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DHC会長の在日コリアン差別、協定解消の自治体も。「容認できない」「社会的影響大きい」全21市町に独自調査

DHCの吉田嘉明会長がサイト上に在日コリアンに対する差別的なメッセージを繰り返し載せていた問題を受けて、「包括連携協定」を結んでいる複数の自治体が、協定の凍結や解除、または見直しを含む検討に入っていることが、BuzzFeed Newsの取材でわかった。

化粧品販売大手DHCの吉田嘉明会長が、サイト上に在日コリアンに対する差別的なメッセージを繰り返し載せていた問題。

この問題を受けて、DHCと「包括連携協定」を結んでいる複数の自治体が、協定の凍結や解除、または見直しを含む検討に入っていることが、BuzzFeed Newsの全21市町への取材でわかった。

ただし、見直しを検討しないとする自治体も多く、差別やヘイトスピーチに向き合うことが行政に求められるなか、自治体ごとの姿勢の違いが浮き彫りになっている。

まず、経緯を振り返る

吉田会長に批判が集まるきっかけとなったのは、DHC公式オンライショップに掲載された「ヤケクソくじについて」という2020年11月付のメッセージ。

自社のサプリメントについて記した内容だが、途中でライバル企業であるサントリー(ウエルネス)に言及。根拠もまったく示さずに、以下のように記している。

サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本人です。

このメッセージはTwitter上で「差別的」であることに対して批判が殺到。「#差別企業DHCの商品は買いません」というハッシュタグがトレンド入りした。

さらに今年4月2日の衆議院法務委員会で自民党の武井俊輔議員が「ヘイト企業のあり方も非常に残念」と本件を取り上げた。

この際は、上川陽子法相が「企業にはむしろ率先してヘイトスピーチを含めたあらゆる差別・偏見をなくして、人権に配慮した行動をとるということについて考えて、深く行動していくことが大事」と、否定的な答弁している。

また、こうした経緯をNHKが4月9日の「おはよう日本」で報じたところ、吉田会長は改めて「NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう」などとする声明を公開。

在日コリアンに対する根拠に基づかない差別的な表現も多く、「国境を侵して侵入している敵には即座に銃撃して追い返すのが常識であろう」などと、攻撃を扇動するようなことも記していた。

なお、吉田会長は以前にもサイト上の「会社概要」にあった「会長メッセージ」(2016年2月付)で在日コリアンを「似非日本人」などと表現し、「ヘイトスピーチ」であると批判を集めたことがある。

また、吉田会長が同様に会長を務める子会社「DHCテレビ」でも、「ニュース女子」や「真相深入り!虎ノ門ニュース」における放送内容が問題視されたことがあった。

21自治体が「包括連携協定」

DHCと「包括連携協定」を結んでいる自治体は、同社がサイト上に公開している限り、以下の21市町だ(公開順)。

《佐賀県唐津市、佐賀県みやき町、茨城県境町、北海道長沼町、岩手県二戸市、熊本県長洲町、神奈川県松田町、静岡県御殿場市、高知県宿毛市、高知県南国市、静岡県小山町、熊本県合志市、鹿児島県長島町、静岡県伊東市、茨城県守谷市、鹿児島県南九州市、宮城県石巻市、千葉県横芝光町、鹿児島県鹿屋市、茨城県行方市、茨城県下妻市》

サイト上ではその狙いについて、「DHCは健康づくりの推進や健康寿命の延伸をめざし、全国各地の自治体と連携協定を結んでいます。互いに協力関係を築くことで健康格差を縮小、さらには地域経済の活性化等をめざしています」としている。

国会でも取り上げられることになった会長発言やその後の対応などについて、連携協定を結ぶ自治体はどう捉えているのか。

BuzzFeed Newsは4月19日からこの全21市町に対し、一連の発言を受けて協定を見直すかどうか、発言への見解などを取材した。結果は以下の通りだった。


協定を凍結した(1)熊本県合志市

協定の解除手続き中(1)高知県南国市

今後検討する(4)神奈川県松田町、高知県宿毛市、鹿児島県南九州市、宮城県石巻市

見直さない、検討していない(12)佐賀県唐津市、佐賀県みやき町、北海道長沼町、岩手県二戸市、熊本県長洲町、静岡県御殿場市、静岡県小山町、静岡県伊東市、茨城県守谷市、千葉県横芝光町、茨城県行方市、茨城県下妻市

ノーコメント、回答控え(3):茨城県境町、鹿児島県鹿屋市、鹿児島県長島町


「容認できるものではない」

協定を凍結すると答えたのは、熊本県合志市。2017年8月に「市民の健康増進や地域産業の活性化」を目的とし、協定を結んだという。

そのうえで、「締結後は、具体的な取り組みは行っておらず、今般の報道を受け、包括連携協定を凍結することとし、その旨を伝えたところです」とコメントした。やりとりは口頭で進めたとしている。

また、会長の発言そのものについても、「市として人権啓発などには日頃から取り組んでおり、発言は容認できるものではない」(同市秘書政策課の担当者)と回答した。

一方、協定の解除手続きを進めていると回答したのは、高知県南国市。2017年2月に協定を締結しており、市民の健康増進や地域産業の活性化、災害対策などを目的としていたという。

