法務省入国管理局が失踪した外国人技能実習生から状況などを聞き取りした「聴取票」に書かれた内容が、国会で議論の的になっている。
賃金の安さや労働環境の劣悪さなどが、事細かに記されているからだ。ただ、聴取票そのものは非公開のため、野党議員が手分けをして書き写している状況だという。
入管法の改正が注目されているなか、いったい、なぜそのような資料が公開されていないのだろうか。
まず、経緯を振り返る

政府・与党が今国会での改正を目指す、入国管理法。山積する問題点ゆえに野党側はより慎重な議論を求めているが、11月27日に衆議院を通過した。
議論は多岐にわたるが、なかでも注目されているのが「外国人技能実習制度」だ。
「途上国に技能を伝えるための実習」という建前がある制度だが、実態としては、低賃金労働の供給源になっているという批判も大きい。
技能実習生を巡っては、すでに低賃金や虐待などが理由で職場から逃亡する例が相次いでおり、2017年に7000人を超えた。
聴取票をもとにした東京新聞の集計では、実習生は受け取っていた時給で最も多かったのは、500円台だったという。週100時間を超える労働を強いられている人もいたという。
こうした実態が改善されていないうえで、外国人労働者の受け入れ拡大を巡り、論戦が続いている。
2870人分を手書きで…

聴取票は、入国管理局が2017年に失踪経験のある実習生2870人にヒアリングをした結果をまとめたもの。
政府・与党がともに「閲覧」だけを認め、コピーを禁止しているのが現状で、野党議員が手分けして2870人分を「書き写す」作業に追われているという。
1人あたり1枚あるが、手書きでの書き写しには多大な時間がかかる。野党側はコピーを認めるよう政府・与党に求めているが、応じていない。
立憲民主党の尾辻かな子衆議院議員は、11月26日にこうツイート。「複写不可」であることを批判した。
今日は失踪技能実習生の聴取票の書き写し。なぜか今日は各党5人まで書き写しが可能になった。1時間で10数枚。2870人分の書き写しが終わるのはいつになるのか。国会の附帯決議によって実施された調査がなぜ複写不可なのか。そんな間にも審議が進められている。こんな状態で明日の採決など認められない。 https://t.co/kiHHWCToP9
公表の予定はなし
技能実習生が置かれている実態を知るために重要な聴取票は、いったいなぜ公表されていないのか。
入国管理局の技能実習担当者は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。
「聴取票は、入国管理局として実習先から失踪する原因について、検討するために取り始めているもの。行政の側からそのものを公開するという予定は現時点ではありません」
そもそも非公開だった聴取票の「閲覧」が認められるようになった経緯には、入国管理局側の不手際がある。
入国管理局は当初、調査票に基づき、失踪動機で最も多かったのは「より高い賃金を求めて」で87%だったなどと説明していた。
しかしその後、本当の最多は「低賃金」で67%を占めていたことが判明。調査のずさんさが浮き彫りとなり、野党側の要望を受ける形で、聴取票原本の「閲覧」が認められることになったのだ。
そのうえで、担当者はこうも説明する。
「プライバシーの観点からも、フルオープンにはできません。ただ、国会側の強い要望を受けて、それに応じている形になります」
「信用できるかわからない」

実際、山下貴司法相も国会で「公表を前提に聴取されたものではない」「(実習生が)刑事訴追の可能性がありうる」などという理由を示している。
現在は、個人情報をマスキングしたうえで閲覧に応じているという。ただ、そのうえで、議員による書き写しや、その内容の公開への「懸念」も示した。
「聴取票は、技能実習生の方から任意でボランティアベースで聞き取ったもの。使い方についても伝えていないため、公開されてしまうと、今後別の実習生が聞き取りに応じてくれなくなる可能性があります」
さらに「見る人が誤解してしまうかもしれない」ともいう。担当者はこうも言い切った。
「そもそも聴取票は、どういう理由で失踪するのか、という参考資料です。情報の端緒にすぎません」
「本人が言いっ放しの資料で、本当にそうなのかという裏どりをしているわけでもない。そのままのことがどこまで信用できるかもわからず、内容的にも積極的に公開するには当たりません」
UPDATE
法相の発言部分を一部修正しました。