オウム真理教をめぐる一連の事件で、13人の死刑囚全員に刑が執行された。
そもそも死刑の執行は刑事訴訟法に基づき、法務大臣の命令によって行われる。
Twitter上などでは、「上川法務大臣の死刑執行数が過去最多」という指摘もあがっている。ただ、これは正確ではない。
たとえば、1966〜67年に在任していた田中伊三次氏は、1度に23人の執行命令書にサインをしたことがある。
田中氏は命令書にサイン後、記者会見をしたという話も残っている。
現場に居合わせた元毎日新聞記者の勢藤修三氏は、著書「死刑の考現学」でこう振り返っている。
田中は新聞記者を前にことさら深刻げな面体を作り「只今二十三人の死刑囚の方々の執行命令にサインしました」とうず高い書類を指さした。各社のだれもが仰天した。
われわれは田中に、かかる厳粛なるべきことをれいれいしく公開した真意を訪ねたが、田中はこれに答えず「みなさん、このことを新聞にお書きになっても結構ですよ」といってのけたのである。
記者クラブでは「無視すべし、書くべきだの両論に分れた」といい、「結局、書いたのはサンケイ一社と記憶している」とある。
田中氏は、サンケイのカメラマンの注文に応じ、「数珠を片手に殊勝らしく書類にサインするポーズをカメラに収めさせ」たという。
実際、元「サンケイ」記者の俵孝太郎氏もこの会見のことを、著書「政治家の風景」にこう記している。
この発表を無視して記事にしなかった記者も多かったが、私は記事にした。死刑は、密行主義、といって、いつ、どこで、だれに対して執行したかについて、公式な発表はしないことになっている。
いかにも自己顕示的な田中のやり方には問題があるにせよ、密行主義に風穴をあけるためにも、書いた方がいいというのが私の判断だった
この会見が実施された日について、勢藤氏は1967年の「10月16日夕刻」のできごととしている。
ただ、BuzzFeed Newsが翌日の産経新聞(名称はサンケイ、国会図書館所蔵のマイクロフィルム)確認したところ、同様の報道は見当たらなかった。
なお、田中氏のWikipediaにも、この情報をもとにしたと思われる記載があるが、日にちは「10月13日」となっている。