自民党「影の幹事長」がDappiへの関与を否定。群馬の村で見えた“親族のつながり”とは【2021年回顧】

    「Dappi」の投稿の発信元の回線契約者であると判明した、東京都内のWEB制作会社。自民党都連などとの取引が確認されていたこの会社をめぐり、さまざまなつながりが明らかになってきた。【2021年回顧】

    2021年にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:11月15日)


    Twitter上で野党批判を繰り返し、不正確な情報や誹謗中傷が指摘されていたアカウント「Dappi」の投稿の発信元の回線契約者が、東京都内のWEB制作会社だった問題。

    この会社の社長が、「自民党の金庫番」「影の幹事長」の異名を持つ党本部事務方トップ・元宿仁氏の親族であることが、新たに明らかになった。

    岸田文雄首相らがかつて代表取締役を務めていた集金代行会社と、会社の取引も判明。BuzzFeed Newsは元宿氏の出身地である群馬県での取材などを通じて、そのつながりを追った。

    東京都内から車で2時間ほど。群馬県内のとある村に、周辺の住宅とは少し雰囲気の異なる、モダンなたたずまいの一軒家が建っている。

    近隣住民の間で「でっかい立派な家」「窓がなくて不思議な家」ともささやかれる建物の持ち主は、東京都内にあるWEB制作会社の社長。

    この会社は、「Dappi」による投稿の発信元の回線契約者とされ、関与が取り沙汰されている。

    社長は、この村出身で自民党の事務方トップにまで上り詰めた元宿氏の親族にあたる。この家の建つ土地も、ふたりの親族のもの。車を少し走らせたところには、元宿氏の生家がある。

    ふたりを知る近隣の男性は言う。

    「仁くん、自民党であんなに偉くなってね。この辺じゃ知らない人はいない。その親戚のAくん(※社長)もよく知っているよ。すごい家を建てたよね」

    近くに住む女性も「仁くんは地元が好きで、自民党の仕事が忙しいなかでも村に帰ってきている。つい最近も重鎮を連れてきて、村長や老人会の役員が集まったんです」と教えてくれた。

    この女性の言う通り、元宿氏は昨年、当時の二階俊博幹事長や林幹雄幹事長代理とともに故郷を訪れている。村内で配られたカレンダーにも、その時の写真が掲載されていた。

    「影の幹事長」とは何者か

    自著の著者略歴などによると、元宿氏は1945年生まれ。68年に自民党本部の事務局員となり、経理部長、事務局長を経て事務総長に就任した。

    自民党が下野した2009年の政権交代の翌年に退職したが、その後首相に再登板した安倍晋三氏が「呼び戻した」(山本一太・現群馬県知事)という。

    「自民党の金庫番」「影の幹事長」とも呼ばれる実力者。「党の政治資金とその流れの裏の裏を知り尽くしている」(元日本テレビ政治部長・菱山郁朗氏)とも評される。

    共同通信によると、公明党の支持母体・創価学会ともパイプを持ち、選挙対策を含めた助言役として歴代総裁や幹事長らに重用されてきたという。日本歯科医師連盟によるヤミ献金事件で捜査対象となり、裁判で証言したこともある。

    「知りすぎていますから。だから裏話は一切話さない」「墓場まで持っていきますよ」

    13年前の毎日新聞のインタビューに、そう答えた元宿氏。自身の半生を描いた『山里のガキ大将―上州の山河とわが半生記』には、以下のように綴っている。

    《伯父は「いくら貧しくても単純な左翼的なマルクスボーイになってはいけない」と忠告してくれました。人生には奥深いものがあり、左翼的な正義感では律し切れないものがあるというのです。現在の私の立場で考える時、伯父の社会観は身にしみるものがありました》

    《壮年になってからは、一貫して政党本部の職員として「正義」の何たるかを現場で学びました。毀誉褒貶、権謀術数の渦巻く政治の世界にあって、四十年近く、もちろん裏方ではありますが、この国の舵取りを懸命に支えてきました》

    「Dappi」と会社の関係は

    「Dappi」についても改めておさらいしておこう。フォロワー数17万人以上と、拡散力の大きいTwitterアカウントで、プロフィールには「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです。国会中継を見てます」とある。

