉毀損についても棄却されているので、弁護士と相談する」とし、「このようにご判断をいただいたので、SNSで(誹謗中傷などの)発信をする人には法的責任を問うていきたい」と語った。