「緊急性も必要性もない」のになぜ、自民党は憲法9条を変えたいのか。推進本部長が語ったその理由

    「自衛隊は平和国家の象徴で、国民の祈りを背負っている」。自民党の保岡興治・憲法改正推進本部長が語った「改正の理由」とは。

    自民党憲法改正推進本部は6月21日午前、全体会合を開き、憲法の改正議論を本格的にスタートさせた。年内の改正案作成を目指す構えだ。

    日本外国特派員協会ではこの日の午後、保岡興治・憲法改正推進本部長が会見を開いた。

    安倍晋三首相が示した9条改正案に対し、特派員からは「(自衛隊の)実態が変わらないならば必要性はあるのか」との厳しい指摘も飛び出したが、保岡本部長は「1回目の9条改正としては、誠に正鵠を得ている」と理解を示した。

    安倍首相は憲法記念日の2017年5月3日、憲法9条を2020年までに改正して自衛隊の存在を明文化する考えを、同日付の読売新聞インタビューなどで示している。

    そこで語られているのは、「自衛隊を合憲化する」ために、9条の「1項、2項を残し、その上で自衛隊の記述を書き加える」などの持論だ。

    そもそも安倍首相は憲法改正を目指す理由として、国会でこんな答弁をしている(5月9日)。

    「政府の立場では自衛隊は合憲である。しかし憲法学者の7〜8割が違憲とし、教科書にも記されているからこそ変えるのが私たちの世代の責任です」

    安倍首相の「9条改正案」をどう受け止めたのか

    会見で保岡本部長はこの点に言及。安倍首相の発言を「タイミングが良かった」と歓迎した。

    「そろそろ憲法のどこをどのように具体的に変えるか、改正の必要性は何か。案文の形で明確にして、論議する時代を迎えている。そういう時に、ちょうどというかタイミング良く、安倍首相が発言をされた」

    「非常にびっくりはしましたが、極めて鮮明で明確なご提案でした。本部長としては、総裁の意向をしっかり受け止めて、これを主要なテーマとしてまとめあげていくことが大切だなと思った次第です」

    そのうえで、 あくまで党内の議論はこれからであり、自身の「受け止め方」だとしながら、こうも語った。

    「自衛隊の諸君が命をかけて国を守り、災害救助に当たる。にも関わらず、それが違憲な存在であることが異常である。その議論の余地をなくしてしまおう、誰から見ても合憲だという改正をしようという提案であると理解した」

    「この提案なら国会の3分の2以上の議員の賛成を得られる可能性があり、国民投票の点から見ても9割の国民が自衛隊を信頼し、尊敬している現状がある。これは1回目の9条改正としては、誠に正鵠を得ている」

    保岡本部長はこのほか、推進本部で「高等教育の無償化」や、災害や戦争時に政府が持つ権限を決める「緊急事態条項」、さらに「1票の格差と参院合区問題」についても議論されていることを紹介した。

    相次いだ9条をめぐる質問

    特派員からは、9条に関する質問が相次いだ。たとえば、石破茂・元幹事長が安倍首相の方針に反対していることに関する質問もあった。

    9条2項には「陸海空軍その他の戦力は保持しない」「国の交戦権は認めない」と書いてあり、自衛隊を合憲化するうえで「矛盾が固定化する」という意見だ。

    この問いに対する保岡本部長の答えは「諦める」だ。

    「9条は自衛権を放棄したような内容になっています。要するに自衛隊は陸海空軍ではなく、戦力でなく、交戦権がないと言っているに等しい。いまも一見、矛盾しています。矛盾を矛盾としないとする解釈はそのまま残さざるを得ません」

    「石破さんの考え方を入れて改正するのであれば、友党の公明党は合意形成に参加しないでしょう。そうすると最初から3分の2を形成できないので諦める。難しいと、私は思っています」

    別の特派員からは「実態として自衛隊が変わらないのであれば、なぜ改憲するのか」。そんな厳しい質問も飛び出した。保岡本部長は言った。

    「おっしゃる通り、自衛隊の実態は変わらない。政府の合憲という解釈も変わらない。自衛隊の果たす役割も機能も、平和安全法制(安全保障法制)で整えた以上のものではない」

    「緊急性があるか、法的な必要性があっての改正かと言われると、それはありません。しかし、日本国の防衛の実力組織である自衛隊が、憲法にないことこそ異常なことです」

    一拍おいて、保岡本部長は自らの思いをこう語った。自衛隊は「平和国家の象徴」だという。

    「自衛隊は単なる実力組織ではなく、平和国家である日本の象徴であり、国民の祈りを背負ってるものだと私は思います。そういう自衛隊の存在意義を含め、国民誰一人、違憲であると言えない状況をつくることは、憲法改正において大いに意義のあることだと考えます」

    「いま、日本は世界の中で一番危険な火薬庫に隣接しています。北朝鮮その他尖閣諸島をめぐる中国の動きがある。こういったことを考えると、日本と極東、ひいては世界の平和を守ることにつながる大事な役割を担う自衛隊の存在を明記することは、世界にとっても明確な意思表示となる」

    2020年までに改正はできるのか

    自民党は2005年と12年に「自民党改憲草案」を発表している。この草案について問われると、「こだわらない」との見方を示した。

    「発議をするため、他の政党に幅広い合意形成ができる可能性が求めて動き出している。我々の憲法草案を参考にし、基礎にはしますが、こだわるものではありません」

    さらに、「2020年までに改正というスケジュールは実現可能か」という質問も出た。その問いに対する答えは「可能性はある」だ。

    「私の立場では来年の通常国会が終わるまでに憲法改正ができればベストだと思うが、そう簡単なことではない。全力を挙げて、できるだけ早く、改正発議と国民投票に到達するためにがんばる、という考えを持っている」

    「政局のトラブルさえなければ、非常に具体案になればなるほど、国民が理解をして、憲法改正なら早くやったらどうかという空気が広がると思っています」


    BuzzFeed Newsでは【自民党の憲法草案ってどんな内容? 何が消えて、何が加わるのか一目でわかる】という記事も掲載しています。