    2015年からツイートを始め、凍結を経て新たにアカウントをつくり直している。投稿は平日の朝9時ごろから午後9時ごろまでが中心で、土日の投稿はほぼないという特徴がある。

    主に野党やマスコミ批判の文脈から、国会答弁を編集した動画や、DHCテレビ「虎ノ門ニュース」の動画、インフォグラフなどを公開。その発信内容には不正確な点や誹謗中傷と批判されるものもあり、問題視されてきた。

    6年にわたり投稿が続いていたが、その更新は、菅首相の退陣と同時に止まっている。

    このアカウントによるツイートの発信元の回線契約者であると判明したのが、先述のWEB制作会社だ。

    立憲民主党の小西洋之・参議院議員と杉尾秀哉・参議院議員は「Dappi」の発信者情報開示請求を経て、名誉毀損で損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こしている。

    朝日新聞によると、両議員は投稿が平日に集中していることなどから、「投稿したのは同社役員か従業員、業務を委託された者であると推認される」と訴えている。

    一方、開示を求める過程でプロバイダー側が出した書面では、「投稿者代理人」の弁護士の名前で「情報は契約者ではなく、投稿者が発信した」と主張しているという。

    法人登記によれば、同社はサイトの制作やコンサルティング業務、インターネット広告の運営管理業務などを担っている。

    民間の信用調査機関によると、得意先の一つは「自由民主党」。政治資金収支報告書からも、同社が自民党都連や小渕優子・衆院議員(群馬5区)の資金管理団体、すでに解散した党支部との間で、サイトや資料制作などの取引をしていたことが裏付けられた。

    小渕氏側はWEB制作会社について、「以前事務所にいたスタッフが知り合いに紹介してもらった業者だったと聞いている」と説明。サイトメンテナンスなどを発注していると認めつつ、「Dappi」との関わりについては「ご質問のアカウントは全く知りません」と否定した。自民党都連は取材に回答していない。

    「りそな銀行衆議院支店」の謎

    WEB制作会社の社長が、群馬県内の村に住宅を新築したのは2017年のこと。

    登記簿によると、ローンを契約しているのは「りそな銀行衆議院支店」だ。だが、この支店は衆議院第一議員会館にあるため、一般人の利用は難しい。

    民間の信用調査機関によると、同支店とは、社長個人だけでなくWEB制作会社としても取引がある。登記簿によると元宿氏も東京都内の自宅を担保に、同支店から借り入れていたことがある。

    りそな銀行の広報担当者は取材に対し、「国会議員や関係者向けの支店で、一般の方の利用はできません。口座開設や住宅ローンの契約、法人としての取引などの際には、ご本人や代表者の顔写真付きの国会通行証を確認させていただいています」と話した。

    では、「顔写真付きの国会通行証」の発行条件は何か。衆議院と参議院の警務部によると、発行できるのは、議員秘書や運転手、政党事務員、公務員、記者、出入り業者らに限られる。

    「議員や政党と取引のある会社の関係者として取得することはできるのか」と尋ねると、両院警務部は「できない」と口を揃えた。

    ただし、発行する方法がないわけではない。「私設秘書」や「私設事務員」用の通行証を、議員側が申請すればいいのだ。

    両院事務局が議員向けに発行している「ガイドライン」や「しおり」によると、発行には顔写真が必要だ。通行証の種類によって、履歴書が求められるものや、議員ごとに枚数が制限されているものもある。

    参院警務部は「ヒアリングをして、恒常的な出入りを確認する」というが、過去には、議員が秘書ではない人物を「私設秘書」として通行証を申請。税理士コンサルタント会社役員に「貸与」して問題になったこともある。

    そうしたケースが与野党関わらず横行しているとの指摘もある。とはいえ、まったくの無関係で発行することは難しい。社長が議員や秘書、国会関係者らと何らかのパイプを持っている可能性は否定できない。