会長発言については「国籍や人種、民族などを理由として差別を助長するようなことは、あってはならない」と回答。以下のように明確に批判している。

「ヘイト発言はあってはならないことであり、株式会社ディーエイチシーの同社の公式オンラインショップサイトに会長名で差別を助長する文章が掲載されていることは遺憾であります」

そのうえで、解除手続きのための書面をすでに送付したと明らかにした。

「企業の果たす責任は大きい」

一方、協定を「今後検討する」と回答した4市町の詳細は以下の通り。(1)はその理由。(2)は発言への見解。


神奈川県松田町

(1)今後のDHC社の対応や他自治体の判断を参考に検討する。

(2)当町としてコメントする立場にない。

●高知県宿毛市

(1)今後、見直しの必要性等も踏まえ情報確認を進めてまいります。

(2)会長個人の見解か又は企業としての見解か、現時点での情報では判断できませんが、大手企業の公式サイト上の発言であり、社会的影響は大きいと考えます。人権尊重の重要性を正しく認識し、差別のない人権が尊重される社会づくりの取り組みは重要であり、企業の果たす責任は大きいものであると考えております。

●鹿児島県南九州市

(1)今後の吉田会長の発言や企業の見解等を注視し、本市に何らかの影響が及ぶことが予想される場合には、 包括連携協定の見直しを含めて検討していきたいと考えております。

(2)差別的な表現が含まれたメッセージと考えられる。

宮城県石巻市

(1)把握しておりませんでしたので、事実確認を行った上で、今後の対応を検討することとします。


「発言の真意を…」という自治体も

今回の調査で、会長の発言について、報道などで把握していたのは14市町と、全体の6割以上を占めていたことが明らかになった。

協定を「見直さない、検討していない」と回答した12市町では、発言を把握していたのは10市町にのぼる。

しかし、ほとんどは会長の発言についての見解を問うた設問に「回答を控える」「回答する立場にない」「吉田会長個人のお考えによるご発言」などと答えるにとどまった。

そのなかで唯一、静岡県御殿場市は「現段階で特段コメントすることはないが、差別とも捉えられるような発言は控えてほしい」と回答している。

それでも協定を見直さない理由については、「DHCは協定の内容についてしっかり対応してくれている」としており、「今後、機会があれば発言の真意を確認してみたい」とも述べた。

なお、今年2月に市長が会見で「今後ひどくなるようであれば、連携協定を外していかなければならない」と語っていたと報じられている茨城県行方市は、「見直す予定はありません」と回答。

見解についても、「市として見解を述べることは差し控えさせていただきます」としている。

「今回の件とは無関係」

そのほか、北海道長沼町は発言を把握はしていなかったものの、「報道が事実であれば、残念です」とコメント。

協定を見直さない理由については、「一連の報道が事実であっても、本町との連携事業への影響は少ないと考えているからです」とした。

また、千葉県横芝光町は見直しをしない理由として、「協定の内容に災害時における町内避難者の健康維持の支援などの内容があるため」と回答した。

発言への見解は控えながら、「今回の会長メッセージと包括連携において定める取組については、直接的にリンクするものではないと考えている」(静岡県伊東市)と回答した自治体もあった。

なお、すべての項目に「ノーコメント」と回答した茨城県境町は、こうもコメントしている。

「会長個人の発言であり、DHCとの連携協定では、町民に有益な事業を実施しており、今回の件とは無関係のため。ただ、あらゆるヘイトスピーチに対しては、 町としてあらゆる差別等をなくす立場であるということは、大前提である、と考えています」

ヘイト対策、地方自治体の責務は

2016年に施行された「ヘイトスピーチ対策法」では、地方自治体に対しても「当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする」と責務を定めている。

具体的には、相談体制の整備や教育活動の実施、さらに「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性について、住民に周知し、その理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動を実施」ともされている。

また、法務省人権擁護局もサイト上の「ヘイトスピーチ解消法施行から4年」という文書で「いまだにヘイトスピーチがなくなったといえる状況にはなっていません」と強調。

「ヘイトスピーチをなくすためには、社会全体の人権意識を高め、そのような言動が許されないのだという意識が広く深く社会に浸透することが大事だと思います」として、関係機関や地方自治体との連携を強調している。

ただし、人権擁護局の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対し、今回の包括連携協定については「地方自治の観点から、求められるべき具体的対応についてはコメントできない」と回答するにとどまった。

なお、BuzzFeed Newsは4月9日の段階で、会長のこれまでの差別発言や上川法務相が国会で答弁した内容(前述)についての見解などをDHCに質問。また4月28日には、連携協定に関する一部自治体の動きについて、追加で問い合わせた。

DHC側は、4月9日の質問については、「現在折込チラシを作成しております」とコメント。配布は5月24〜26日を予定しているというが、折込先の媒体や地域については「回答致しかねます」としている。

また、4月28日の追加質問に対しては、「質問に回答するかどうかを含めて社内で検討のうえ、返答します」としている。いずれも、回答があり次第、追記する。

UPDATE

複数の自治体がDHCとの包括連携協定の見直しや凍結などの動きをしていることに対し、DHC広報部は5月7日、「協定に関する動きにつきましては自治体が決めたことですので当社からのコメントはございません」と回答した。



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