公安調査庁「誤情報が拡散」ウクライナ・アゾフ連隊めぐる記述を削除、ロシア側は反発

    アゾフ連隊はウクライナ東部ドンバス地方で、親ロシア派(分離派)に占領される過程で生まれた民兵組織がルーツ。公安調査庁の記載は、駐日ロシア大使館もTwitterで「公安調査庁がネオナチと認定」と引用するなど、日本国内において、ロシア側の主張を補強するものとして広がりを見せていた。

    ウクライナの準軍事組織「アゾフ連隊」(大隊)について、「ネオナチ」と記載していた公安調査庁が、「国際テロリズム要覧」から該当部分を削除した。サイト上で明らかにした。

    同隊はロシア側が「ネオナチ」と批判し、ウクライナの侵略の正当化に用いられてきた。駐日ロシア大使館も「公安調査庁がネオナチと認定」などと発信するなど、同庁の見解として広がりを見せていた。

    同庁側は記述が「独自の評価を加えたもの」ではないとし、「事実と異なる」「誤った情報が拡散されている」などとしている。

    アゾフ連隊はウクライナ東部ドンバス地方で、親ロシア派(分離派)に占領される過程で生まれた民兵組織がルーツ。

    もともとは「アゾフ大隊」だったが、2014年に内務省の国家親衛隊に統合され、正式な国家組織の一部となった。激戦地となった南東部マリウポリなどの戦線で防衛にあたっている。

    結成当初は極右、国家主義的で、白人至上主義やネオナチの傾向があったとされていることから、ロシア・プーチン政権が掲げた「ウクライナの非ナチ化」というウクライナ侵略を正当化する口実に用いられている。

    民間人の避難先だった劇場がロシア軍に攻撃された事件をめぐっては、「アゾフによる攻撃」という偽情報も流された。残虐行為を行なっているなどとする言説も繰り返し発信されており、「情報戦」のターゲットとなっている。

    一方、国家親衛隊への統合後には当初のメンバーが離れるなど極右的な傾向は薄れているともされており、ウクライナ側はロシアの主張に反発している。

    アゾフ大隊は米CNNの取材に、同隊がユダヤ系も含む様々なルーツを持つ人で構成されているとして、「我々が白人のレイシズムやナチズムといった思想で結びついていると考えるのはばかげている」と答えている。

    なぜ、公安調査庁は削除したのか?

    こうした背景を持つアゾフ連隊をめぐり、公安調査庁が毎年発行している『国際テロリズム要覧』(2021年)には、以下のような記載があった。

    2014年,ウクライナの親ロシア派武装勢力が,東部・ドンバスの占領を開始したことを受け,「ウクライナの愛国者」を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した。同部隊は,欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ,同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2,000人とされる。

    この記述はロシアのウクライナ侵略後、たびたびSNSなどで拡散。駐日ロシア大使館もTwitterで「公安調査庁がネオナチと認定」と引用するなど、日本国内において、ロシア側の主張を補強するものとして広がりを見せていた。

    これに対し、公安調査庁は4月8日、サイトを更新。同庁がアゾフ連隊を「ネオナチ組織」と認めているという情報については、「事実と異なる」「誤った情報が拡散されている」と言及。該当部分の記述を削除したと明らかにした。

    「国際テロリズム要覧」は、内外の各種報道、研究機関等が公表する報告書等から収集した公開情報を取りまとめたものであって、公安調査庁の独自の評価を加えたものではなく、当該記載についても、公安調査庁が「アゾフ大隊」をネオナチ組織と認めたものではありません。

    つまり、もともとあった記述は報道などの公開情報をまとめたものに過ぎず、同庁の見解を意味しない、ということだ。

    ロシア側は反発

    ロシア側は、同庁の削除に反応。大使館はTwitterやFacebookなどで「日本はナチズム復権への道を歩みだした」「日本は国家としてロシア嫌悪の列に並んだ」などと強く反発している。

    BuzzFeed Newsは公安調査庁広報室に対し、削除の詳細な経緯、および追加の調査をしたのか、アゾフ連隊に関して現状はどのような見解を持っているのかーーの3点について取材を申し入れた。

    広報室は「ホームページに書いてあること以上の回答は難しい」とだけ、コメントした。