愛知県知事リコール署名の偽造疑惑、バイトを募集した企業の実態は

    アルバイト情報サイトには、「未経験者大歓迎!佐賀市で名簿の書き換え作業!!」との求人が掲載されていた。名古屋市に本社を置く企業による募集で、時給は900〜1000円だった。

    愛知県・大村秀章知事の解職請求(リコール)を求める署名活動で、43万5千筆の83%に不正が疑われている。

    佐賀県でアルバイトを動員した名簿の「書き写し作業」が組織的にされていたと西日本新聞と中日新聞がスクープ。報道を受け、署名団体側も佐賀で一部の署名が作成されたことは認めたが、アルバイト募集との関係は否定している。

    一方、都内のアルバイト情報マッチングサイトは、BuzzFeed Newsの取材に「署名偽造に関連すると思われる求人が過去に存在していた」と認めた。

    さらに2月17日付でプレスリリースを発表し、「署名偽造に協力するアルバイトの募集案件が投稿されていたとすれば、大変遺憾であり、そのような事態を防げなかったことを申し訳なく思います」と謝罪した。

    リコール署名は、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長の呼びかけで2020年8月からはじまった。名古屋市の河村たかし市長も協力をするなど、運動は広がりを見せ、11月に終了した。

    県選管は今年2月1日、提出された署名約43万5000人分のうち約83.2%が有効と認められなかったとの調査結果を発表した。県選管の調査によると、無効と判断された署名の約90%は同一の筆跡とみられ、約48%は選挙人名簿に登録されていない人の署名だったという。

    こうした事態を受け、県選管は2月15日、地方自治法違反の疑いで、愛知県警に被疑者不詳で刑事告発し、受理された。

    署名の不正をめぐっては、同県弥富市の市議会議員5名や碧南市の市議会議員3名が、自身の名前や住所などが不正に署名に利用されているとして、容疑者不詳の告訴状を名古屋地検に提出。

    一方の高須氏も「何者かが署名簿に偽造署名を紛れ込ませて活動を妨害した」として、名古屋地検に地方自治法違反などの容疑で容疑者不詳の告発状を提出している。なお、高須氏や河村市長は一連の不正への関与を否定。河村市長は「私も被害者」と訴えている。

    西日本新聞と中日新聞は2月16日、愛知県民らの名前や住所が書かれた名簿を、多数のアルバイトがリコール活動団体の署名簿に書き写していたと報じた。

    名古屋市の広告関連会社の下請け会社が募集したものだったといい、広告関連会社は関与を否定しているという。

    リコール署名の事務局側も報道を受け、同日に会見を開き、「九州で作成した署名簿があった」とした一方、署名簿には不備があり提出しておらず、事務局としてアルバイトを雇うなどはしていないと関係性を否定した。

    掲載されていた内容は?

    マッチングサイトに、今回報道されたものとみられる求人情報が掲載されたのは昨年10月22〜24日のあいだ。

    「未経験者大歓迎!佐賀市で名簿の書き換え作業!!」と呼びかけており、時給900〜1000円、交通費は500〜1000円だった。

    業務内容は「名簿の書き換え作業をお願いいたします。データをお渡しするので、それを元に修正を行っていただく」ものと記されていた。「行政からのご依頼になるので、お名前・住所・電話番号を一定期間管理させていただきます」とも明示されていた。

    サイトには「簡単な作業です分かりやすかった」(10代後半女性)「ただひたすら書く作業で大変でした」(30代前半女性)「緊張感はある内容でしたが楽しく作業出来ました」(40代後半女性)などという参加者のコメントも掲載されている。

    求人情報が掲載されたマッチングサイトは、BuzzFeed Newsの取材に対して「愛知県知事リコールへ向けた署名偽造に関連すると思われる求人が過去に存在していたことは確認できております」と回答。

    「求人を行った事業者様に対して事実関係の詳細な確認を行っている」「仮にリコール不正署名に関わりがある案件について弊社のマッチングプラットフォームが利用されたのであれば、大変残念に思います」とコメントした。

    求人が報道後の2月16日に非公開となったことに関しては、「守秘の関係からお答えいたしかねますので、求人事業者様に直接お問い合わせくださいますよう、よろしくお願い申し上げます」としている。

    また、愛知県警などの捜査がされているかについては「問い合わせの有無など捜査情報に関わる内容につきましても、回答は控えさせていただきます」とした。

    同社は2月17日に社長名でプレスリリースも公表。「知事のリコールを求める署名の中に偽造された署名があるとすれば、これは民主主義の根幹を揺るがす極めて大きな問題です」と批判。

    「署名偽造に協力するアルバイトの募集案件が投稿されていたとすれば、大変遺憾であり、そのような事態を防げなかったことを申し訳なく思います」と謝罪した。利用者向けの相談窓口を設置し、捜査の要請があれば協力するという。

    掲載した企業の事務所は…

    前出の求人募集を掲載していたのは、法人登記上は名古屋市内に本社を置くA社だ。登記には「広告代理業」「各種業務請負業」などと記載され、設立は2015年となっている。

    A社はチラシの作成や印刷、配布に関するポスティングサービスを運営しており、サイト上には、神奈川県厚木市に本店を置いていると記されていた。BuzzFeed Newsが2月17日午前に訪れたところ、社名は掲げられていたものの、人けはなかった。

    A社は別の相模原市内の住所を「首都圏事業本部」であるとも記していた。一昨年撮影のストリートビューでは看板が掲げられていたが、BuzzFeed Newsが同日午前に訪れた際は、すでに「もぬけの殻」となっていた。

    ホームページには名古屋市の本社や埼玉の事業所などの電話番号も記載されていたか、番号が使われていないか、無関係とする個人につながるだけだった。

    なお、この厚木市と相模原市の双方の住所は、名古屋にある別の広告関連企業B社のホームページ上などで、「営業所」ともされている。A社のポスティングサービスの名称も、B社が運営しているものとまったく同一だった。

    B社の昨年12月のプレスリリースでは、このサービスの「関東拠点」が相模原市内から厚木市に移転したと記されているが、この住所はA社の「本店」と一致。ポストにもB社の社名が掲げられていた。

    B社の営業担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「不正署名の報道に関連した問い合わせをいただいているが、本社では内容をまったく把握していない」と語った。

    A社とは「受発注の関係にある」と回答。A社の代表取締役が以前はB社に勤めていた人物であるとしたが、事務所が同じことなどの関係性については「把握していない」と述べた。

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