    見えてきた別のつながり

    自民党とWEB制作会社の間には、さらに別のつながりもある。

    民間の信用調査機関によると、WEB制作会社は東京都千代田区に本社を置く集金代行会社とも取引があった。

    この集金会社の過去の代表取締役には、岸田文雄首相のほか、甘利明前幹事長、福田康夫元首相ら自民党の重鎮たちがそろって名を連ねる。

    最新の登記簿上の代表取締役も、党財務委員長や農水相を歴任した山本有二衆院議員だ。また、元宿氏も1998年から2010年にかけて、取締役を務めている。

    政治資金収支報告書によれば、自民党本部は2017〜19年の3年間に、集金代行会社に対して「負担金」として、計1億2209万円を支払っている。

    自民党からこの会社への資金の流れに関しては、2008年にも国会で取り沙汰されたことがある。毎日新聞の報道を受けたもので、当時首相だった福田氏は自らが代表取締役を務めた経緯について、こう答弁している。

    《充て職なんです、これは。ですから、経理局長、財務委員長が充て職として、社外の取締役的な立場で、非常勤かつ無報酬の取締役に就任するというのが慣例になっている》

    質問をした野党議員は「全くのブラックボックスで、ほかの使途に流用されているんじゃないか」などと批判したが、この問題がその後、国会で取り上げられた形跡はない。

    同社はBuzzFeed Newsの取材に「自民党の党友で組織する自由国民会議の事務や会費引落としの代行業務を受託していることから、自民党関係者が宛職(*原文ママ)で無報酬・非常勤で役員に就任しています」と説明した。

    WEB制作会社については、「口座振替のシステム開発やメンテナンスの一部をご質問の会社に委託している」と取引があることを認めたものの、「Dappi」アカウントとの関わりは以下のように明確に否定した。

    《ご質問のツイッターアカウントにかかることは全く存じ上げませんし、弊社がご質問の会社にツイッターの発信を委託している事実も全くありません》

    《ご質問の内容を拝見しますと、あたかも弊社がご質問のアカウントの投稿に関係しているのではないかとの予断を持たれるのではないかと懸念しています。弊社には、そのほかにも多数の顧客があり、憶測に基づく記事を掲載されますと営業に不当な影響が出かねません。くれぐれも根拠のない憶測記事などを掲載されることのないようお願いいたします》

    自民党本部の回答は

    BuzzFeed Newsは元宿氏に直接取材を申し込んだが、「お宅もいろいろ書いてるけど、僕は本当によくわかんない」と述べた。

    WEB制作会社や社長との関係性を尋ねると、「(党本部に)質問状送ってください」と話して立ち去った。

    その後、自民党本部にも書面で取材を申し込み、主に以下の点を質問した。


    • 元宿氏や自民党と、WEB制作会社との関係性
    • WEB制作会社社長の「りそな銀行衆議院支店」での口座開設、国会通行証の発行などにあたって便宜を図ったことはないか?
    • 自民党都連や小渕議員の資金管理団体からWEB制作会社への発注の経緯
    • 元宿氏や自民党と、集金代行会社との関係性

    回答の全文は、次の通り。

    《事務総長も含め党本部は、ご質問のツィッター(*原文ママ)について存じ上げません。

    また、党本部はご質問の会社と取引はございません。

    事務総長は他の支部や団体に紹介したり、仲介した事実はありません。

    なお、りそな銀行衆議院支店の口座開設につきましては、必ずしも国会通行証の提示が必須でないと銀行から聞いています。

    集金代行会社(※回答では正式名称)につきましては、自由国民会議(党友)の事務代行や会費引き落としの業務を、党本部が委託しています。その関係から、充て職・無報酬で複数名が、同社の取締役に就任してきました》

    「従来より、党の事務局個人に対する個別の取材はお受けしておりません」とも説明。

    元宿氏とWEB制作会社社長との親戚関係についての質問には、一切回答がなかった。

    一方、BuzzFeed NewsはWEB制作会社側にも、自民党との関わりや、「Dappi」アカウントへの関与の有無などについて、サイトのフォームを通じて質問を送付した。同社から10月13日までにあった返答は以下の通りだ。

    《お問い合わせの件につきましては、国会議員が弊社を提訴したと聞きました。訴状を見ていないのでコメントのしようもなく回答は差し控えさせていただきます》

    さらに11月5日、改めて元宿氏との関係性などについてフォームやFAXなどで問い合わせた。12日に改めて連絡したが、15日までに回答はなかった。