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立憲民主党から資金提供うけたネットメディア「CLP」調査報告書で明かされた“資金提供のスキーム”とは

CLPは2020年3月からクラウドファンディングで運営資金をまかなえるようになるまでの間、立憲民主党から「番組制作費」の名目で広告代理店や制作会社を通じて約1500万円を受け取り、多い時には毎月20本以上の映像制作を行ったという。調査報告書で明かされた経緯とは。

SNSやYoutubeなどインターネット上で動画配信などの活動を続けている「Choose Life Project」(CLP)が一時、立憲民主党から「支援」として資金提供を受けていた問題。

「CLP」は7月28日、外部専門家による調査報告書を公表し、共同代表は「公党からの資金提供に際し議論を行わなかった事は、倫理上の問題がありました」とコメントした。

いったいどのような経緯で、「公共のメディア」をうたう団体が、なぜ政党から資金を受けていたのか。報告書に記されていた内容をまとめた。

まず、経緯を振り返る

ホームページなどによると、Choose Life Projectは2016年から「テレビの報道番組や映画、ドキュメンタリーを制作している有志で始めたプロジェクト」。Twitterのフォロワー、Youtubeチャンネルの登録者数ともに、6万を超えていた。

時の政権への批判や、貧困と社会保障の問題、外国人の人権問題などを重点的に扱う、いわゆるリベラルな内容が中心のメディアだ。理念として重視するのは「公共性」で、自らを「公共のメディア」と位置づけていた。

津田大介さんや小島慶子さんら出演者が今年1月5日に連名で発表した抗議文では、CLPは2020年春から約半年間、広告会社や制作会社を経由するかたちで立憲民主党から「番組制作費」として資金提供を受けていたことが「私たちの調査で確認された」とした。

これを受け、CLPの佐治洋・共同代表が声明を出して経緯を説明。2020年3月からクラウドファンディングで運営資金をまかなえるようになるまでの間、立憲民主党から「番組制作費」の名目で広告代理店や制作会社を通じて約1500万円を受け取り、多い時には毎月20本以上の映像制作を行ったという。

佐治氏は共同代表からの辞意を表明。今後、「本件の問題点を総括することを目的として、外部の専門家(弁護士や研究者など)に報告書の作成を依頼する」としていた。

立憲民主党の福山哲郎・前幹事長も報道各社にコメントを発表。「フェイクニュースに対抗するメディアの理念に共感したため、広告代理店と制作会社を通じて番組制作を支援した」などと説明。立憲側の番組内容への関与については、双方ともに否定していた。

一方、立憲側は1月12日に調査結果を公表。支出は旧立憲民主党で決定された、福山氏による「幹事長判断」だったとしつつ、特定メディアへの支援の適切さに関する議論があることや、公表していないことで疑念を持たれることなどから、「違法ではないものの公党として適切ではなかった」としていた。

代表から福山氏に持ちかけ

今回、問題発覚から半年かけて公表されたのは、CLPにも出演経験のあるジャーナリストの浜⽥敬⼦さん、弁護⼠の⾺奈⽊厳太郎さんが作成した調査報告書

CLPの立ち上げに関わった佐治氏、共同代表の工藤剛史氏、A氏の3人と福山氏、関係する制作会社「GENAU」の中原大弐代表の5人に聞き取りを実施し、6月8日付で作成されたものだ。

報告書によると、もともと番組制作会社に勤め、互いに知り合いだった3人は、立ち上げたCLPについて「メディア」としてではなく、「休⽇を利⽤しての⼀種の活動として認識」していたとしている。

当初は費⽤は自腹で、「GENAU」スタッフのボランティアなどにも頼っていたが、配信が本格化するなかで資金協力先やスポンサーを探すに至り、佐治⽒は2020年4月、「以前から知⼰を得ていた」福山氏と面会。資金提供について話をしたという。なお、面会について、佐治氏はヒアリングにこう述べている。

「GENAUが⽴憲⺠主党の広報的な業務を受託していた関係で、スタッフが⽴憲事務局に打診してくれた」

一方、福山氏は「CLPが⾃⼒で資⾦調達できるようになるまでの間のイニシャルコストを負担する」という認識で承諾。その背景については、調査報告書に以下のように記されている。

福⼭⽒は、フェイクニュースが多く流通し、地上波から政治番組がなくなってきている状況に危機感を覚えており、佐治⽒の問題意識に共感したこと、⽴憲⺠主党のSNS対策の⼀環にもなること、より⼤きくは「⺠主主義の装置」としてもそうした取り組みは⼤事だとの考えから、資⾦提供の話を承諾した。

佐治氏はこの点をほかの2人にも共有したが、「業務が多忙な時期でもあったことから、コミュニケーションとしては必ずしも充分な状況ではなかった」「特段の異論は出されなかった」という。工藤氏は、当時の認識についてこう述べている。

「番組制作にかかる費⽤を⾃弁しなくてよくなることや、佐治⽒の収⼊確保について⽬途が⽴ったことを意味するので、喜んだが、⾃分⾃⾝にとっての収⼊になるわけではなく、本業の番組制作などに追われていたこともあって、政党から資⾦提供を受けることの意味について、深く考えることはなかった」

なお、3人および福山氏はいずれも資金提供の番組内容への影響を否定しているという。

資金提供のスキームは?

資金提供のスキームは、⽴憲⺠主党から博報堂、さらに制作会社「GENAU」を介するものだった。

そもそも「GENAU」の中原代表と佐治氏は友人で、仕事上の関わりもあり、ほかの2氏もスタッフに知り合いがいた。こうしたことから同社スタッフが立ち上げ当初はCLPの配信をボランティアで担当。その後も同社が技術的なサポートを担っていたという。

このスキームは「⽴憲⺠主党の事務局、同党の顧問弁護⼠、GENAU、佐治⽒らが中⼼となって具体化された」もの。採用された理由として、調査報告書では福山氏と中原氏、佐治氏の以下のコメントをまとめている。

福⼭⽒「党のSNS やインターネット対策、メディアへの出稿などは、全て通すようになっている」

中原⽒「当時、CLPは法⼈化しておらず、個⼈との取引は難しいため、GENAUを窓⼝にすることになった」

佐治⽒「資⾦提供の話がまとまった時点では、CLPはCLPとしての⼝座ももっておらず、GENAUに受け⽫を頼んだ」

なお、このスキームにおいて、「GENAU」は⼀定額を配信料や事務所使⽤料として受け取る形となったという。中原氏は「トンネル会社や架空取引のようなことはできない」ためとヒアリングに説明。佐治氏は「映像業界としてはありえないぐらいの低価格で引き受けてくれて、相当⾚字だったと思う」と述べている。

スキームが動き出した結果、⽴憲⺠主党からCLPに提供された資⾦の総額は約1500万円。CLPの2020年3〜8月分の番組制作費となった。

この中から技術料や出演者への謝礼、共同代表の報酬(佐治⽒が4〜9⽉までに計約300万円強、⼯藤⽒及びA⽒が6〜9⽉までに計約40万円)などが支払われたという。

この間CLPは法人化した。8月に口座を開設してからは「GENAU」を介さず、博報堂からCLPに直接支払われるようになったとしている。CLPとして受領した額は、8〜9⽉までの3回、計約418万円という。

CLPは7月から、クラウドファンディングを開始し、「公共メディア」を名乗ることになったことから立憲民主党側の資金提供を止め、10月から、4314人から集まった資金約2663万円(手数料控除後)をもとに運営を開始した。

なお、クラファン時には「これまで⼿弁当で運営してきた」という表現が⽤いられたほか、佐治氏は6⽉ごろのラジオ番組でも「⼿弁当でやっている」と答えていたという。ただし上述の通り、9月までは立憲民主党から資金を受け取っていたため、この表現は事実と異なっていたと言える。

「職業上の倫理観を完全に欠如していた」

佐治氏はヒアリングに対し、「テレビをやっていたのでスポンサーを探すという感覚で、特定の政党からだけでなく、⾃⺠から共産まで全党出してくれたらという意識があり、紹介者がいたら⾃⺠党にも会いに⾏っていたと思う」とも述べている。

調査報告書では、こうした点も含め、立ち上げに携わった3人が、政党から資金提供を受けた背景について情報開示をする必要性や説明責任を有するという認識がなかったと指摘。

「政党から資⾦を提供されることについて、何らの緊張感も有していなかった」「何らの問題意識も抱かなかったというのは、お粗末としか⾔いようがなく、その不明について同情の余地はない」などと、以下のように厳しく断じている。

番組制作会社に在職し、報道番組を制作してきた経験を有していることからしても、政党とのあるべき距離感について、問題意識を有しておくべきであった。そうしたことからすれば、⽴憲⺠主党から資⾦を提供されて良いか否かは、イロハのイといってもいいほど基本的な問題であり、この点について、3⽒において⼀貫して問題意識がなかったというのは、報道にかかわる者が本来有すべき職業上の倫理観を完全に⽋如していたと⾔わざるを得ない。

また、「手弁当」という表現を用いていたことについて、佐治氏は「事実と異なる説明になっているのでは」との指摘に、以下のように釈明したという。

「嘘をついているという感覚ではなく、⼿弁当的な状況にあることを伝えたかっただけだが、実際には⽴憲⺠主党から資⾦が提供されていたことからすれば、適切な表現ではなかった」

調査報告書ではこうした点について、「積極的に秘匿しようとしていたとの意識も、出演者や視聴者にことさら事実と異なる説明しようとする意図は感じられ」ないとしながら、3人の認識の欠如を批判。視聴者、出演者や支援者への背信でもあるとし、「その⽋如こそが最⼤の問題」と断じた。

また、CLPが組織化や外部チェック体制を構築していなかった点にも「判断や決定について、多⾓的な検討を⾏う余裕がなかった」として、問題の原因があると指摘している。

「多くの方の信頼に背く行為だった」

また、調査報告書ではクラファンの支援者ついて、「⽴憲⺠主党から資⾦を提供されていた事実を知らないのであり、知っていたならば異なった判断をした可能性もある」と指摘。

「返⾦を希望する者に対して、受領した⾦員の全部または⼀部の返還を⾏うのが、責任の履⾏としてより適当」とした。また、その後始まったマンスリーサポーター制度の参加者にも説明が不可欠とした。

また、現在も代表を務めている2人(佐治氏は本件の対応後に辞任すると表明)について、「役員として、株主として、それぞれの責任の重さに従った⾏動が求められる」とした。

一方、CLP代表の佐治氏と工藤氏は報告書を受け、「調査報告書で指摘された発生原
因と責任における提言を真摯に受け止め、今後支援者の皆さまと向き合い、これからの取組みを検討して参ります」と改めて謝罪。

「本報告書でのご指摘の通り、私たちが起こした問題は大変不誠実であり、その前提に、致命的な認識の欠如があったと重く受け止めております」とし、以下のようにコメントした。

「(3人が)テレビ報道の現場を経験している身でありながら、公党からの資金提供に際し議論を行わなかった事は、倫理上の問題がありました。運営や番組制作において、そのような非常に重要な課題を前にして、その議論をしないという判断の甘さ、緊張感の欠如がありました」

「公党からの資金提供の事実を、視聴者の皆さまや出演者、協力者の皆さまに伝える判断に至らなかった事、また、クラウドファンディングやサポーターとしてのご寄付を呼びかける際にその事実を開示しなかった事は、多くの方の信頼に背く行為だったと思います」

そのうえで、今後については、▽クラウドファンディング支援者、希望者への全額返金▽支援者への意見交換会の実施▽その意見を受けた活動の継続・解散に関する判断ーーをしていく方針を示した。

問題発覚を受けて非公開としていたアーカイブは、出演者から希望がない場合順次再公開するとしている。

また、本件調査に伴い、CLPの決算報告書を公認会計⼠が確認したところ、①2021年6⽉期に約30万円の売上計上漏れ②法⼈設⽴前の収⼊約79万円の過⼤計上 ③同期における費用約66万円の計上漏れーーが指摘された。所得や税額は適正に計算されているといい、CLPは今後必要な対応を取るという。

UPDATE

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